見出し画像

『あとひとつ』


テレビ朝日『神様に選ばれた試合 田中将大日本最後の15球』を見て、2013年、あの”熱い東北の秋”の記憶がよみがえりました。

被災した東北に元気を届けようとする楽天イーグルス三年越しの想いと、常勝を義務づけられている王者読売ジャイアンツのぶつかり合いは、レギュラーシーズン二十四勝無敗の『無敵の大エース』マー君こと田中将大投手をついに打ち崩したジャイアンツが土俵際で踏ん張って最終戦を迎えました。その前日の試合、味方の逆転を信じて最後まで一人で投げ抜いた田中将大投手の球数は百六十球を越えました。第七戦で最後に田中投手を使うなら、逆転をされた時点で降板させて翌日に備えることも考えられましたが、星野仙一監督は逆転を信じて最後までマウンドを田中投手に任せました。そして迎えた第七戦。野球を好きな人や実際にプレイしたことのある人ほどその試合の最終回に起きた出来事が信じられなかったと思います。厳しい球数制限のあるメジャーリーグの影響で、最近は日本のプロ野球でも先発投手が完投することが減りました。ですから前日百六十球を投げた田中将大投手が最終回のマウンドに立つとは誰も思わなかったと思います。ボクも驚いて思わず声を出していました。冷静に勝利だけを考える監督だったら、彼がどんなに志願したとしてもマウンドには立たせなかったと思います。番組はあの時の試合の中継では知りえなかった星野仙一監督の葛藤と決断、田中将大投手の想い、楽天の選手、コーチの想いを伝えます。田中将大投手に最後を託して負けたとしても、選手たちも大勢のファンも納得してくれる。負ける心配よりも『田中将大で勝った時の喜び』『ファンに与えられる、より大きな感動の可能性』星野仙一監督はそれに賭けたのかもしれません。FUNKY MONKEY BABYの『あとひとつ』の大合唱が響く中、黙々とウォーミングアップをする田中将大投手。ヒットを打たれランナーを背負っても、チームとファンのために懸命に投げるエースの姿に目頭が熱くなりました。「嶋! 落とせ! 落とせ!」星野仙一監督はバッターに聞こえることも構わずに叫んだそうです。精魂込めた最後のスプリットをジャイアンツ矢野選手のバットが空を切って試合は終わりました。七年前の夏の甲子園決勝再試合。空振りの三振で最後のバッターになった瞬間の田中将大選手の自嘲気味の笑顔。そして今、七年を経て日本の大エースに成長した田中将大投手がマウンドで喜びを爆発させ、両腕を高々と突き上げます。駆け寄ってきた選手にもみくちゃになって笑う田中将大投手の姿は最高に素敵でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?