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生き残りを賭けた仁義なきM&A

ニューノーマル、いわゆる「新常態」という言葉が世界を駆け巡っています。コロナ禍の中、世界のマーケットは「いける」企業と「いけない」企業の選別が徐々に進行していることが窺えます。

10月21日の日経電子版には以下の記事が。

”政府・与党は株式を使ったM&A(合併・買収)について、買収される企業の株主の税負担を大幅に軽減する。現在は国が計画認定した再編案件にのみ税優遇を認めているが、使い勝手が悪く、利用が進んでいなかった。この現行制度を改善し、認定がなくても税優遇を受けられるようにする案を検討する。税制面からM&Aの活性化を後押しする。”

「座して死を待つ」ぐらいであれば、買収されて多少の痛みが生じたとしても従業員の一部が生き残り、株主が納得するのであれば、積極的にM&Aを推進していく、ということですね。

先日の「ガイアの夜明け」で「コロワイド」さんの買収劇を時系列で追ったドキュメントは、面白かったです!

そして2020年10月22日現在、「島忠」さんをめぐる買収劇の幕が切って落とされました。

今回は、この2つのM&A、「ガイアの夜明け」に登場した大戸屋さんをめぐるコロワイドさんの買収と、島忠さんの買収について20.315の感想をまじえながら紹介していきます。

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大戸屋HD、コロワイドの傘下へ

外食業界がコロナ禍の中、業績を落とし店舗閉鎖や人員削減を行っていることは周知の事実です。特に夜がメインの居酒屋系店舗が大苦戦しています。

これだけ「宴会は注意」「大人数の飲み会は控えて」と世の中がうるさくなっているのですから、苦戦して当然です。
かくいう20.315もこの10カ月以上、飲み会はありません。
(無駄な会議や飲み会が激減してハッピーな人も多いでしょう)

外食企業の経営層にしてみれば「コロナめ、恨み骨髄に徹す」という心境ではないかと思います。

ワタミの渡辺会長が「唐揚げのテイクアウト業態を推進し、既存の居酒屋を焼肉店にする」と業態転換を進めていることも、頷ける措置です。

さて、コロワイドですが、所有するブランドはほとんどが宴会や飲み会を想定した居酒屋業態であり、これまで買収した会社もかっぱ寿司やフレッシュネスバーガーなどの専門店で、いわゆる「定食」ブランドはありませんでした。コロワイドにしてみれば、昼がメインの定食業態は食指が動く「欲しいブランド」のひとつだったのです。折も折、コロナの影響で居酒屋業態のブランドは閑古鳥が鳴く状態。

「コロワイド、約200店舗を閉鎖」というニュースが流れてきたのが2020年5月。赤字を垂れ流すぐらいなら、閉鎖して効率化を図るのは当然の措置です。

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大戸屋も定食とはいえ、コロナ禍の中で売上は激減していました。大戸屋の売りは「安心安全メニューの店舗内調理」で、客の注文を受けてから調理するというスタイルです。

20.315も大戸屋には時々行きます。どんなメニューも、確かにおいしい。ただ、不満を言えば「注文して料理が届くまで」がやはり時間がかかる。そして、結構値段が張る、という2点です。

この2点に注目したのが、コロワイドです。

「早い、安い」は日本人にとってお店を選ぶ重要なファクターです。すき家やガスト、サイゼリヤなどはセントラルキッチンで調理しているため、大量生産が可能で、大量に作るため安くできるのです。

「早い、安い」そして「おいしい」なら多くの日本人は行くでしょう。

そして、6月25日の大戸屋HDの株主総会。予め提出していたコロワイドの株主提案は多くの株主に否決され、大戸屋HDは買収防衛できたかに見えました。この段階では、個人株主の多くが「効率さ」だけを求めるコロワイドの提案には賛同しませんでした。ガイアの夜明けの中で女性の株主が「店内の手作り調理がいいのよ」とも言ってましたね。

2週間後の7月9日、コロワイドは大戸屋HDのTOB(株式公開買付)を発表。何と1株3081円で買う、と宣言したのです。前日まで2000円近辺だった株価を「3000円以上で買いますよ!」と発表したのです。

