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【日本映画】映画『警視庁物語』シリーズ全24本にはまる。

昨年から今年にかけてはまった映画が、タイトルの『警視庁物語』シリーズ(全24作品)。これがとにかく面白く、そして1本1本の作品が映画としてとてもよくできている傑作シリーズです。

本シリーズは東映東京製作で、1956(昭和31)年の第一作『逃亡五分前』(小沢茂弘監督)から1964(昭和39)年の第二十四作『行方不明』(小西通雄監督)まで全24作のシリーズで、小沢茂弘、村山新司、若林栄二郎、飯塚増一、島津昇一(島津保次郎監督の息子)、佐藤肇、小西通雄などの当時の東映東京の若手の監督が撮った刑事ものです。下記は東映ビデオのウェブサイト(22作品のDVD紹介)

現在「U-NEXT」の見放題になんと23作品がラインナップされていて、またDVD化されていなかった第18作『謎の赤電話』(1962 島津昇一監督)は今月CSの東映チャンネルで放送されています。
私は上記のネットとCS放送でシリーズ全24作品すべて観ることができました。

映画のシリーズものは邦画、洋画ともいくつかありますが、『スターウォーズ』『インディージョーンズ』などすべてのシリーズを観ているものもありますが、代表的な『男はつらいよ』シリーズはおそらく三分の一くらいしか観ていないですし、東宝の『社長シリーズ』『駅前シリーズ』はかなり観ている方ですが、それでも全作品は観ていないかと・・・

何故このシリーズの作品が面白いか、についていくつか私なりのポイントを挙げてみます。

(1)よく練られたシナリオ(脚本)
本シリーズの脚本家=長谷川公之氏。
長谷川氏はシナリオライターをしながら当時「警視庁刑事部鑑識課付・法医学室主任技師」として勤務していたとのこと。(「長谷川公之 映画シナリオコレクション 警視庁物語」(㈱アートダイジェスト 1994) P418 
実際の事件からヒントを得て執筆したシナリオも多かったようで、本シリーズのストーリー展開や台詞がリアルなのはそれが理由でしょう。

(2)刑事をリアルに演じた俳優たち
本シリーズの刑事役にいわゆるスター俳優は出ていません。脇役だったり新人俳優を起用していますが、それがかえって「本物の刑事では」と思わせるほどリアルな演技を引き出してい ます。

警視庁捜査第一課の刑事役は、作品によって多少変わったりもしますが、レギュラー 陣としては、まずリーダー格の捜査主任=神田隆(佐藤栄作によく似ていて、後年、石川達三原作の映画『金環食』(1975 山本薩夫監督 配給東宝)では、佐藤栄作のモデルの政治家を演じています) 。
永田部長刑事=堀雄二(他に成瀬巳喜男監督『銀座化粧』など)、他に刑事役として花沢徳衛、南弘、山本麟一、須藤健、佐原広二、南原伸二など。いくつかの作品には新人の千葉真一や『ウルトラセブン』のキリヤマ隊長役=中山昭二なども出演しています。
脚本の台詞、監督の演出も優れているのでしょうが、いぶし銀のような俳優たちのリアルな刑事役は見ごたえがあります。

本シリーズは各作品の脇役も豪華。
山村聰、木村功、沢村貞子、多々良純、山茶花究、加藤嘉、菅井きん、
小沢栄太郎、佐久間良子、山形勲、三宅邦子、戸田春子、中原ひとみ、
山東昭子、小宮光江など。
私の世代(60歳過ぎ)だと第23作『自供』(小西通雄監督)1本だけに出演している当時の東映映画のアイドル的な存在で、テレビアニメ「風のフジ丸」の忍術千一夜?の忍者講座(YouTube検索で視聴可能)の司会を務めていた本間千代子も懐かしい。私は毎週見ていたなと。

(3)当時の東京のロケーション風景
本シリーズは東映の2本立ての1本のプログラムピクチャーで、時間も50数分から長くても90分くらいの作品がほとんどです。
低予算だったらしく警視庁や事件発生の所轄警察署の「捜査本部」などのセット以外の屋外シーンは、ほとんど実際の場所でのロケーションとのこと。この当時の東京(東京近郊や地方もあり)のロケーションがこのシリーズの魅力の一つであることは間違いありません。

東京でよく登場するのは「浅草」「上野」「(西)銀座」「新宿」「多摩川」などですが、今スカイツリーがある「押上」(第9作『顔のない女』1959 村山新司監督)、同じく現在は日本テレビや電通の高層オフィスが立ち並ぶ汐留では、当時の貨物駅=汐留駅(第12作『深夜便百三〇列車』1960 飯塚増一監督)の貴重な映像も観ることができます。全体的には東京の東部の下町(墨田、江東、葛飾、足立、北、荒川各区など)が多く登場します。
東京のどこで撮影したのか?とロケーション場所が不明な地域も多数でてきます。
また地方でも第21作『全国縦断捜査』(1963 飯塚増一監督)にはなんと返還前の沖縄・那覇市や首里城がロケ地として登場。貴重な映像です。

(4)シリーズに欠かせないパターン
『男はつらいよ』シリーズではアバンタイトルの寅次郎の夢のシーンがお約束です。本シリーズにもお約束のようなパターンがあります。
映画はまず、アバンタイトルで散歩している人などが死体を見つける、または実際の殺人シーンが描かれ、そこにタイトルが出て、タイトルバックでも映像が展開しキャスト、スタッフのクレジットタイトルが流れます。
事件現場(どの作品か忘れましたが、捜査本部での台詞で現場(げんば)ではなく(げんじょう)と言ってました。実際の刑事の言い方なのかもしれません)
の刑事たちが被害者についての会話をします。ここにいるのが神田隆演じる捜査主任の上司の捜査一課長(松本克平)。この俳優がいかにも捜査一課長という顔をしています。

捜査は、現場付近の聞き込みなど各刑事の足を使った地道な作業がたんたんと描かれます。
解剖結果による被害者の身体の特徴や血液型、現場に残っていた遺留品、目撃者証言、交友関係など一つずつの捜査がリアルに描かれ、段々と事件は解決の方向に向かっていきます。名探偵のような人は出てきません。
この展開は全作品に共通していて、刑事ものの見本のような見事な構成です。

昭和30年代当時の映画だと思うのがまずは電話。
携帯電話の無い時代ですから、各刑事は捜査本部への捜査報告は公衆電話からです。捜査本部の電話のほとんどは捜査主任(神田隆)が取り、「こちら捜査本部。おお、林くんか」といった台詞が頻繁に登場。

そして同じく時代を感じるのは、捜査本部の部屋や聞き込みの場所(事務所、喫茶店、アパートなど)でとにかく皆がヘビースモーカーであること。
今の映画やテレビドラマではほとんど見られない光景です。

捜査本部内での刑事同士の会話は、事件や捜査状況についてが大多数を占めますが、時々「くすっと」笑ってしまうようなユーモアもあり、それもいい味を出しています。

その他、本シリーズの魅力はつきませんが、U-NEXTは30日間視聴のカードは1,990円(ファミリマート、セブンイレブンなどで購入可能)なので、23作品は追加料金なしで観ることができます。

全24作はすべて面白いのですが、その中でベスト3を挙げると
第一位 『深夜便一三〇列車』(1960 飯塚増一監督)
第二位 『顔のない女』(1959 村山新司監督)
第三位 『夜の野獣』(1957 小沢茂弘監督)
となります。


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