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2-1: 奇跡の生還者からテロリストに転落した男

前回のルポに引き続き今回の冒頭もまた、驚愕のひと言で始まる。

この10日間はまさに怒涛の日々だった。

その間、私、青木亘の身に何が起こったのかについて知らない人は中々いないだろう。これは自意識過剰のウヌボレ文句などではない。

しかし、この広い世の中にはTVやネットを全く見ない人や、1時間ごとに記憶がリセットされる難病を抱えた人……

はたまたフェリー事故で漂流して10年の無人島暮らしの中、ある日、浜辺に流れ着いたこの雑誌をたまたま手にした人などもいるだろう。

そういう人たちのために周知の事実を改めて書けば、まず私は文春テロ犯の最有力容疑者に仕立て上げられた。

10日前、私は文春テロについて当事者の立場から事件ルポをこの雑誌に書いた。それを機に、私に犯人の疑いがかけられるようになったのだ。

「犯人でなければ知りえないことが書かれている」

「この記事はテロリストによる悪趣味な自己達成アピールだ」

「青木は外注じゃなく、害虫ライターだった」

こういった意見がSNSで出回り、それがTVのワイドショーに飛び火して私が文春テロ犯ではないかと疑われるようになった。

大勢のマスコミが私の家に駆けつけ、外に一歩も出られなくなった。事が事なだけに私も相当の被害を覚悟していた。

だが、まさか高校時代の元カノにまで嫌がらせ電話がかかったり、PCがハッキングされて児童ポルノ動画が山ほどダウンロードされたり……

はたまた家の壁に、私の顔に似せたガスマスク姿のネズミがバンクシーの落書き並みに上手に描かれるとまでは思ってもみなかった。

一方で、わが素晴らしき編集長はそんな苦境に喘いでいた私に、「金のなるうちに何でもいいから書いて寄こせ」とメールを送ってきた。

だが、それはムリな相談だった。

なぜなら事件から1週間後、私は自宅にやって来た警視庁の刑事たちから任意同行を求められたのだ。


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