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彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話⑦「2度目の貸し」


日本酒は後から酔いが回ってくるものだ。

ホテルの部屋に着くと、水2Lのペットボトルを抱えながら、わんわん泣いていた。
今思うと、なんとも見苦しい…!

95%会えないとわかっていたが、それが現実となると、精神的なダメージは大きかった。
「自分がやりたくてやったことだ」
綺麗に、なかなかそうは思えない。
私は相手に期待をしていたのだ。
波のある感情だけでなく、自分の意志にも迷いがあり、状況によってコロコロ変わる自分が嫌になった。

彼には明日まで福岡にいることを伝えた。
返事はなかった。

2日目の朝、見事に顔が浮腫んでおり、涙袋がナメクジのようで、鏡を見て笑ってしまった。
昨日のショックはあれど、せっかく来たのだから、不発に終わったことを受け入れて気持ちを切り替えていきたい。

2日目はホテルを予約していなかった。
低予算で計画していたため、夜は空港で過ごそうと考えていた。

チェックアウトは午前10時。
朝風呂後、NHKの救急隊ドキュメンタリーに見入ってしまった。
息子の自殺未遂現場を母親が見つけ、錯乱状態で救急隊に通報している場面だった。
他人事とは思えない内容だった。
何故このタイミングで見てしまったのだろうと思いながらも、放送終了まで見続け、部屋を出た。

駅前の店もほとんど開店前だ。私はキャリーケースを引っ張りながら、ホテル周辺を散歩することにした。

小倉北区。大通りの付近に、古いマンションやラブホテルなど、錆びれた1軒家が立ち並ぶ中で、意味深な立入禁止のテープが貼られた建物もあった。
やたらと囲われている建物も。
止まっている車は高級車やワゴン車。まさにといった空気感だった。

外に立って電話をしている男性がいたが、闇金ウシジマくんに出てくるような、金のラインの黒ジャージ。
見た目で判断はよくないが、おそらくそうだろう。

なんだか物悲しい雰囲気を感じた。
自分がそういったセンチメンタルな気持ちだったからだろうか。

彼は寮みたいなところにいると言っていた。

あの物悲しい土地で、彼の心が傷つくような言葉をかけられてはいないか。
暴力を振るわれてはいないだろうか。

自然と湧いた気持ちだった。

一通り歩くと、綺麗な公園を見つけた。
おじいちゃま方が数人、ビール缶や焼酎のパックを片手にゲートボールを楽しんでいた。
この光景は、どこも同じである。良い朝だと思った。

友人にお土産を買い、再び駅前を散策した。

(この人、薬やってるな)

(この人はどうして電柱を撫でているのだろう)

変な人しか目につかない。誰も気に留めない。ますますRPGの世界かと思ったくらいだ。
(後日、友人に電柱撫でおじさんの話をすると「龍如のサブストーリーだね」と言っていた。秀逸な返しに笑いがとまらなかった。)※龍如…龍が如く

書店で高速バスまでの時間をつぶす。
とにかく寝たかった。

午後15時20分頃、帰りの高速バスが到着した。
ドアが開き、ちょうど車内の段差に足をかけた時である。
彼から、メッセージがきたのだ。

なんてタイミングの悪さ…と思った。
内容をまだ見ていないのに。

「ア〇ムとかレ〇クでも無理だよね。。」

金の話だ。

それに、自分の名義では借りられないため、私名義で借りてほしいというのだ。
以前から、そういった消費者金融から借りて友人は貸してくれたということを聞いていた。
そして返済もした実績もあると。

私は彼がとても自分本位な選択ばかりしているように思った。
怒りボルテージが急上昇し、気が狂いそうになったが、彼を心配に思う気持ちも同時にある。
真逆の感情や考えがまとまりなく渦巻いた。
冷静さを失わないように意識するが、

「普通」、女から金を借りるもの?
消費者金融に借りさせるとは、どういう神経しているのか。
結局金か。
この男、完全に味を締めている。

彼の言動は今に始まったことではない。
わかってはいたが、その時は一瞬にしてそれらような激しい言葉が浮かんだ。

だが、私は甘かった。
苛立ちながらも、スマホでは消費者金融のHPを開いていた。
利用規約やサービス内容を読んでいた。シミュレーションでは満額借り入れ可能であることまで調べていた。
意志はまたしても揺らいでいたのだ。

この額なら、と魔が差し始めていた。

両親が長らく苦しんできた利息地獄に片足を突っ込もうとしていた。

彼は流暢に説明する。

初月は利息がつかないだの、
一括で返済もできるとも。

お金の話になると、饒舌になるのだ。

だが疲れた脳みそでも、一括で返済ができるは嘘だろうと思った。
利息を取らずして、消費者金融は何で飯を食べるのか。

私は消費者金融から絶対に借り入れはしたくないと、彼に抗った。
彼には初めて会った日に伝えていたはずだが、私は借金苦の両親のもとで育っている。
こどもながらに、借金の怖さを知っているのだ。

