smc PENTAX-A 35-70mmF4について
前に写真家のニシダヨリコさんが、smc PENTAX-A 35-70mmF4なんて意外なレンズをお気に入りといってらして、はて、こんな変哲もない古い廉価な標準ズームが、と気になってました。
で、あべのandにあるカメラのナニワで2880円で見かけたので、ちょっと試してみるべく購入。一応クモリありってことだけど、確認させてもらうとそう酷い影響がありそうではなかったのでOK。
フランクで話好きそうな感じのいい店員さんが来てて、お店の好感度UP。
スペックなど
ネットに意外とスペック情報が見当たらなかったレンズだけれど、手元の資料(中村文夫『使うペンタックス』)によると、1983年発売で最大径65mm・全長62mm、重量330g。鏡筒が太いわけじゃないけど、フィルター径は58mmとPENTAXには珍しい大きめサイズ。
レンズ構成は7群7枚。ズームなのにたった7枚にまとめてます。
ズーミングは回転式です。焦点距離を書いてある細いリングを回す感じで、別に使いにくくはないけど少し不思議な感じ。
Aシリーズは標準ズームが多数あるんですけど、35-70mmF4は1983年発売では一番安いやつっぽいですね。85年に35-70mmF3.5-4.5が追加されて、そっちが最廉価になる。
古式2群ズーム&少枚数構成
でもって2群ズームなので、ワイド側で伸びる。これがまたよく伸びる。
2群ズーム自体は今でもざらにあるんですけど、ちょっと造りが違ってます。ワイドで伸びて中間で一番短くなり、テレでまたちょっと伸びるような動きになってます。
2群ズームを考案された形のまま作るとワイドで伸びるんですけど、この素朴な2群ズームは久しぶりに触るなあ。これだとズーム倍率あんまり大きくできなくて、2倍ズームくらいが限界といわれてたそうです。
2群ズームって、一眼レフ用としては理想と考えられてたものの、レンズも鏡筒も設計が難しくて、例えばニコンでも過去に苦しんでたのがニッコール千夜一夜物語第56回で語られてます。
PENTAXでは70年代末くらいから、コンピューター設計や工作技術の進歩で2群ズームが製品化されてきます。
光学的なことは雄山亭さんの記事がわかりやすい。
さらに、このsmc PENTAX-A 35-70mmF4は、PENTAXの標準ズームの中でも最も構成枚数が少ないレンズ。たった7枚のズームは、他にFA35-80mmF4-5.6だけですね(これは貼り合わせがあるので6群7枚)。
意外とこういう構成枚数の少ない廉価レンズって、安物だと思って馬鹿にしてると「おっ」という写りしたりするもんです。
AF時代に名玉といわれたsmc PENTAX-FA 28-70mmF4ALも7群9枚だし、ニコンにはわずか6枚の28-80mmがありますしね。
素朴かつ少枚数、意外とよく写りそうな条件が揃ってます。
ちなみに2群ズームは通常、ズーミングでF値が変動しますが、この35-70mmF4については広角側で微妙に絞られることでF値を一定にしています。
最短撮影距離
このレンズは最短撮影距離0.25mと、マクロレンズ並みに寄れますね。
K-70で、定規を最短距離で写してみたら、大体横に70mmくらいを写し込めました。1/3倍くらいの倍率。
90年代くらいまで、標準ズームのテレ端にマクロ機能がついたのがよくありましたが、2群ズームだとそういう機能を盛り込みやすいそうです。
ただし0.25mまで寄れるのはテレ端だけで、ワイド端だと0.6m。
ズーム位置で最短は変動して、50mmくらいまではかなり寄れるんですが、そこからワイドにするほど寄れなくなる。
もちろんこれMFレンズなんで、ピントが近すぎるとズームリングはワイド側に動かなくなり、ズーム位置がワイドすぎるとピントリングが近接側に動かなくなります。凝ったメカだなあ。
実写(K-70と)
