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親が陰謀論者になった話

 2020年の初めから今に至るまで、毎日のように取り沙汰されている新型コロナウィルス問題。

全国一斉休校や緊急事態宣言等で今まで当たり前に過ごしてきた日常の崩壊が起きたり、夏の暑さの中でもマスクをし続けなければいけない日が来たりするとは誰しも想像し得なかったことと思う。


この新型コロナ騒動により、私の母は大きく変わってしまった。
コロナに関するニュースが頻繁に報じられるようになった2020年。その頃は、母も特に変わった様子はなく、コロナウィルスへの恐怖や不安を話すことも少なくなかった。
また、我が家は猫を飼っており、動物に感染した事例があるということもあり、感染症対策も人並み以上に行っていた。



 母が変わり始めたのは2021年2月頃。
もしかしたら、それ以前からそういった思想はあったのかもしれないが、私に対して表現し始めたのはこの頃だった。
始まりは2020年11月の米大統領選。トランプ前大統領が唱えた、不正選挙であるという主張だ。この情報に母が関心を持ち、調べ始めたのが陰謀論者になるきっかけだった。

母は元々、気になることがあるとすぐに調べるタイプの人間であった。上記の情報についてもネットやYouTube等様々な方法で調べたに違いない。その中に陰謀論に繋がる情報が紛れ込んでしまっていたのだろう。


話は少し逸れるが、以前から嫌韓、嫌中だった母。「日本の企業等が在日朝鮮人に乗っ取られる」というのが殆ど口癖のようだった。
そういった企業に対する不買運動も個人的にではあるが、行っていた。
側から見れば異常とも思えるほど、韓国や中国に対する嫌悪感が増す一方で、日本に対する愛国精神も増していった。

そのような思想を持つ母が、陰謀論にハマるのは、思えば必然であるように思う。

日々送られてくる、「コロナは茶番」「存在していないウィルス」「ワクチンで遺伝子組み換えが行われる」といった海外や国内の医療関係者やウィルスの研究者だと名乗る人物の動画や文書に私はどう反応していいのか分からなかった。
母が信じているものを真っ向から否定する勇気がなかった。

「読んでおく」「難しい問題だね」等当たり障りのない言葉で躱していた。


そんな日々の中で、これはもう母はまずいところまできているのかもしれないと思う出来事が起こった。
それはいつも通り送られてきた、サムネイルにコロナは存在しないと書かれた1本の動画だった。

その内容を簡単に要約すると、某県の市役所に男性が赴き、市役所職員の方に対し、コロナは存在し得ない為、ワクチンがあるのはおかしい。
行政に対し、ワクチン接種を差し止める申し立てをするという内容だった。
(既に削除されてしまい、現在見ることはできない)

その動画の中で男性は差し止める意思が本当であるという熱意を伝える方法としてか、
男性の発言が嘘であった場合、割腹自殺すると公的文書で残してきた。
しかし市役所側が男性の嘘を立証したら市役所が男性を自殺させることになるから自殺教唆になるとの旨を大笑いしながら述べていた。

母がこの動画を「この人すごい」という文章と共に送ってきた事実は、私を打ちのめすのに十分で、

こんな脅迫まがいのことをパフォーマンス的にやって退ける人物のことを「すごい」と感じる母はもうくるところまできてしまったのだと痛感した。

そこからはもう母は立派な陰謀論者となり、現在もそれは続いている。

三浦春馬さんの死はイルミナティと繋がっている。
世界中で幼児や児童の誘拐が起こり、米国の地下ではアドレノクロムを子どもから抽出している。
東日本大震災は人工地震だった。
これらは実際母から聞いた陰謀論の一部だ。

陰謀論を広める人は全てを辻褄が合うように繋げ、あたかもそれが真実であるかのように説明するのが本当に上手い。
実際に聞かされていると全てが見事に繋がっていく。



ここまで長々と母が陰謀論者になった経緯を書いてきたが、母は元々その気があったのかもしれない。しかし、このような事態は誰にでも起きうることと思う。

私は陰謀論が嫌いだ。全く信じていない。
では、母にその旨を伝えるなり、距離を取るなりすればいいではないかと思う人もいるだろう。

あくまで私の場合だが、そんなに簡単に割り切れるものではなかった。
いつか目覚めて陰謀論が間違っていると気がつく日が来るのではという思いがある。
また、母の思想を否定して、繋がりが修復不可能な状態になってしまうことへの不安も拭えない。

なら、このまま現状を維持して母から送られてくる情報を躱しながら上手く付き合っていく他ないだろう。
それは重々承知だ。

しかし、突拍子もない情報を真実だと思い、1日のうち何時間も陰謀論について調べ、その情報を私や家族に意気揚々と話す母を見ていると、堪らなくなる。
そんなことを信じてしまう人だとは思っていなかった。常識的であると思っていた。

私は既に家を出て、時折実家に帰るのだが、母から聞く話は9割陰謀論に関するものだ。
そんな母の話を聞くのが嫌で、ひたすら自分の話をして帰ったこともあるが、後日「お前は私の話を聞こうともせず、自分勝手だ」と怒られた。

母にとっては陰謀論は有益な情報なのだ。
無知な娘や家族に良かれと思って共有しているのである。
一種の慈善活動なのだ。

こんなことで、と思うかもしれないが私の心は限界だ。近い将来母と距離を置かざる得ないかもしれない。最近では、母と会った後、涙が出る。

きっと今このような思いをしている人が沢山いるのだろうと思う。
私は幸い家を出ているが、実家住まいで親が陰謀論者になってしまった人の苦悩は計り知れない。

私も含めて、自分を大切に、より良い選択ができることを願うばかりである。


周りに陰謀論者がいない人にも、コロナウィルスがもたらしたものは、経済の損失や生命の危機だけではないとどうか知って欲しい。

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