見出し画像

ラージサイズミー。

先日野外劇の舞台設営のお手伝いに行く機会があったので、自宅の服の中から作業着っぽいものを、と思って前夜タンスからツナギを引っ張り出してみた。

2018年の6月の演劇の公演で衣装として着たもので、11月だし、野外だしこれにパーカーでも着れば十分かな、と思った。

リュックの近くに放り出して床に就いた。

当日、朝食の後でふと思い立ってそのツナギを着てみたところ、右足を入れた時点で何か嫌な予感がしたのだった。

ちょっときつい。

とはいえツナギである。

多少体のサイズが前後したとして、言うて「ツナギを着られない」なんてことはそうそうあるはずがない、という予断が結果的に命取りになった。

左足を入れた時点で「あれ、ほんとにこんなサイズ感だったっけ……」という疑念で一杯になった。

ま、何かの間違いだろう、くらいの気持ちで、これはあれだ、長らく畳まれた状態でしまっていたので、なにかしら服の袖とかウエストとかの一部分がどこかにひっかかったりしていて、なんかきつくなっているに違いない。

そう思って右腕を袖に通そうと思ったがまったくうまくいかない。

あるべきところに右袖がなく、仕方なく力ずくで引っ張り、グッと力を入れて右腕を袖の穴に押し通したところで右の僧帽筋が攣った。

激痛に悶え「あっ」と思った次の瞬間には股から右肩にかけての、いわゆるツナギをツナギたらしめているあのラインががっちりと極まり、身動きが取れなくなった。

ツナギにハマったのだった。

そしてそれはツナギなので、全身が連動しており(それがツナギのよさでもあるのだが)、うまくどこかを折り曲げて腕を抜く、みたいなことができないのだった。

完全に丈の足りないツナギの襟の部分が頸動脈に食い込み、動けば動くほどに首の血流を堰き止める。

焦れば焦るだけツナギは強く食い込み、「これを長く続けると死に至る」という痛みを与えてくる。

『グリーンマイル』的な外国映画で、悪いことをした囚人がこういう服を着せられたのをみたことがある。

拘束衣。

二年前にはたしかにこのツナギを着て高く飛んだり跳ねたりしてたのにおかしいだろ、と思うと切なくて仕方なかったが、とにもかくにも今日はこのあと増員に行かねばならない。

自室で朝からひとり声を荒げ、七転八倒しながら這う這うの体でなんとかツナギを脱いだ時にはびっしょりと汗をかいていた。

アップどころかむしろこれが本戦である。

「クソが!!」とツナギを部屋の壁に叩きつけ、ジョガーパンツに履き替えて自転車で爆走して新宿中央公園へ向かったのだった。

その日の作業では物を運んだり、脚立を抑える鎮としての役割をそれなりにこなせたので、体を大きくした甲斐はそれなりにあったのかなと思った。

http://karazemi.com/perform/cat24/30.html

あるいは、これが半世紀前の機動隊との肉弾戦であったとしても、第一線で身体を張ったりしてそれはそれできっと役に立ったのではないかと思って勝手に納得したのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?