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新宿でチェコの人形劇を観た話

2019年10月、新宿の「プーク人形劇場」にて
チェコの人形劇団「アルファ劇場(Divadllo Alfa)」の人形劇を観ました。

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チェコはユネスコの無形文化遺産にも登録されている人形劇王国なのです。
私はストップモーション(コマ撮りアニメ)のパペットムービーやクレイムービーが大好き。
10年ほど前にプラハ旅行をしたとき、ぜひ本場の人形劇も観てみたい!と思ったのですが所持金がゼロに近づき断念(まじでホテルへ帰るバス代も危うかった)。いつかもう一度プラハに行き、今度こそ観劇したいと思っていたのです。
そのチェコの人形劇団が来日すると聞いてこれは行くっきゃない!と。

そして行ってきました観てきました。

プーク人形劇場1

激しかった。

開始直後にタンバリン(だったと思う)をバンバン叩き
「ライラライラライラライラ!ライラライラライラライラ!ライラライラライラライッラッラッラァ〜〜〜!!!!」と高らかに大合唱。
もっとほんわかメルヘンな世界を想像していたのですが開始3秒でぶっとばされました。声が野太くてやかましい。好き。

演目をざっくりまとめると

『ドン・ファン』
…この世の全てを暴力で解決しようとする極悪非道の男ドン・ファン。
美しい娘ドナ・アンナを手に入れるためその父親や恋人など、とにかく人を殺しまくる。何かってーとすぐ斧や剣を振り上げるのでまじで誰も手が付けられない。
正義の英雄が彼をこらしめる勧善懲悪ものかと思いきや、ドン・ファンは突如現れた悪魔により地獄に引きずり込まれて人生強制終了。
この悪魔は今まで殺された人々のうらみつらみにより現れたらしいのだが、結局生身の人間は誰もドン・ファンを裁くことはできなかったので現代人の感覚では釈然としないかも。

『ファウスト博士』
…悪魔を呼び出せるほどの大天才ファウスト博士。
神への信仰を捨てて悪魔メフィストフェレスと契約をするか葛藤し、結論を保留。
ファウスト不在の間に従者カシュパルクは魔術書を開き、悪魔を呼び出して弄ぶ。しかしそれで満足し、彼は悪魔と契約はせずに終わった。
一方でファウストはメフィストと契約を結んでしまう。
メフィストの魔法で知識欲や出世欲、愛欲を満たすファウストだが、最終的には悪魔との駆け引きに負けて破滅するのであった。

※ファウストは15〜6世紀頃、ドン・ファンは17世紀頃の伝説上の人物。
数多くの類話があります。同じタイトルでも作品によって全く違う展開になったりするので、別のパターンしか知らない人はちょっと混乱するかも。

人権という概念が存在しない世界のお話なので、小さなお子さんといっしょに見るにはあんまりおすすめできない?かも?
暴力・エロ・理不尽をエンタメとして楽しめる人向け。
しかしストーリーはとても単純なので、もとのお話を知らなくても大丈夫。
時代劇や歌舞伎のノリです。

生き生きと動く人形たちは、様々な古道具で構成されたユニークなもの。
よく見ると鼻は何かのハンドル、帽子は手袋、手足は椅子やストーブの足、ヒゲはハサミやフォーク…など。何でできているのかじっくり観察するのも楽しい。

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プーク人形劇場2

単に手足が動くだけでなく、剣をつかんだり細かな動作がしっかりできて凄かったです。人形そのものがなかなか大きいし、素材が金属や木材なのでとっても重い(15〜20kgほどのものも!?)。
それがアグレッシブに大乱闘するので凄い迫力。

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プーク人形劇場3

客席からはたびたび爆笑が。
登場人物も多いので、人形使いさんひとりでいろんな声色を使い分け何役もこなします。芸達者。

昨今はものすごくお金をかけた豪奢なセットやCGで細部まで作り込まれた映画・アニメーションがたくさんありますが。
たまに「舞台」を観に行くと、その限られた空間における「余白の美」みたいなものに圧倒されます。
舞台背景は映画のセットやアニメの背景画ほどきっちり全部組み立てたりはできませんが、だからこそ、役者の仕草・照明の色や音響による「表現」の力を実感できる。
本物の家や森や海を作ったり描いたりはしていないのに、たしかにそれが「見える」「感じられる」瞬間の快感。脳汁ブシャーなります。

