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天才ディラック(24歳)の1926年論文を解読するのだ・その3

⇧この続きです。思ったほどさくさくと進まないでいます。しかしそれはポールなディラックくんの天才的思考法ゆえです。私も天才の端くれですので、彼のその天才的思考がどのようになされているのか、解読が進んでおります。

今回で4ページ目に進みます。全17頁ある論文の4ページ目です。第二章の途中です。全五章の第二章の途中です。


そこから話を始める前に、その少し前の部分を振り返ってみます。


これは常微分方程式であるとポールくんは言い切ります。「常微分方程式になるよう作ってあるのだからそうなるにきまってる」とまでは言っていないのですがつまりはそう述べています。実際そうですし。

そして続く4ページ目で、こう切り出します。この $${Fψ=0}$$ における一般解は線型であり、こんな形式になるぞと。

$${\psi = \sum_{n} c_{n} \psi_{n}}$$


このこと自体は微分方程式とその解の、ごく基本的なことです。ただポールくんの思考は、たぶんこの論文にある順には回っていなかった気がします。

$${\psi = \sum_{n} c_{n} \psi_{n}}$$

これが線型常微分方程式の一般解であることは、いうまでもなく彼は知って(というか習って)いました。またその一方で、前年(1925年)にハイゼンベルクがよくわからない $${∑}$$ の数式を論文で提示しそれを読んだ師匠筋のボルンが「行列やないかこれ?」と気づき、行列を使った量子力学を打ち立ててました。翌年(1926年)になってシュレディンガーが微分方程式を使った説明を行い、行列によるものと数学的には同値であることもやがて突き止めてみせました。

この成果を、ポールは違う風に眺めていたのだと想像します。「線型常微分方程式の一般解も、ヴェルナーやマックスの論文にある $${∑}$$ 式と同じ形式をしている。シュレディンガー方程式は線型やし、しかし常微分やなくて偏微分方程式やから、線型常微分方程式をハミルトニアンと変分法を使ってひねり出して、それがシュレディンガー方程式と最終的に同値だと示せれば、ええんやないやろか…

赤で囲んだところで、そう話を進めています。「$${\psi = \sum_{n} c_{n} \psi_{n}}$$ は極限においては $${\psi = \int c_{\alpha }\psi \left( \alpha \right) d\alpha}$$ になると考えていいとぼくは考えるからその考えで議論を進めていくからそのつもりでよろしくね」と。この方向性は正しいです。彼なりの線型常微分方程式→線形偏微分方程式へのシフト技宣言です。


ここねえ、数学的にはかなり強引な主張です。フォン=ノイマンが翌1927年に「量子力学の数学的基礎付け」で、より厳格な議論を行うことになります。ポールくんの論文を数学者視点で眺めて、あちこちに数学的議論の穴があることに苛立った…のでしょうか。

ただ直観的にはポールくんの推理の進め方のほうが分かりやすいです。彼の思考過程が行間から読み取れれば、です。私は読み取っています。なんとか付いていけています。

ゲッチンゲン系の前衛数学者たちの最新研究と、ケンブリッジの孤高の天才ポールの思考が重なりだす前夜だなって感じますね。彼は数学者ではないのでそのあたりの最新論文を逐一追っていたとは考えにくい。独りで思索を深め、最終的にはずば抜けた結果を出すわけですが、アインシュタインのように脳内に具体的な実例を思い浮かべながら論じていくのではなく、数式の形式を頼りに神の暗号を解いていく風です。それでいて方向性は非常にはっきりしています、全体的方向性。行間を読み取りながら、その輪郭をはっきりさせていきましょう。


つづくのだ ⇩


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