それを彼に再度伝えた。

「住んでる世界が違うからもう大丈夫。あと〇〇円だったんだけど、せっかく来てくれたのにごめんね」

なんとも煮え切らない言い方だ。

「本当に〇〇円あればこっちに戻ってこれるの?」

私は聞いてしまった。

「うん。でも、月曜日までに払えないと、もう〇〇円増やすって。。」
「〇〇円まで稼いだんだけどね。ブラックなところだと大して稼げない。」
(※実際やりとりした日は土曜日)

彼の育ての両親や、兄弟に相談したのかとも聞いた。
ちなみに彼の母親は離婚問題を抱えているらしく、私と出会った当初は、毎週母親のいる実家に帰省し、彼が母のケアをしていると話していた。

そのため、母親は息子の今の状況をどう捉えるのかと、同じ女として気になり、彼に聞いた。

「もう縁切れた」

あっさりしすぎではなかろうか。

私からお金をもらうチャンスを逃すまいとして、頼れる人がいないことを演出しているようにも思えた。

あんなに、彼を頼り、彼もまた、母親が一人で生計を立てられるよう、自分が独立したら事務員として母を雇いたいと言っていたのにも関わらずだ。

だが、彼がやっていることも、まともではない。
それが知られて、勘当されたというのもあり得なくもない。

私は、もう既に彼にお金を貸す方向に考えが傾いていた。
だが、無駄金にするつもりも更々なかった。
不安の種は潰し、最悪のケースは回避していきたいと考えた。

「もし〇〇円を渡して、また理由をつけられて帰ってこれなくなったらどうする?」
「あなたは本家の父親を信用できる?」

私は慎重に聞いた。

「〇〇円あればもう何も言わせない。それで何か言ってきたとしても、何がなんでも帰ってくる。」

彼の返しは根性論に近いものだった。
今、この記事を書いていて、もっと突き詰めるべきだったと、より反省である。
睡眠、食事など、規則正しい生活は正常な判断では不可欠であることがわかる。

私は彼の返済能力や計画性を知りたくなり、確認をした。

「あなたに〇〇円を貸すとして、私の人生背負う気ありますか?」

ドラマのヒロインのような事を聞いていた。
私も大変言葉足らずであり、まだ夢見がちな脳みそであった。
この問いは疲労感とは関係ない。恥を承知で、私がこう言ったのは事実だ。穴があったら入りたい。

「今すぐ結婚とかははっきり言えないけど、恩は必ず返す。」

彼もまた、抽象的である。
責任感というものを感じない。気持ちはある。
ただ、必死。そういう印象だった。

私は彼への違和感をことごとく無視する。
そして、話の引き出し方が下手すぎる。

私は、その返しを受けて、一度、踏みとどまった。
今決めてはいけない気がして、自分の母親に相談すると彼に伝えた。

「だとしたら、消費者金融とかの方が俺もまとめて返しやすいし、そっちの方がいいと思う。。それにみこのお母さんも納得しないだろうし。。」

彼は自分の守りに入ったと感じた。
その発言は、都合が良すぎる。
本当に困っているのかと疑う気持ちが増した。

博多に着き、警察署横の公園らしき場所で、私は母親に電話をかけた。
母親にも勿論、この弾丸ひとり旅のことは言っていなかった。
母親には彼とのこれらの経緯を話し、私の憶測も含めて彼の状況を伝えた。

母親は「彼の命が助かるならいいけど。でも彼には貸さない。みこにお金を貸す。」と言ってくれた。
その代わり、消費者金融から借りるのは絶対辞めてほしいと言った。
母の言葉で、私もその意志はブレてはならぬと強く思った。
今でもその意志は揺るぎないものだ。

結果、その日の夜。空港で過ごせないことを知り、雨の博多駅周辺で泊まれる場所を探した。
漫画喫茶の電子タバコスペースが運良く空いており、そこで寝泊まりした。

これで、2度、彼にお金を貸すことになる。
もう3桁の額を越えていた。

高速バス内での彼とのやり取りから、疑いも芽生えていたのは事実で、彼に現在の仕事について再度確認してみた。

「お金貸すのだから、教えて。
本当に裏社会の人なの?」

「そんなのいえるわけないでしょ。
仕事は人にいえるようなことはしていない。
とんでもなく悪いこともしてないけど。」

結局、何もわからない答えが返ってきた。
そのあとも突き詰めて聞いたが、はっきりしたことは何もわからず、彼の機嫌を損ねてしまっていた。

これが、人から金を借りる男の態度か。

高速バスに乗る前の彼への心配など吹き飛んでいた。

私の聞き方から見て取れるように、既に、金銭の貸し借りで生ずる力関係に固執し始めていた。

⑧に続きます。

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