翌日、大戸屋HDの株価は急騰。

10年来の株主もいたでしょう。TOBと聞いて急遽、大量取得に動いたにわか株主もいたでしょう。

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9月8日。TOB終了と同時に、コロワイドは大戸屋HDの株式を46.77%保有する大株主になりました。TOBは成立し、コロワイド側の勝利となりました。

昔からの株主にも、にわか株主の中にも大金を手に入れた方も少なくないでしょうが、これが資本の論理です。

10月20日、大戸屋HDは「臨時株主総会招集」を発表。現・窪田社長以下10名の取締役解任と7名の新しい取締役を選任する議案を提示しています。7名は当然、コロワイド側が送り込む予定の取締役です。

新しい取締役の中に、「三森智仁」という方がいらっしゃいます。この方、実は大戸屋HDの創業者の長男です。

ガイアの夜明けでも取材していましたが、三森さんは2013年に大戸屋に入社しています。次期社長含みだったのですが、創業者である父親が2015年7月に亡くなってしまいます。現社長の窪田さんとのそりが合わなかったのか、彼は2015年~2016年の間に大戸屋を去っています。創業家として19.16%の株を持ったまま、大戸屋を退職したのです。

コロワイドは、この19.16%の株に注目していたのでしょう。
三森さんとコロワイドがいつ、どんなかたちで接触しはじめたかはわかりませんが、2019年12月、コロワイドは三森さんの19.16%の株を買い取ります。つまり、2019年末の段階で、コロワイドは大戸屋HDの筆頭株主に躍り出たわけです。

コロワイドの大戸屋HDへの買収は、この時から実質的にスタートしていたわけです。

今回のM&Aにおいては、コロワイド側の綿密な計画と見通しで買収が成立しました。この間、株主の中には「大戸屋の店舗内調理はどうなっちゃうんだろう」と不安を訴える方もいました。また、大戸屋HDの社員の有志が集まって記者会見し「コロワイドによる買収反対」を表明するなど、経営層でない社員からの訴えも注目されました。こうした経緯を見ると、大戸屋HDという企業は「いい会社なんだな」という哀愁も感じます。

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しかし、情緒に訴えることと、経営の舵を取ることとは全く次元の違う話です。どんなに愛着のある会社の株主でも、大金を目の前にすれば「売る」のです。自身がボロ儲けできれば、それでいいのです。それが資本主義の論理なのです。

それでも、現・窪田社長の心中を察すると胸が痛みますね・・・。

ただし、コロワイドが大株主になったといっても、発行株式の過半数を握ったわけではありません。

創業家の長男が返り咲く予定ではありますが、この三森さんを含めて新しい経営陣の元、大戸屋が復活できるかどうかも、未知数です。

今後の動向も注視していきたいですね。

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島忠をめぐるM&Aに、村上氏の思惑

コロワイドによる大戸屋HDの買収以上に、島忠をめぐるM&Aは複雑さを増しています。

ホームセンター業界は、このコロナ禍の中でも外食とは真逆で非常に元気な業界です。概ね売上も増加していて、過去最高の売上を計上した企業もあります。

DCMHDが島忠買収を発表したのが10月2日。両社の社長が記者会見し、良縁であることを印象付けました。

DCMは北海道のホーマック、東海のカーマ、四国のダイキという各ホームセンターを擁する持株会社ですが、関東や関西、九州などのホームセンターがなく、店舗網の課題を抱えていました。島忠自体も今後の経営を見据えて、DCMに参加することが自社にとっても効率経営上有利だと計算したのでしょう。DCMなら「島忠」ブランドも残りますしね。

発表時からDCMHD、島忠の株価は急騰。相思相愛のM&Aに株主も大いに賛同するかたちになりました。

ところが、10月21日、業界の巨人、あのニトリHDが島忠の買収を検討しているというニュースが流れます。

マーケットは驚愕しましたが、もっと驚いたのは当のDCMHDであり、島忠に他なりません。

DCMHDの株価は一転して急落、逆に島忠はさらに一段と急騰。

マーケットは現状、ニトリHDによる島忠買収を歓迎している格好です。

10月23日現在、ニトリHDは正式な発表を出してはいませんが、10月21日に発表した「昨日の一部報道について」と題する文書には、次のような内容が書かれています。

「当社は、当社のロマンと中長期ビジョンの達成に向けた経営戦略を策定しており、その一環として、株式会社島忠も含め、M&Aを通じた成長の可能性を日々検討していますが、現時点で決定している事実はございません。」

