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ほんのしょうかい:野中モモ『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る 』〈『思想の科学研究会 年報 Ars Longa Vita Brevis』より〉

野中モモ『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る 』(晶文社)


 阿佐ヶ谷の旧中杉通りには、『ネオ書房』という、駄菓子屋のような大人が懐かしむ店がある。ここは、映画監督であり評論家である切通理作さんが、まえの店主から居抜きで店名ごと引き継いで相方と二人で、様々なイベントを交えてやっている。 そのお店には、娘を連れてたびたび立ち寄るが、アイドルを自称する人の小さなポートレートや、自分のこだわりを記事にした小冊子がいくつも並んでいた。ネット印刷でつくったものや、コピーなどを綴じて作ったものなど、手作り感がにじむ小冊子、「ZINE」とはこういうものを指すのだろう。 ZINE とは、個人やグループが、好きなように制作した冊子のようで、名前の由来は「Magazine(雑誌)」の“ZINE”が語源のようだ。「ZINE」の豊かさを伝えてくれるこの本の作者の野中モモは、「ZINE」に魅せられて、自分でも「ZINE」をつくり、ひとりひとりのZINEが活躍する世界をひろげようとしている。そのために、彼女は、オンラインショップ「Lilmag」(www.lilmag.org)を開いている。『THIS IS MEDIA――アートをもっと好きになるメディア』(https://media.thisisgallery.com/)では、ZINE について「大きな資本力もコネも持たない個人が、誰にも頼まれていないけれど作らずにはいられなくて作ってきた、「小さなメディア」としてのジン」と表現している。 「 作 ら ず に は い ら れ な く て 作 っ て き た 」 と い う 思 い か ら 生 ま れ る メ デ ィアは、古来より様々な形で現れてきた。一遍上人の配ったお札、御賦算、家庭でつくる「おうちの新聞」、友達と作る回覧紙、『思想の科学』の自主出版や、『はながみ通信』にも通じる。その思いや営みは、どこか、語り合うに自分から引き離さない形をとどめたいという生き方に交わる表現につながるのではないか。 正しさを取り合いする虚構の正義が行きかうネットでは、FAKEや、デマ、中傷があふれている。行き過ぎて歪んだ客観の世界から逃れて、自分の確かな手ごたえを再び、もとめようとするのも当たり前のことのように思う。 このネオ書房というのは、切通さんが引き継ぐまでは、貸本屋であった。この通りには、もう一軒、ネギシ読書会という貸本屋もあった。手触りの残るコミュニケーション、その薫りを、あらたに立たせようとする、そんなイトナミのひとつとして『ZINE』というのもあるのだと思う。(本間)




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