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ゾウ部隊の話/「猫を棄てる」「自転車泥棒」

昨年亡くなった先生は、よく戦争の話をされていました。

先生は兵隊としてビルマへ派遣され、インパール作戦に参加したそうです。太平洋戦争屈指の死者数を出した作戦で、ウ号作戦ともいう戦いです。

先生のビルマ話は、どこかお伽噺を聞いているような感じがありました。

諜報員として働いたこと。現地ネームを与えらえたこと。日本人だとばれないようにしなければならなかったこと。敵軍が残した資材に石鹸が残っていて、それがLUXだったということ。

そして象と共に行動をした話。


こんな本を読みました。


「自転車泥棒」呉明益

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「自転車泥棒」は、台湾出身・1971年生まれの作家によって描かれた、失踪した主人公の父と、父の自転車に関わる人々の記憶をたどっていく物語です。家族の物語を通じて、台湾の人々がたどった大きな歴史(それは主に太平洋戦争ですが)に触れています。

物語の中で、インパール作戦が舞台となるシーンがありました。

そこでは象部隊が存在し、何頭もの象が使役されていたということです。

象が戦争に参加していたということは本当のことだったのでしょうか。インターネットで調べると、確かに日本兵らしき人が象にのり川を渡る写真が出てきました。先生の話と台湾小説の話がつながり、戦争が立体的に立ち上がってくる感じがしました。

その後に読んだのが、村上春樹「猫を棄てる」でした。

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「猫を棄てる」は、村上さんのお父さんについてのエッセイです。ここでも戦争のことが触れられていました。お父さんはインパール作戦に参加した第五十三師団に籍を置いていたそうです。ビルマへ派遣される前に召集解除となったとのことでした。

ここでも先生の話と村上さんのお父さんの話がつながりました。インパール作戦。まるでシナプスとシナプスが繋がるようにして、日本が経験した戦争という記憶が現実的に感じ始めました。おとぎ話なんかではなく、家族が体験した身近さとして。

村上さんはこう書いています。

(省前) 言い換えれば、父の心に長いあいだ重くのしかかっていたものをーー現代の用語を借りればトラウマをーー息子である僕が部分的に継承したということになるだろう。人の心のつながりというのはそういうものだし、また歴史というものはそういうものなのだ。その本質は<引き継ぎ>という行為、あるいは儀式の中にある。その内容がどのように不快な、目を背けたくなるようなことであれ、人はそれを自らの一部として引き受けなくてはならない。もしそうでなければ、歴史というものの意味がどこにあるだろう?


「自転車泥棒」の台湾のお父さんの話

「猫を棄てる」の村上さんのお父さんの話

これら2冊の本が、おとぎ話のようだった先生の話を現実の世界に導いてくれました。身近な経験談として、戦争は現実にあったのだということ。残虐な行為をしたのもされたのも、私たちのお祖父さんたちだったということ。

家族や身近な人たちのささやかな記憶は、実は大きな歴史につながっていて、歴史の本質が記憶の継承<引き継ぎ>にあるというのなら、彼ら彼女らのささやかな記憶を引き継ぐことは、私を形成する一部となると共に、私自身が大きな歴史の中に生きているということになるのだと思いました。


余談ですが、村上さんの「猫を棄てる」の挿画を台湾のイラストレーター・高妍(Gao Yan)が担当しており、この2冊の本を図らずしも繋げてくれています。日本と台湾の父の物語。

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