見出し画像

特設サイト用マップ『この本を盗む者は』-メイキング

画像6

装画を担当いたしました
『この本を盗む者は』(著:深緑野分 氏/刊:KADOKAWA)
の、特設サイト用マップも制作いたしました。
装画についてはこちら↓


1:追加発注

装画を納品してから1ヶ月後。
参考画像とともに、物語の舞台「読長町」の地図イラストをご依頼されました。

map略図

平面ではなく、立体的な地図にできればと思っております。

納期:約1ヶ月
用途
『この本を盗む者は』関連のwebサイトにて使用
(ほか、POPやポスター、小冊子などの販促物でも使用する可能性あり)

ご注意点

基本的にスマートフォンで見ていただくことを想定しております。
サイズ感など、ご注意いただければ幸いです。
主要な建物はレイヤー分けしていただければと思います。
(御倉館と読長神社)


2:打ち合わせ(約1週間)

マップ制作、しかも立体的に…というご依頼は初めてだったので、いろいろと細かくヒヤリングしていきます。

・立体的な地図とは
平面の地図の上に、立体的な建物が置かれているタイプ?
それとも精緻なジオラマのようなもの?
参考画像をいただけますでしょうか。一応、こちらでも「こんなかんじかな?」というのを探してみたので添付します。

・納品するサイズや保存形式、具体的には?
(スマホで見るものならあまり描き込みすぎない?)

・レイヤー分けする主要な建物=2点(御倉館と読長神社)だけ?
・文字入れもこちらでするのか
 (その場合フォントの指定はあるのか、手書きがいいのか)
・商店街や本屋街はどの程度描き込むのか
 (「BOOKSミステリィ」など固有名詞のある建物とは差別化したい?)
・カラーリングなどは装画に寄せる(紫基調)のか
・銀杏(イチョウ)はわかりやすく黄葉してしまってよいのか

また、それぞれの建物で譲れないポイントがあれば事前にお教えください。
(三階建であるとか、壁の色だとか…の記述があったかと思いますがどの程度反映させるべきなのか)

ここには載せられませんが参考画像を複数添付してイメージに近いものを選んでいただきました。
選ばれた画像からすると
・わりとかっちり描き込む
・色は明るめながらあまりオシャレ感は出さず、ナチュラルに庶民的に
というイメージ。
さらに主要な建物の概要をまとめてお送りいただきました。

・サイズはA6くらいを目安に。
 パソコンで見ることを想定したとしても、横幅で1200pxあれば十分とのこと。解像度高めのPSD、RGBで。

・レイヤー分けに関して
 略図で明示した建物は全てレイヤー分けしていただければと思います。
(略図に入っているもののうち、雑貨屋だけは不要)

・文字入れは基本的にしない
 (イラストに触れるとその建物の説明文に飛ぶ、というイメージ)
・「わかば堂」や「BOOKSミステリイ」は看板を入れる
 商店街…精肉店、鮮魚店、青果店、鶏肉専門店
 本屋街…絵本専門店、ブックカフェ、新刊書店、古書店
 など、作中に出るお店はそれとなく入っているとよい
ただ、やはりスマホサイズなので、描き込みすぎないくらいでお願いします。

・カラーリングは装画に寄せる必要なし
 未読の方が物語に興味を持ってくれるよう、どちらかというと明るい色味が良いかと思っております。
・銀杏は黄葉させず(時期が4月末~なので)

「説明文ページでレイヤー分けしておいた建物が拡大表示される」という仕掛けなら(最終的に縮小されるにしても)全体マップはやはりそれなりの大きさになりそうだな〜と思いました。
「マップを描く」というのは私も初めてでしたが、先方様も探り探りという感触。
(特設サイトを見ていただければわかるかと思うのですが、ここまでプロモーションに力を入れている作品は珍しいのでは!)

