Skycrow

2000年生まれ/藝大先端

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『世界は贈与でできている』を読んで

『世界は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学』近内悠太 ひととひととの繋がりの根本は、一体なんなのだろうか。どうして、人はひとりではいきていけないのか。それを、ひととひととの間で発生する贈与という視点から捉えるのは非常に面白いと思ったと同時に、やはりそれだけでは言い切れない部分もあると感じた。だからこそ、一冊を通して、全体的にふんわりとした印象を受けるのかもしれない。(ふんわりとした印象を演出し、親しみやすくすることが筆者の意図だったのかもしれない。だが、

    • 共鳴する意志

      『香川一区』鑑賞日:3/1(水) ポレポレ東中野 “衆議院議員・小川淳也氏(50歳・当選5期)の初出馬からの17年間を追った『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年公開)は、ドキュメンタリー映画としては異例の観客動員35,000人を超える大ヒットを記録、キネマ旬報ベスト・テンの文化映画第1位を受賞し、NetflixやAmazonプレイムビデオなどで配信され、今なお広がり続けている。 続編への期待が寄せられる中、次作に向けて小川議員への取材を続けていたが、この秋に行わ

      • やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君

        『みだれ髪』与謝野晶子 新潮文庫 ごちそうさまでした!!!ある適度刺激的な表現に耐性がついている社会の中で生きている人間が読んでも、その生々しさに思わず赤面してしまいそうになる。しかし、それこそ等身大、リアルな表現で、リアルだからこそ、直視するのが恥ずかしいのだと感じた。この本が最初に発行された時、晶子は私とほとんど同い年の、22歳だったらしい。ひぇー。つまり私よりも年下の時に生み出した作品も多くあるはず。 ー「友のあしのつめたかりきと旅の朝若きわが師に心なくいひぬ」

        • 照りもせず曇りも果てぬ春の夜の朧月夜に似るものぞなき

          『源氏物語 巻二』瀬戸内寂聴訳 講談社 源氏は陽キャ・・・。。。。しみじみ。。笑 今更だが、源氏物語がいくつかの話に区切られていて、それぞれの中に異なった女性が登場してくるというという構成から、「女性は恋愛を上書き保存するが、男性は恋愛を別のフォルダに保存する」みたいな言葉を思い出した。本当にそうなのだろうか・・・。 巻二は全体を通して、源氏が私と同い年くらいのお話で、その勢いが故の不安定さに共感した。 花宴での「朧月夜に似るものぞなき」は、調べてみると、白楽天という

        『世界は贈与でできている』を読んで

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        • 読書記録
          25本
        • 映画記録
          1本

        記事

          弔いの月

          『うたかたの国』 松岡正剛 工作車 あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月(p189) 全体を通して、めちゃめちゃくらった。いま、自分が欲しいと思うことばかりで、正直、一度読んだだけでは全然足りないなと思った。内容を全部体に叩き込むために、ドラえもんの秘密道具のあんきぱんが欲しいくらい…。 特に、今『源氏物語』を読んでいることもあって、そこについての書いてある部分があるのも、なんだか嬉しかった。 ー「そもそも『源氏』はその全体が「生と死と

          弔いの月

          『だから、あなたも生きぬいて』大平光代著 講談社 大好きだったおばあちゃんと、何も言葉を交わすことができず、亡くなった後に再開するシーンで、思わず涙が出た。誰からも必要とされていない、居場所が無いと思っている中でも、「私」の存在を大切に思ってくれる人はいる。でも、それを感じることができないほどに、「いじめ」が人に与える傷の深さは凄まじい。 いじめを受けた時、彼女がそのいじめをした人ではなく、自分自身を傷つけたというのは、心の底では誰かが助けてくれると信じていたからこそだろ

          空き家になったばばの家が怖い

          『吉本興行の約束』大崎洋 坪田信貴 今度、大学のイベントで吉本の大崎会長と藝大の伊東教授の対談にご一緒することになり、今回、その予習?をしたいと思い、この本を手に取った。 対談をまとめたもので、前半は物足りなさも感じたが、3部、4部・・・と後半に向けて「吉本興行」という会社がどのようなことに熱を注いでいるのか、具体的に知ることができて面白かった。 特に第4部の清水義次さんをゲストに迎えた「地方創生」をテーマにした話が大変興味深かった。 「誤解を恐れずにいえば、東京にお

          空き家になったばばの家が怖い

          ナフタリン

          『みちかけの透き間』 宮永愛子 古本屋巡りをしている途中で、知っている名前がある、と思わず手に取った。忘れもしない、約半年前に、入試の小論文の課題として扱われていた文章だった。 文字は横書きだった。彼女の作品を、一度もみたことはなかったが、文字をたどる中で、勝手に想像して、入試が終わるとその安心感からか、全部を忘れてしまっていた。 想像していたよりも、ずっと静かで、ずっとどっしりとしていた。 作品自体も勿論素敵なのだが、それ以上に写真でみることによって、作品は決してそ

