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Patient Handsの新譜を見逃してはならない

インターネットでジャケットが良さげな新譜を見つけては、
曲を聴き、それを気に入ったらアルバムを聴いてみるという行為を繰り返してきている。

こういった作業の良いところは、全く話題になってないけど素晴らしい作品を見つけられるところだ。Welshly ArmsやLost Cousins、今月ではEmily Reoなど話題になりにくいなところでも良作を出してる人たちは探せば幾らでもいるってのがわかった。

そして自分は、こういった経緯で見つけたドンピシャな作品を見つけてはツイッターで毎回騒ぐ。

とりあえず聴いてほしいという一心で自らリツイートを繰り返す。
Lost Cousinsの記事でも書いたように、私のツイートから知ってくれて聴いてくれた人もいた。とても光栄なことである。

しかし本来はそういう役目を果たしたことに勘違いして「自分が広めたんだぞ」という傲慢さは感じず、アーティスト、バンドを知ってくれて嬉しいという気持ちに全振りしたいところだが、私がきっかけで知られるってのは、やはり嬉しいと感じるもんである。

と、少し話はそれたが、何故このことを触れるかと言うと、また良い作品を見つけて騒いだからである。

Patient Hands - Stoic

2019年の2月15日リリース、2か月経って知った作品だ。

白黒、そしてこっちを見る男のジャケ、どことなく名盤感があると思った。.

重たいピアノの音に乗せて暗いムードで歌う男の声はどことなく魅力的であり、そして美しい旋律にも魅かれたので違う曲も聴いてみた。

初めの音でアンビエント系にも手を出している人なんだなってわかった。そもそも調べてみるとこの人はアンビエント畑の人であるらしいが、
この曲のすごいところは聞き流してみると、途中でフォーク要素も加わり、そして最後にはエレキギターも加わり、静かに始まった曲だが熱いポストロックへと変わることである。

アンビエントの音楽に包まれて弾き語る音楽ではなく、こうした熱いアプローチが自分のロック好きの琴線に見事ハマった。

このような熱さでアプローチしてる曲は一曲ではあるが、この作品はアンビエント系フォークを基調としながら単調に終わる作品ではなく、聴いてみると結構バラエティ豊かであったりする。

この曲では、人々が何か会話してる様子が流れていくのだが、その中に混じっているノイズの音がどんどん大きくなり、そして最後にはそのノイズの音が曲を占領するという内容だ。この変遷だけで、歌詞がなくとも物語を感じる一方でこれはPatient Handsのプロジェクトを作り上げたAlex Stooshinoffの闇を感じた。

後々になって、彼のBandcampページをめぐって今回の新譜について語っている箇所があるのだが、彼はこう打ち明けている。

I lost myself somewhere inside me. I was a foreigner; a refugee. But I had nowhere to run to, and nowhere to leave. I couldn’t find love for myself, or anyone else. 

「自分自身を失い、自分は余所者で難民だ。だけど何処へも行く場所も逃げる場所もない、自分や誰かのために愛が見つけられない」

と序文の冒頭に書いてあるように、彼がこの作品と共に書いた文章はとても暗い。これまでの人生とても苦労したのであろう。
このレコードを作ることで何かを乗り越えたようにも見えるが、それでもどことなく本質的に暗い部分は抜け切れていない。この途轍もない暗さが私にはnick drakeを思い出させる。いや、どうかこの人には良い人生を見つけてほしい。

そして多分彼はこの作品を商業目的を第一としていないだろう。何せこの作品はbandcampで最低5$で買えてしまうからだ。この名作を!

ジャケットで何を思って彼は見つめているのかは分からない。彼は序文で「これが他の誰かに理に適った作品だとは思わない。でも多分大丈夫だろう。」と語っている。何を思って見つめているのかも、何が「多分大丈夫」なのかも分からない。

しかしながら、彼の思惑とは外れてしまうかもしれないが、
この作品は非常に多くの人を魅了させる雰囲気のある傑作だと思う。
個人的に年間ベストに入れたいくらいだ。

アンビエントの音に乗せながらアコースティックで弾き語るという音楽性はやっぱりどこかでnick drakeを思い出させる。
そしてこの作品には他のアーティストに見られる「あざとさ」は一切存在しない。彼はこの作品を作り上げ、他の人間の介することのない自己完結をしているのだと思う。

だからこそ、パーソナルすぎる世界観だからこそ、芸術の価値を高いものとし尊さを感じさせる作品が仕上がった。
Patient Handsは自身無さげではありそうだが、これは明らかに我々多くのリスナーを感動させる出来だと思う。

はっきり言ってこれは傑作だ。

#音楽 #music #レビュー #アンビエント #フォーク


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