さてカメラに取り付けてみると、Aシリーズのレンズなので、開放F値はボディに伝わるし、プログラムオートや絞り優先オートも使えます。
ただし焦点距離は伝わらない。手ブレ補正用の焦点距離入力を求められますが、今回はとりあえず中間の50mmにしておきました。真っ昼間だったしあんまり影響しないでしょう。
F6.7で、多分テレ端。
順光なのもあって、コントラストも発色もかなりよく出てますね。
こっちは広角端。F8。
絞ってるのもあって、カリッカリにシャープになってますね。歪曲収差も気持ち悪いほどは出てない。
なんかカリカリになりすぎてるのか、ファインシャープネス+1(右)だとジャギーが出ちゃうくらい。通常シャープネス+1(左)で自然。
これは50mm。F8。
50mmだとほとんど歪曲見えませんね。画面端に直線入ってるのにまっすぐだ。
等倍で見てもやっぱり、かなりシャープに写ってます。色もいい感じ。
ただ、APS-Cでも隅はちょっと甘いみたい。左上の甘さが大きいので、これは若干偏芯しちゃってるかな。まあ古いから仕方ないし許容範囲。
マクロ機能はどれほどのもんか、と試し。70mm・F4で大体最短くらい。
これは1/250秒でもちょっと手ブレ気味だったので、手ブレ補正の設定は70mmにしといたほうがよかったかも。
もうひとつ、70mm・F4。コントラスト高いなあ。
玉ボケになってるところはちょっと色付きの縁がつく。それから強いハイライトの周囲にブルーフリンジというか、青くにじむような色づきがあったりしてます。
玉ボケの縁については、これもファインシャープネスを通常シャープネスに変えると落ち着きますね。
癖が出まくった部分の拡大。右上のハイライトは青くにじんでるし、左の葉っぱは細かい光が色付き玉ボケの集合体になってすんごい色に。
しかし、こんな癖が出ちゃうようなボケは、普通は良いとは言わないはず。なんだけど、でもそんなルーペで見るような見方しなければ、なめらかでいい感じのボケに見えるんですよね。これはかなり不思議な味があるぞ。
同じ葉をワイドの最短で。F4。
画面左に出てる玉ボケ、やっぱり面白い形と色付き。ぐるぐるボケ感とかはあんまりないですね。そしてやっぱりピントが合ったところは開放から見事なシャープさ。
開放じゃなくてF5.6ですが、ワイド端でのボケ。
なんだか、ハイライトの周囲の青にじみが、フリンジとも呼びにくいくらい大きく出てますね。でも大きくにじみすぎて逆に悪目立ちしないから、悪い感じもしない。
テレ端の遠景もかなりシャープに写ってました。F8。
よく見ると通天閣の上に人がいますね。
等倍で切り出してみると、ここまで写ってる。
ワイド端と同様、テレ端でもファインシャープネスだとジャギーが出るくらいでした。これは通常シャープネスです。
まとめ
35-70mmの2倍ズームで、F4という暗めのレンズなんですけど、遠景はよく写って、マクロだと味がある。
もっとズーム比が大きかったり、ワイド端でも寄れたりする現代的な標準ズームのほうが利便性ははるかに高いんですけど、このレンズは利便性に全然手を伸ばしてないから、素朴に良い写りにまとまった感じ。80年代前半の廉価レンズだからこそ、ここに落とし込めたんでしょうね。
しかし、ちゃんと写ることに関しては、スペックと利便性を欲張らなかったおかげだと思いますけど、マクロの味はなんだろう。偶然かな。ここはもう少し使い込んでみよう。
デジタル一眼で使うなら、ファインシャープネスを切るのがよさそう。
フルサイズだと2倍ながらも標準ズームですけど、APS-Cだと52-105mmみたいな珍奇なレンジになっちゃいます。
ワイドで伸びるレンズでもあるので、「50mmまで引くこともできる100mmマクロ」くらいのつもりで使うとしっくりくるかも。
続きもあります。特徴的な収差や、ゴースト・フレアの出方について書いてます。
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