こうした企業文の中に「ロマン」という言葉を入れ込むところが、ニトリHDの凄いところです・・・。

島忠の株主からは「おまえんところは、ロマンで買収するんかい!」との批判がでてきそうですね。さすがのDCMHDもM&Aで「ロマン」を持ち出すことはないでしょう。

こうした中、島忠買収ドラマに、第3者として全く別の役者が登場します。

村上世彰さんです。

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10月21日、関東財務局に村上さんが関係するシティインデックスイレブンスが大量保有報告書を提出、島忠の株を8.38%保有していることが明らかになりました。

保有の目的は「投資及び状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為などを行う」としています。

実はこれ以前から、村上さんは南青山不動産を通じて2.1%保有しています(南青山不動産も、村上さんの投資会社です)。

シティと合わせると10.48%になり、島忠の大株主です。
※但し、南青山不動産が短期売買していれば比率は異なる可能性があります。

ロイターの取材によると、シティ側はこう表明しています。

”島忠の完全子会社化を目指すDCMホールディングス<3050.T>の株式公開買い付け(TOB)に対する島忠の意見表明報告書には、広く買い手を募って島忠の株主価値最大化を模索した記載がなく、「非常に疑問に思っていた」と指摘。島忠の取締役会および特別委員会で買い手候補を広く募り、その中からベストプライスを追求すべきとの考えを表明した。”

さらに村上さんはこう言っています。

「DCMが提示したTOB価格では1630億円。島忠は純資産が1815億円あるのだから、この提示は安過ぎる。会社を売却すると決めた以上、島忠の取締役会はベストプライスを追求する責務がある」

ニトリHDは潤沢な資金を所有する超優良企業です。買収価格をDCMよりも高く提示できることは自明です。

ちなみに、似鳥会長は株式相場や為替相場を読む天才、と言われていますが、近未来の家具業界やホームセンター業界、世界の業界地図までも見えているのかもしれません。

ニトリHDは遅くとも、11月上旬までには具体的な計画を発表するとの情報もあります。どのような発表をするのか、島忠株を持っている株主にとっては期待が膨らんでいることでしょう。

村上さんの動向から、島忠買収をニトリHDに持ちかけたのは「もしかして村上さん?」と勘繰ることもできますが、これはあくまで20.315の妄想です。

村上さんにしてみれば、買収価格が適正と判断できれば、おそらくDCMHDでも、ニトリHDでもどちらでも構わないのではないかとも思います。

そのニトリHDだって、今回はまだ正式に買収提案を発表したわけではありません。似鳥会長がホームセンター業界の関西の雄、コーナン商事の社外取締役を務めている関係から、ホームセンター業界の再編を主導する機会を虎視眈々と窺っている可能性もないとは言えません。

DCMHDにしてみれば、ニトリHDと村上世彰さんという想定外のキャスト登場で、一波乱起きそうな雰囲気になっています。

非上場ではありますが、売上高業界トップのカインズだって傍観していい筈はありません。店舗数トップのコメリはどうするんでしょうか。

今後、ホームセンター業界にも目が離せない状況が続きます。

外食やホームセンター業界に限らず、ニューノーマルの時代はいろんな業界で企業再編、M&Aが起きるでしょう。

ところで・・・最後になりますが、どこか「三菱自動車工業」を買収してくれる企業はありませんかー?

どこかのファンドでもいいですよ・・・。

20.315の含み損が凄いことになっていて困っているんですよ!


※ヘッダー写真は「一般社団法人ベンチャーキャピタル協会」HPから
※大戸屋の写真は「タイランドハイパーリンクス」HPから
※甘太郎(コロワイドが運営)の写真は「お一人様のお手頃ランチブログ」から
※ニュース画像はライブドアニュースから
※札束の写真は「素敵にAhaha Life ☆」から
※島忠の写真は島忠のHPから
※村上世彰さんの写真はテレビ東京から。



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