3:ラフスケッチ(ご依頼から約10日)

画像3

建物の位置関係と密集具合はだいたいこんなかんじかな〜と。
説明文も添えて。

画像4

ざっくり1点パース。
アタリだけでも3Dソフトが使えればもっと省力できるのかなと思いながら。
実際に描いてみて痛感したんですが
坂道の商店街(建物が密集している)、階段の上にある神社(建物自体が単純な箱型ではない)など、難しいものがいっぱい…
そしてこの商店街、角度的にお店の看板が見えないので商店街とわからせるのが難しいんですよね。「商店街」と書かれた看板を立ててどうにかそれっぽくしてはみましたが。
あと「神社も真横から描いたんじゃ絵的にキマらないから少し傾けた方がいいかな(作画コストは上がるが)」とか「病院も大学病院という設定なら相当デカいはずだよな」とか「スペース的にアパートやクリーニング店は省いた方がいいな」とか地味に地道に調整していきました。

これでOKいただけましたので本番制作に進みます。


4:クリンナップ

まずは主要な建物から、ひたすら描き込んでいきます。
途中で細かく描きすぎたのを単純化したりも。

画像5

物語の中心になる、かつて私設図書館だった「御倉館」

・2階建て、どっしりとして角張った印象の洋館
・三角の切妻屋根を頂いたガラス張りのサンルーム
 (館の中央が一階から二階まで一面の巨大な窓になっており、白く優雅な細い窓枠で彩られている)
・サンルーム以外には極端に窓が少ない(本は日光と湿気を嫌うので)
・作りは土蔵とほぼ同じで、漆喰の壁に換気用の扉付き窓がいくつか

という、和洋折衷の不思議な建物。文章で読むだけならとても楽しかったのですが、絵にするとなると悩みました。
(青いタイルを敷き詰めた玄関ポーチ、紫陽花やイワミツバなど草木でいっぱいの庭…などわくわくする描写がまだまだあるのですが描きすぎると何も伝わらなくなりそうなので省略。詳細はぜひ本編で!)
あとかなり簡略化したけどそれでも神社はしんどかった…

主要な建物以外はグレー系で塗り分け、グラデーションマップでだいたいの色をそろえました。
商店街を通り過ぎた大通り沿いにある「新しい本屋街」と「御倉館まわりの古書店街」は、同じ本屋でもなんとなく新しい雰囲気・レトロな雰囲気が伝わるといいなぁと思いながら。

画像6

カラフルにしすぎると主要な建物が埋もれてしまう、けれど色数を抑えすぎると雑然とした日本の町っぽく見えない…というジレンマ。
商店街のあたりはもっと建物の数を減らしてもよかったかな…と今になって思います。


5:納品(ご依頼から約3週間)

画像7

完成。
作画そのものも大変だったのですが、レイヤーが増殖するごとにどんどんデータが重くなるので、うっかりするとPhotoshopが急に落ちるのも困りものでした(解像度360、縦幅3800pixelくらいで制作)。
ご依頼時点では想定しきれなかったことがいろいろあって、勉強にもなりました。

スクリーンショット 2020-10-23 1.49.40

最終的にどんな使われ方をされるのかわからなかったので、
建物とその周りの植木と芝生と…などけっこう細かくパーツを分けて作っていました。


6:プレビュー

スクリーンショット 2020-08-31 11.50.47

特設サイト公開前にプレビューも見せていただきました。
(PCとスマホでは少し見え方が違います)
レイヤー分けしたけれど実際には使用されなかった建物もありますが、完成したサイトを見ると感慨深いです。

ぜひ実際の特設サイトもごらんください。


また、『この本を盗む者は』電子書籍版には
特典として、カバーイラストコンペ応募作品のイラストギャラリーを収録しています。

↓は私の描いた装画+「書店員賞」上位4作品のポストカードです。
(個人的には右上・太田侑子さんの作品が特に好み)

写真-2020-10-19-21-28-07

電子書籍版にはこの4作+書店員賞候補6作を含めた10作ぶんの装丁デザインが収録されています。
こちらは表紙だけでなく書籍全体をぐるりと包む横長ブックカバー。
デザインは本書の装丁デザインを担当された鈴木成一デザイン室

「なるほどこんな表現もアリかも!」と思わせられてとても楽しいです。
電子なので精彩な画像をさらに拡大して見れる!

本好きには一粒で二度も三度も美味しい仕上がり。
ぜひぜひ余すことなくお召し上がりください。


サポートしていただいた売り上げはイラストレーターとしての活動資金や、ちょっとおいしいごはんを食べたり映画を見たり、何かしら創作活動の糧とさせていただきます。いつも本当にありがとうございます!!