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定点カメラ#10 ロケハン--“なにか”が見えた、気がしなくもない--

自主制作映画『キャンバス』の制作過程を追う「定点カメラ」。今回で10本目。
脚本の完成が見え、各方面で心強い協力者たちが集まりはじめた。
映画の登場人物たちにかたちを与えてくれる、キャストさんが決定。

ここまでが前回の定点カメラ。

そして……
3日間かけて、やってきました。ロケハン。
監督、カメラマン、(事務というか「メモ係」)の3人で、撮影に使う予定の場所を巡ります。

ロケハンとは、「実際の撮影前に、事前に撮影予定地を下見すること」を意味する言葉。
ですが、「下見」という言葉には集約できない“なにか”がありました。あったような気がする。あったかもしれない。

そこで今回の定点カメラでは、メモ係のフィルター越しに、ロケハンでの収穫と、監督とカメラマン姿を記録しておこうと思います。

7月15日

ロケハン初日。
主人公(はる)の自宅として使わせてもらうことになった、監督の弟くん宅へ。

はるのベッド。
はるがご飯を食べる机。
はるが毎日見る景色。

ドキュメント上の活字の集合体だけでは、どうしても想像しえなかったあれこれが、湧き出して止まらない様子の二人。
何をどこまで映すのか、具体的な空間に身を置いてはじめて見えてくるものがあったようです。

zoomの脚本会議では議論が紛糾していたラストシーンが、この場で決定。
長い3分間の沈黙を共有しました。「これでいい」ではなく「これがいい」。
恍惚とした表情の監督。
その目には、まだ居るはずのないはるが、完全に見えていました。

7月16日

2日目。
野外撮影に使いたい場所を求めて、ひたすら歩きます。
映画の舞台は京都。鴨川を使わない手はありません。

北山から三条までの道中、監督とカメラマンは、終始冷静にキャッキャしていました。
鳶を見つけて、「これ撮りたい」
その声を聞いて、「この鳴き声の後に、こういう音入れてさ」
飛行機雲を見つけては、「こんなインサートどうかな」
映画のカットに全ての脳の容量を使っている彼らには、目に映るものすべてが映画に直結して見えていたらしく。
鴨川の流れの向き、鳥、雲……万物に「うわぁ〜、ナイスー、ありがとう」と、感謝する始末でした。

とあるレンタルスペースを見学。
その後、かもがわカフェと六曜社珈琲店へ。
マスターのご厚意で今回、この二つの喫茶店を撮影に使わせていただけるんです。

ここでも、2人の映像イメージは膨らみ、収束し、そしてまた膨らみ……

7月17日

3日目。屋外撮影候補地巡り。
いくつかの場所を回った末にたどり着いたとある公園で、見つけてしまいました。
「絶対ここだ」
私メモ係は、3日間を通じて、「絶対」これ撮りたいという言葉を何度も観測しました。
果たしてどれだけ映像に反映されるのでしょうか。

午後、マドンナ、ヒロイン役の自宅として貸してもらう女の子の家へ。
監督とカメラマンの女性への理想像が爆発して止まらず、家主とメモ係は苦笑いしかできませんでした。というのは、ここだけのお話で。

何をどう映すか。
そこにどんな意味を込めるか。
3日間、嬉々としてカット割を考え(妄想し)続けていた二人。
長いロケハンの終わり、疲労感に包まれた車内で、ひとつの質問をしてみました。
—--この3日間のロケハンをひとことで表すと?
カメラマン:「恐怖。」
監督:「力不足。」
ネガティブな言葉の裏に、『キャンバス』を良く撮りたいという二人の気概が見えた気がします。

今回のロケハンで脚本が実体になってきた感覚が、私たちの中にはあります。
ひっくり返せば私たちの中にしか、ありません。
実際には何ひとつかたちになっていないという事実に驚きます。

というか、撮れるのか……?
次回、脚本完成……?

文責:萌恵子

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