          ナフタリン

          藻掻

          『あなたにオススメの』 本谷有希子 講談社 高校生の時に好きだった本谷有希子の新作が出ていた!ということで購入。 帯には「気づけば隣にディストピア」というパワーワードがすとんと置いてある。 期待が大きかったからこそだが、正直、何か違うと感じた。 もっとぐしゃぐしゃな感じで・・・。。。リアリティーのある狂いがあると思っていた。だが、これは本谷さんの作品が変化したのではなくて、私自身の作品の受け取りかたが、作品の好みが、変化したのかもしれない。 熱がこもった細かいぐしゃ

          「自分」に触れる

          『ある男』 平野啓一郎 文春文庫 もしも私の名前が違う名前だったら、と小さい頃よく考えた。 私は、とても女の子らしい特徴的な名前を、すぐには読んでもらえない名前を、嫌だなと感じていた記憶がある。今は少し突っ掛かりのあるこの名前が話のきっかけになることもあり、知らない間に愛着を感じるようになった。 器に付けられた名前、あくまで誰かに呼んでもらうためのー。 相手が呼びたい名前と、私が呼ばれたい名前。 言われたことに対して、自分はなんだかまるでそういう人間なのかもしれない

          「自分」に触れる

          自然死

          『本心』(平野啓一郎著/文藝春秋) 「結局、その平凡さになんとなく慣れてゆくことが、この時代の人生なのだろうか?問題は、『生きるべきか、死ぬべきか』ではなかった。ー『方向性』としては、そう、『死ぬべきか、死なないべきか』の選択」だった。」 現在以上の圧倒的な格差社会にある未来の日本を舞台に描かれる物語を、未来の話だと思うことはできなかった。まさに今の世界における、圧倒的な共感。 あっちの世界と、こっちの世界。私も物心付いた時から、そういった感覚と共に過ごしてきたなと思う

          『古代への情熱ーシュリーマン自伝ー』(シュリーマン著・村田数之亮訳/岩波書店)

          「彼においては学問と人間とが分かち難いほどに結合してともに生長し、しかも大きな学問的成功と人間的完成とに達しているからである。」(p188)  生きることと学ぶことが、ぴったりと重なり合っている姿。それは側から見れば、人間らしさがあり過ぎる故に、人間らしくない姿として捉えられることもあったんだろう。 彼にとっては学ぶこと以外の事柄については、自分の喜びから外れたものとして捉えられたのかもしれない。 そんな彼を、私は羨ましいと感じずにはいられなかった。(特に英語の勉強に苦

          『古代への情熱ーシュリーマン自伝ー』(シュリーマン著・村田数之亮訳/岩波書店)

          「勇気」を培う/『ケアの倫理とエンパワメント』(小川公代著/講談社)

          「私たちが何を行い、何を知るにせよ、動物と種類を異にするものはすべて、それ自身を信じ、信頼するという理性の決断を源としています。このこと、すなわち信じるという理性の最初の行為は、それ自身が在るということと、ほとんど同じことなのです。」(p027,コウルリッジの引用) 「ケア」という言葉に強く惹きつけられて、ツイッターで紹介されていたこの本を手に取った。私は「ケア」に対して、あまり良いイメージを持っていない。それは、自分自身が他者との依存関係に対して、極度の嫌悪感を持ってしま

          「勇気」を培う/『ケアの倫理とエンパワメント』(小川公代著/講談社)

          『美術手帖 10月号 アートの価値の解剖学』

          痒いなぁと感じた。 アーティストと同じだけ、批評家の数が必要で、批評家が職業として成り立つための、公的な保証が足りていない。アートとは、国が守るべきもので、日本は特にその力が足りていない。構造を変えなくてはいけない。分かる、分かるよ、つまり、とにかく「お金がない」ということ。。。 高校時代も、今日本の舞台で活躍している先生方が、しきりに「お金が無い」と言っていたのを覚えている。 ううん、でもなんだろう、それって、凄く窮屈だな。 私自身は、日本の中で非常に限られた公立の

          『美術手帖 10月号 アートの価値の解剖学』

          『日本の童貞』(澁谷知美著/河出書房新社)

          ジェンダー論の授業を教えてくれていた先生の本。ジェンダー論は、一番好きな授業で、今、この瞬間を変えていく、という強いエネルギーのある時間に、いつもゾクゾクしていたのを記憶している。 女の友人と話をしていると、やはり性交渉の相手として「童貞はめんどくさい」という言葉を聞く。逆に男の友人と話をしている時も、「処女はめんどくさい」という言葉を聞く。それに対して私はまぁ、そう考える人もいるんだなぁ〜程度の気持ちで接していたが、この本を読んで、そもそも「童貞、処女=めんどくさい」とい

          『日本の童貞』(澁谷知美著/河出書房新社)

          『源氏物語 巻一』(瀬戸内寂聴訳/講談社)

          桐壺、帚木、空蝉、夕顔、若紫。 学校の古典の授業で扱ったイメージが強く、その時にあまり面白いと感じていなかったからか、なんとなく避け続けてしまった。だが、実際に読み始めると、自分が想像していた何倍も読みやすく、刺激的で、共感の多いことに驚いた。 読む前は、恵まれたルックス、恵まれた環境で、様々な女性と関係を持つ超プレイボーイの光源氏を、嫌な奴なんだろうなと思っていた。しかし、ただ単に嫌な奴だったら、こんなに長い間、愛され、読み続けられ、今日まで生きることはなかっただろう。

          『源氏物語 巻一』(瀬戸内寂聴訳/講談社)