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ロンドンのジャパニーズガーデン作庭記


 英国で、景観デザイナーとして、長年仕事をしている娘から、自分が手がけた庭園の美しい写真を、私のアルバムに送ってきました。

 いつもミューコのエッセイは活字ばかりなので、偶には写真満載の画面にしてみたいと思っていましたから、チャンス到来です。

 娘は2007年に、庭園デザイナーの登竜門であるチェルシーフラワーショーシティガーデン部門で銅賞を、翌年ショーガーデン部門で銀賞を頂いて華やかにデビューを果たしました。

 以後、彼女が手がけた幾つかの作品に、自身の簡単な説明を添えてご紹介します。

「うつろいの庭」
2007年チェルシーフラワーショー
シティガーデン銅賞

 英国の永住権を取得して、独立してすぐに国際コンペにデザイン案を出したら通ってしまった のが 2007年のチェルシーフラワーショーのシティーガーデン部門でした。ブロンズメダルだったけど、RHS Encyclopaedia Garden Designの編集長が目を止めてくれてジャパニーズガーデンのページに写真を掲載してくれました。
ビクトリアのルーフガーデン

 2016年の作品でバッキンガム宮殿から徒歩3分ほどの個人住宅です。審美眼の高いこのクライアントの注文で、伊勢石や鮫島石を日本から運ばせて景石や、灯籠などを配置した凝った趣味です。

ウインブルドンのジャパニーズウォーターガーデン(上掲3点)

2020年のコロナ禍で英国が厳しいロックダウンを敷いていた時に依頼がありましたが、英国に入国できなかったので、ほとんどの作業を遠隔で行いました。植物を選ぶのも 、現場への指示もzoomで、現地の協力的で忍耐強い日本人ガーデナーさんとの協力で、完成できました。


メリルボンのベースメントパティオ

今年の4月に完成した庭。ロンドンの一等地のブロックフラット(マンション)で、クライアントはビルの駐車場の一部を買い取ってベースメントのスタディールームからの眺めにジャパニーズガーデンが欲しいと考えました。小さな敷地だけど制約がたくさんあって、とても難しい プロジェクトでした。結果としては審美眼の高いクライアントに満足してもらえたし、自分としても今までつくった庭のなかでもベストのほうかなと思っています。この庭はSGD (Society of Garden Designers) AWARDS 2025 にエントリーしています。



 日本人が英国で仕事をすることには、様々なメリットがありますが、それ以上に苦労も多いようです。

 何と言っても、英国では自宅で庭園を楽しむ風習が、生活の中に根付いています。従ってデザイナーを育てる環境も整っているし、仕事する機会にも恵まれています。

 苦労の最たるものは、人種差別の意識と、EU離脱の影響でしょう。
 人種差別をあまり持たない東欧のデザイナーや、 実際に施工する庭師さんたちが、EU離脱以降出ていったために、イギリス人を相手の現場作業では、自分の繊細な意図を伝えるのは、指示する人が女性であることも手伝って、かなり大変なことのようでした。

 それはともかく、何のご縁か、イギリスの大好きな娘が、30代の初めに日本の仕事を捨てて、単身ロンドンで大学院まで学び、イギリスの風土に助けられながら、活き活きと愛情を注げる仕事に勤しんでいる姿は、これらの写真よりもっと輝いて見えます。


サムネイル画像:「月影の銀色の庭」2008年チェルシーフラワーショー ショーガーデン銀賞

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