見出し画像

お客様を離島に置き去りにした時のこと

添乗員2人体制のツアー

ツアーコンダクター(添乗員)は、同僚と一緒に仕事をすることがほぼありません。ツアーに出るのは大抵ひとり。お客様とバスの運転手さん、ガイドさんが運命共同体となって旅をします。それでも時々、修学旅行や社員旅行などでバスが複数台必要なツアーでは添乗員が複数同乗することがあります。

ある時、バス二台で行くツアーの添乗をする事になりました。1人の添乗員がバス二台を担当することもありますが、この時は私と先輩でバスを一台ずつ担当しました。九州の離島に一泊二日で行くツアー。初めてのコースでしたが先輩と一緒なのでとても心強い気持ちでいました。

1日目は観光地を巡りながら、船に乗って宿泊先の島に到着。お客様への案内、夕食等を終えました。2日目は島内を観光後、船に乗り島を離れ、バスに乗り換えて帰路につきます。島内を観光し終わった後、港についたのが少し早かったので、お客様には先に乗船チケットをお渡ししました。お客様には乗船時間まで、お土産屋さんでショッピングをしたり、船着き場で写真を撮ったり、散歩をしたりなど思い思いに過ごして頂きました。

出航時間になって、船に乗っていないお客様がいらっしゃらないかどうか先輩添乗員とお土産屋さんの店内や乗船乗り場周辺などを確認してから乗船し、無事出航しました。

お客様が船に乗っていない!?

出航してから10分くらい経って、船員さんから報告がありました。

「ツアーのお客様2名が港に残っています!!」

えっーーーーーーーー!!

私も先輩添乗員も顔面蒼白。

「すぐに港に戻ってもらえますか??」(無理と分かっていながらお願いするしかないので・・・・・)何度かお願いしましたが、他のお客様もいらっしゃるので引き返すのは難しいとのこと。

ガーーーーーーーーーーーーン!!

結局、港に取り残された2名のお客様には次の船に乗ってもらうよう伝えてもらい、先に着いたお客様については先輩添乗員がバス2台を引っ張ってツアーを続行することになりました。次の船の到着が2時間くらいあいてしまうため、先に着いたお客様に待っていただく訳にもいかず、私が2名のお客様を港でお迎えしてJRで帰るよう手配しました。

置き去りにされたお客様の意外な反応

島に置き去りにしてしまったお客様は、60代くらいのお母様と30~40代くらいの娘さんの親子で参加された方でした。私が担当していたバスのお客様です。遅れた船で港についたお客様は、何とも言えない表情で小走りに私に駆け寄って来られました。

「すみません、本当にすみません、トイレに行ってたんですーーー。」

あっーーーーーー。出航前にお土産屋さんの店内は確認しましたが、店内のトイレは確認していませんでした。私はお客様に平謝りし、バスは先に出発したことと、私たちはJRで帰ることを伝えました。

私はお客様からの厳しいお叱りを覚悟して港でお待ちしていたのですが、お客様からの表情や言葉からは全く私を非難することなく、むしろ自分たちの行動がみなさんに迷惑をかけてしまったとあまりにも恐縮なさるので、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。(いっそのこと思いっ切り怒られた方が良かった)お客様には添乗員が本来お客様の安全をお守りすることや、今回は乗船の確認がきちんとできていなかったことをお詫びし、お客様には非がないことをお話しました。親子で旅行をするのが好きで募集のツアーにもよく参加されており、離島に行くのは初めてだったと話して下さいました。これをきっかけに大好きな旅行を控えるようなことになってしまってはならないと感じ、JRの車内で必死にお客様へお話ししたことを今でも思い出します。

怠慢

ツアーが終わって事務所に出勤した日。事務所の玄関をくぐるやいなや、支店長のもとへ一直線。ツアーでの失敗について謝りました。すると一言。

「添乗員の怠慢だ!」

返す言葉もありません。状況の報告をし、今後の改善点が分かりました。①確認をする時は「いる」確認をすること(私は今回お客様がお土産屋さんの店内にいない、乗船のりば付近にもいないという確認からお客様は全員乗船しているという判断をしてしまいました)②乗り物に乗る際はチケットを乗る直前に渡すこと

入社二年目で添乗員の基本中の基本を学びました。

失敗は気の緩みから

今後同じ失敗をしないように改善点を見つけることはできましたが、このツアーに関してはそもそも私の仕事に対する姿勢が影響しています。それは①先輩添乗員と一緒で安心という気持ちになり気が緩んだこと。②入社二年目でツアーに出ることに慣れてきたこと。自分の仕事に対する気の緩みでお客様に迷惑をかけてしまいました。

このツアーが終わっても、お客様であった母娘が気になっていたのですが、数か月後、私が担当するツアーで再会しました。添乗準備の時にこの母娘の名前を名簿で発見した時はホッしました。

毎日新鮮な気持ちで仕事をするには

サービス業に携わる人間にとっては日常でも、お客様にとっては非日常。

この一件から、毎日新鮮な気持ちで仕事をするにはどうしたらいいか考えるようになりました。そしてわかったことは、自分でもできるだけ自分なりの非日常を経験し、その時の気持ちを胸に刻んでおくことだと感じています。例えば、日頃なかなか行けないレストランに行ってみたり、好きなアーティストのライブに行ってみたりすると、受けたサービスに感動したり、好きなアーティストからエネルギーをもらったりできます。お客様へサービスする前に、その時感動した自分を思い出して気持ちを日常モードから非日常モードに切り替えることが、お客様に喜んで頂ける接客に繋がると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?