プーク人形劇場4

ファウストはゲーテの戯曲が特に有名ですが、今回の人形劇は昔チェコの民話集で読んだファウスト伝説とだいたい同じでした。
ゲーテ版は街娘グレートヒェンとの恋や壮大な冒険がありますが、民話版はもっと短くサッパリしています。
「悪魔を呼び出せるほど賢いが欲を抑えられず、その傲慢さで自滅するファウスト博士」と、「ビビリの間抜けだが身の程をわきまえているから悪魔と契約はしない従者カシュパルク」の対比。
「頭のいいやつはバカだなぁ」という皮肉でサクッとオチるのが小気味好いので、私は民話版が好きです。
(民話は自力で探そうとするとなかなか大変ですが、図書館で司書さんに訊いてみるといろいろ紹介してもらえて楽しいです)

召喚と送還の呪文「ピルケ」「パドルケ」を交互に唱えまくって悪魔を弄ぶのはシュヴァンクマイエル監督の映画にもありましたね。
これも実写コマ撮りアニメや人形劇を駆使し、とんでもない嘘臭さと嘘みたいなリアルさが共存する最高に気色悪い映像が楽しめます。
(シュヴァンクマイエル監督もチェコの作家です)

また、悪魔を召喚する「魔法陣」について。
日本のファンタジーものだと「召喚者が描いた魔法陣の中に、呼び出された悪魔が現れる」ものが多いですが、今回の人形劇では逆。
「呼び出した悪魔から身を守るための魔法陣を描き、召喚者はそこから出ない」という表現をしていました。
(悪魔を呼び出すファウスト博士もその従者カシュパルクも、魔法陣を描いたらしい桶?の中から悪魔と会話をする)
もともと悪魔を呼び出す時に描く魔法陣とはそういうものらしいのですが、日本の漫画やアニメでは逆になっていることがほとんど。
怪しく光り輝く魔法陣の上に悪魔が現れる!という図は映えますものね。
この演出を初めて行ったのは水木しげる先生だと何かの本で読んだ記憶があります(曖昧…)


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観劇後は人形を間近で見せてもらえたり、人形使いさんとお話できたり。
こんな見たこともない楽器も触らせてもらえたり。
ときめくけど何という名前なのかもわからない…ハーディ・ガーディというやつなのか…?
(ギターのように肩からベルトを引っ掛け、ハンドルをぐるぐる回して鳴らす?らしい…演奏している様子はアコーディオンや手回しオルガンに似ている。写真の奥側にある鍵盤はピアノの内部のような動きをする)

私が観たのは最終回だったので早めに撤収作業が始まったけれど、その前の回ではお客さんも舞台に上がってセットの裏を見たり人形を持ち上げてみたりできたらしいです。羨ましい!

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そしてレポ漫画を描き終わった後に気づいたのですが、
アルファ劇場のサイトに人形の写真なども載ってました!
人形のディテールが知りたい方はぜひこちらへ。おもしろいです!
(そして私の記憶スケッチはやっぱりけっこう間違っていた…^^;)

また2020年の夏、
アルファ劇場の最新作『快傑ゾロ』がプーク人形劇場に!
かつ、日本全国ツアー公演も計画中だとのこと!!


プーク人形劇場

は、新宿駅から徒歩でアクセスできる小さな劇場です。
席数は少ないけどオモチャ箱みたいでかわいらしく、とってもいい雰囲気。
「人形劇場」ですが落語などいろいろやってるそうです。

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クリスマスやお正月にも公演があります。
チラシがすでにかわいい!最新情報は twitter が見やすいかも。

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そして…
余談ですがプークさんでいただいたチラシでめちゃくちゃ気になる演目が。

エドワード・ゴーリーの「うろんな客」が人形劇に!?

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ナレーションが高木渉さんっていうのも気になる(全くイメージできないのにめちゃくちゃワクワクする)
会場は神奈川県… えぇ〜〜〜気になる〜〜〜


世の中はおもしろいものでいっぱいですね。



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