見出し画像

【画廊探訪 No.0023】水底にとどめる心を壁に埋め込み ―――森井宏青展に寄せて――

水底にとどめる心を壁に埋め込み
―――森井宏青展に寄せて――
襾漫敏彦
 地方のある城下町に赤壁という土の壁がある。語り伝えによると、交渉の場で騙し討ちにされた侍達の血を吸った壁を、幾度、塗りなおしても、血の赤い色が染み出してくるため、終には、赤く塗り潰したそうである。

 森井宏青氏は、水辺の風景を求めるという。しかし、水のある風景というより、自分の顔が映る水面(みなも)の彼岸に潜み沈むものを問うているようである。それは、ダムに沈んだ村を知るためか、水底に残した自分の欠片(かけら)を探しているのかもしれない。

 森井氏は洋画家である。彼は、画布に下図を作る際、まず木の板に画の原風景を描きこむ、滝、森、湖水、そして無数の人の様態を、心の限りを許すまで。作者は、
画布を板に重ねて版木を刷るように転写していく。画布の上に左右対称に写し取られた想念の影法師を、今度は、塗り潰すかのように具材を加えていく。

 森井氏は、書き込んだ多くの姿を塗り潰していく。それは、様々な想いを静寂の白き湖の底へと押し沈めて行く作業でもある。それでも残るのが「恨」とでもいうべき水を汚す無様な人としての有り様なのであろうか。

 彼は、昔から水面を鏡として自分の姿を写し見ていたのであろう。しかし、彼の見ていたのは、左右反転した自分なのである。客観とは、何かに投影して反転した自分を見ることでもあるが、彼の技法は、奇しくも、その虚構の隙間に滑り込む。しかし、森井氏の本意は、水の下から、湖を覗き込む自分の表情を表現しようとしているようにも思う。


***

森井宏青さんに出会った頃は、フィンランドで活動されていました。

鷹見さんのことを覚えておられて、その話で盛り上がった記憶があります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?