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8.25 即席ラーメン記念日

四角い窓から切り取られた
透明なゼリーのなかの景色。
白い枠の向こう。
島みたいに街に浮かんだ山肌を
なにかの生き物のような影がつるつると滑っていく。
蠢いているのは、大きな雲の影だ。
夏の影は漆黒。
蝉時雨に濡れる石畳に落ちる木々の黒い蜜。
落ちるほど蹴飛ばされ散らされる蜜のかおり。
子供たちの肌が湿度の高い空気を切って走り去っていく。
凌霄花が揺れる公園のベンチ。
どこかで生き残っていた軒先の風鈴が
時を止めようと静かに震える。
蔓性の植物は日陰の隅で音もなく螺子を巻く。
世界の螺子はいつでもこんな場所で
気づかぬくらいの低速で巻かれている。
水を撒く少年の手から滴る汗の匂い。
カブトムシとスイカの匂い。
白い枠のなかで鍋に泳がせた麺。
醤油味のスープ。
煮え過ぎたそれにそっと月を滑らせる。
湯気に消える思考の嵐。
空色の器に移して窓際の椅子に座る。
扇風機が夏の風と熱い吐息を交ぜる。

ハロー、みなさん元気ですか。
いつでもここであなたたちの夏を見ています。
ハロー、みなさん元気ですか。
入道雲が出てきました。
ハロー、みなさん元気ですか。
あなたたちの夏を見ています。
白い枠のなかで
こんな夏のまにまに。

825・即席ラーメン記念日
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