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上陸する銀の鳥

 人間共が暮らす陸地から沖に出て、大きく離れたところ。潮騒や海鳥の鳴き声以外は何もないところに、珊瑚の磐座――瑠璃の虫、そして銀の鳥の3姉妹が統べる小島が浮かんでいる。彼島の陸地の形や川の水位等を調整したり、木々や草花の面倒を見たりするのが彼女たちの役割だ。
 末娘の銀の鳥に課せられたのは花粉を運ぶ蜜蜂や蝶を、よそから運んでくる仕事だった。そして幾月もかかる旅を終えると、島にいるカモメや魚の友達と遊ぶ。そんな風に暮らすのだ。
 友達のなかで1番仲の良いのは赤い髪のお魚だった。
「ね、明日はいつに来る? 朝? それともお昼?」
「明日はだめ。朝から北の方に行かなくちゃ」
 相手からの返答に、魚の頬が膨らむ。もっと遊びたいのだろう。それは銀の鳥も同じだ。お魚のことは嫌いではないし、一緒に遊んだら楽しい。でも友達と等しいか、少し多めくらいに姉さんたちの方が大切だった。
 そして姉妹が各々の仕事に励んでいた、あるときのこと。深海の御殿から使者が来訪した。なんでもワダツミの皇子が銀の鳥を見染めて、妃として御所望なのだという。
 瞬く間に話は進んで、婚礼を間近にした夜。珊瑚の姉さんが白鞘の短刀を持ってきて、銀の鳥の眼前に差し出しながら言う。
「これは私の中で一番上等な石を用いて、私の中で最も熱い火と冷えた水を使って鍛えた剣だ。嫁入りの日には、これを懐に隠して皇子の許においき。もし夫がお前の心身を弄ぶことがあれば、この剣で突き殺せ」
「それは夫の後に、私も死ねということですか」
 銀の鳥がそう訊ねると、珊瑚姉さんの口元に薄笑いが浮かぶ。
「何を世迷言を。小賢しく愚かな男は死に、お前だけが生き残るのだ。そしたら、また私たちの島に帰っておいで」
姉の言葉に妹はひどく戸惑う。しかし何も言えないまま銀の鳥は婚礼の日を迎え、石を詰めた花嫁衣装に刀を携えて入水した。入水した先にある深海の御殿では、友達のお魚が待っていた。

【続く】

11月15日追記

書いた。



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