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【美術・アート系のブックリスト】 岡部昌幸著『暗号で読み解く名画 美術鑑賞がグッと楽しくなる!』 世界文化社

例えばキリスト教の宗教絵画では聖母マリアには百合の花やトゲのないバラ、聖ペテロには鍵、ギリシアの神話画ではゼウスには牛や鷲、ヘラにはザクロといったように、登場人物を象徴的に指し示す「持物」がありまして、そのことをアトリビュートといいます。これを学ぶと、暗号を解くように絵画の意味を読み解けるので、美術鑑賞が楽しくなるというのが本書の主張です。

同じテーマの本はこれまでに何冊もでていますが、本書は代表的なものだけに絞ることで比較的初歩の人にもわかりやすく説明しています。描かれたモノが寓意として象徴的に別のことを意味するのがアトリビュートの機能です。例えば鎌がギリシアのクロノスの持物なのは、クロノスが農耕神だからですが、さらに鎌が命を「刈り取る」道具として「死」や「時間」の擬人像に利用され、時間を司る「時の翁」と混同されました。一方で鎌は秋の収穫というもとの意味も直接表します。本書では、こうした歴史的、文化的な意味と即物的な意味の両方について言及していきます。もうひとつ例を出せば、同じバラでも、トゲのないバラは聖母の純潔を意味し、赤いバラはヴィーナスの愛の試練を意味するなど、1つのモノを作品ごとでどう理解するかを場合分けして教えてくれるといってもいいでしょう。

こんな調子で、天秤、弓矢、コンパス、鏡、楽器、冠といったモノのほか、動物や花などの自然の意味が解説されます。

しかしモノと意味が一対一で対応しているわけではないので、結局、作品のことを理解しようと思ったら、アトリビュートだけ覚えているだけではなくて、その前提となった新旧の聖書やギリシア神話を知っていなければならないということになります。またモノの指し示すところのものを知ったところで、その役割や存在の意味はわかりません。仏像が薬壷をもっていればそれは薬師如来です。しかしそれが分かったところで、薬師如来の意味はわかりません。民衆の苦しみを癒すことを病を癒す薬で象徴しているということが分かって初めて、薬という持物が意味を発揮するのと一緒です。

アトリビュートという暗号で作品を読み解くということは、美術鑑賞の入り口として有効ですし、それ自体1つの教養ではあります。そして背景となった歴史や神話からどう作品を理解するかが、本当の意味での鑑賞だと思いました。

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2021年4月19日

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