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装丁の想定『秘密の花園』

「装丁の想定」
実在する本の表紙に使われるイラストをイメージして、個人的に制作した絵のシリーズ。2010年くらいから細々と描き続けています。


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こちらは2017年の作品。
日本図書設計家協会主催「第3回 東京装画賞」応募作です。
この年は課題図書3冊ぶんすべて制作・応募しました。
『秘密の花園』は受賞はなりませんでしたが…

『秘密の花園』 著:フランシス・ホジソン・バーネット

イギリス植民地時代のインド。乳母と使用人まかせで育ったつむじまがりのメアリは、十歳にして両親を亡くし、英国の親戚に引きとられる。
彼女はコマドリのみちびきで、ひっそりと隠された庭園をみつけた。
動物と話ができるディコン、病弱ないとこのコリンとともに、メアリは庭の手入れを始める──
三人の子どもに訪れた、美しい奇蹟を描いた児童文学の名作。

もともと好きな作品(映画も!)なので楽しんで描けました。

小学生くらいの頃から持っている西村書店の装画(グラハム・ラスト)。
主人公メアリが秘密の花園へ足を踏み入れようとする後ろ姿がとても印象的で、「秘密の花園といえばこの構図!」というイメージでした。

しかし今回は逆に花園の側から、おっかなびっくり覗き込んでくるメアリの「顔」を描いています。
中高生の頃の自分は、漫画やアニメみたいなかわいい造形のキャラクターに惹かれつつ、でも「いかにもマンガ絵!子供向けにやさしくしました!」てかんじの絵のものを手に取るのはちょっとだけ恥ずかしい、もうほんの少し大人ぶりたい…
というややこしい心境があったので
(けっこういると思うんですこういう層が…)
そういう人々にアピールするつもりで描きました。

設定上はやせっぽちであんまりかわいくない女の子のメアリですが、ふだん文学作品を読まない人の興味をも惹けそうなかわいらしさを目指して。

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後ろ姿だと読者自身がメアリに感情移入して物語へ誘われるイメージ、
メアリの顔と向き合う構図だと「つむじまがり」の彼女が心を開き、瑞々しい感受性を育んでいくことを読者へ提示するイメージになるかなと。
閉ざしていた心の扉の向こうは暗く荒廃していたけれど、現実で秘密の扉を開き、花園の手入れをすることで彼女の心も豊かになっていきます。


制作過程

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ラフはPhotoshopでざっくり。

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シャーペンで線画を作ります。かんたんな濃淡もここで。
自然物をわさわさ描くのが好きです。手前の草は別紙に描いて合成。

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スキャンした線画をPhotoshopで彩色。
少女メアリの瞳、コマドリの顔のパーツなど細かいところも描き込み。

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影とあたたかみのある光、質感の調整。

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完成。



いろいろな出版社の『秘密の花園』

このあたりはクラシカルな雰囲気ですね。
新潮文庫は酒井駒子さんのイラストが、オーソドックスなイメージを守りつつ現代的なオシャレ感もあってさすがだな〜と思います。


コミックタッチのキャラで魅せる『秘密の花園』

ちなみに青い鳥文庫の『秘密の花園』は3冊構成。
3巻では少年ディコン、コリンの姿も。

同じ青い鳥文庫でも1991年版はこんなかんじ↓
全く印象が違いますね。これはこれで味わい深い。



今回の私のイラストは、この中間層にアプローチできないかな〜というかんじでした。現実にはどっちかへ振り切ったほうがいいのかもですが…

装画で少女を描かない『秘密の花園』

角川文庫はビーズをふんだんに使ったカラフルな花の刺繍。
光文社古典新訳文庫のほうは、本文を読んだ後にあらためて装画を見ると味わい深い気持ちになります(このシリーズの装画、印象的ですよね)。


同じ古典でも、装丁や翻訳でまるで違う印象になります。
特に児童書だとあまり敷居が高い印象だと子供に興味を持ってもらえない、かといってキラキラさせすぎると原典の作風が変わってしまったり、実際に本を買う保護者から嫌われたり…というジレンマがあるそうで。
個人的には、だからこそ、さまざまな選択肢があってほしいな〜と思います。

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映画もよいです。
私の描いたイラストではメアリひとりにスポットがあたってますがこの物語は「3人の子供たち」の交流がとてもよいのです。
つむじまがりだった少女メアリはガーデニングと、ディコンなど周囲の人々を通して人間的に成長します。
そして成長したことで、かつての自分のように気難しいコリンとも(衝突しつつも)かつてのメアリではできなかったであろう交流を重ねます。
その精神的な動きと、荒廃した庭が美しく再生していくビジュアルが連動してとても美しく…


さらに既読の人にはコレをおすすめ。なんなら未読の人にもおすすめ。
梨木香歩さんの『秘密の花園』案内書。

伝染病コレラの蔓延で皆がいなくなりひとりぼっちになったメアリが、屋敷の中で「小さなヘビ」をみつける。その時点では彼女には(使用人などがいない不便への怒りはあっても)孤独や恐怖はなく、不思議な静謐と奇妙な連帯のようなものが感じられる。
その後英国へ渡り心身ともに健やかに成長し始めた頃には「ネズミの赤ん坊」をみつけかわいいと感情を持つ。
やがて動物と話ができるという少年ディコンの連れ歩く「ヒツジの赤ん坊やリス、カラス」なども屋敷に招き入れるようになる…
メアリの見つめる対象がどんどん「温かい動物」になっていく。
など、この作品の醍醐味は、実はこうした細部にあると語る読書案内。

『秘密の花園』世界の、そして梨木さんの繊細な視点と表現がとても心地よく興味深いのです。
物語は読んだ人それぞれの解釈で、こういう視点もあるんだ!と知ると読書がもっと楽しくなります!




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