有罪探偵

 嘘など吐いていないのに、なぜこうも蔑ろにされなければならないのか。
「だから言ってるでしょう。俺が殺したって!」
 困ったような顔で、警察官二人が顔を見合わせる。一人が深いため息の後に諭すように言った。
「事情聴取の結果、犯人はあなたじゃないという結論になりました。あなたの言っていることと現場の状況には矛盾が多過ぎます」
 もう何度目かになるか分からない結論を聞かされる。それを自分は認められない。
 今だってはっきりと思い出せるのに。
 キッチンにあった包丁を取り、心臓を狙って一突き。頭が沸き立ち衝動のままに同僚である道明(みちあき)を殺したのだ。
 動転した俺は道明の家を出て警察署へと向かった。自首をして今に至るのだがーー警察は俺が犯人ではないと言う。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう?
 釈放されて警察署を出ると女が立っていて、こちらへと寄ってくる。
「無罪なら流れに身を任せればいいのに、律儀な人だ」
 第一発見者の女だった。道明の隣人だという。警察署で俺が説明しているときに近くにいたから、彼女は事情を知っていた。
「死亡推定時刻が違う、凶器が違う、殺された場所が違う。殺された人物以外、全てが食い違ってるんじゃ警察もそう判断するさ」
「本当に殺したんだ」
「それなら仕方ないんじゃない?」
 パトライトが彼女の瞳に反射して、不思議な光を宿す。
「自分の犯罪を解き明かさなくちゃ」
「自分の犯罪を……解く?」
「探偵役は君だ。自分が有罪になるために探偵になるなんて、滑稽だね?」
 喉の奥で大層愉快げに笑う。多分この人は一筋縄ではいかない人だ。でなければ、こんな悪魔みたいに口角を吊り上げる訳が無いのだ。
「私が助手を買って出てあげる。自分で言うのもなんだけど、私は優秀なんだ」
 白いコートを翻して、背を向ける。
「では、君が道明さんを殺した現場に行こうか」
 そうして俺達は独自に現場検証を始めるのだった。


続く

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