見出し画像

ただひとつの許せる感情

悩みました。

コンテストへの向き合い方から、とても悩みました。
肝は、感情をうまく表現すること。

他人の感情は想像の域を出ない。
となると、子細に書けるのは自分の感情しかない。

私は何を考えていたんだろう。
私は何を考えているんだろう。

最初は、過去の思い出を掘り起こして、noteに仕立て上げようとしました。
Webで明かしたことのない話だったので、書いていいものやら、Twitterで小出しにもだえるぐらいには苦しみました。

しかし、重い筆を引きずるように書きながら、だんだんと気づき始めたんです。

なぜ私は、そんなに自分の感情を克明に表現しようとするのか?
感情を表現したい感情は、どんな感情か?胸を張って人に説明できるか?

説明できないなら、心の中で言語化するだけでいい。
できたか?

それではフクイチよ、読者の立場になってみるがいい。


フクイチの感情に興味がある人なんて、いるのか?


Twitterで顔も本名もさらして、実在の人間であることを明かしている。
でも、SNSの人々にとっては、いつも隣にいる人ではない。
そんな私が「何を思っているか」なんて、気になる人がどこにいる?
フクイチの感情を理解しないと死んでしまう人が、どこにいる?


100%徹底した方針、とまではいきませんが、私が文章を通しておこないたいのは「事実に立脚して、新たな事実を提示すること」です。
キナリ杯を受賞したこのnoteで言うなら、「パッケージのイラスト」に立脚して「たけのこの里のジャンプ力」を考えました。

考える過程でも、可能な限り客観的な事実を積み上げます。
資料を引用したり、サイズを実測したり。
なるべく、読者が自ら実感できる情報を増やしたいんです。
そうしてたどり着いた、新たな事実を伝えることができれば、文章のゴールです。

こういった文章を書くうえで、「感情」はどういう役割なのか?
それは、エネルギー源です。

秒速で頭をかすめた興味や疑問をつかまえて、大切に育てる。
私は何に違和感をおぼえたのか?どう「おもしろい」と感じたのか?放っておけない引っ掛かりは何なのか?
細かい言葉に分解して突き詰めることで、文章を書く動機が強固になります。
全力で事実を調べるぞ、徹底してわかりやすく伝えるぞ!と、理性の溶鉱炉があかあかと燃えたぎる。この熱こそが執筆の出発点です。

ですが、感情はあくまで文章の裏方。センターポジションに陣取るのは「事実」です。
感情が主人公になってはならない。
文章において私の感情は、積み重なる事実の行間で、ちらちら顔をのぞかせる程度でいいんです。

TV番組でも、テレ東の「モヤモヤさまぁ~ず2」なんかが顕著ですが、ディレクターやカメラマンなどの裏方スタッフがちらっと登場して、カルト的な人気を得ることがあります。
番組のちょっとしたアクセントとしてなら、そういう人がいるのは好感が持てます。

でも、延々とスタッフがでしゃばったらどうでしょう。
視聴者が純粋に観たいものに背を向けた、内輪ウケ、制作者よがりの番組になってしまいます。

感情は、文章という番組の裏方です。
居なくてはならない存在だし、大切にすべきものですが、主役にはなり得ません。

そんな私に、もしも、主役になれる感情があるとしたら。
心の動静を子細に書いて、自分で自分を許せる感情があるとしたら。


感謝


これしかないと思いました。


先日私は、はじめて外部メディアで記事を書きました。たくさんの方がシェアしてくれました。
フクイチの記事に興味をもってくれて、自分の言葉で感想を伝えてくれた人。
少なくともその人には、言葉を尽くして感情を伝えることが、喜びになるだろう。
そう思って、前掲のnoteを書きました。

裏方スタッフの中で、視聴者が興味のある唯一の存在に、主役の座を与えました。
いわば、感謝のスピンオフです。

先ほどのnoteに #磨け感情解像度 タグを付けようかとも考えましたが、noteの主旨がブレブレになってしまうので、応募作は応募作として独立させました。
このnoteです。


日々、溶鉱炉にさまざまな感情が投入されます。
哀れみ、憎しみ、怒り、呆れ、虚無感。
大半は何も生み出さず、焼却による大気汚染のみをもたらします。

その空を、きらりと光る事実をくわえたハヤブサが、音速で横切ります。

今だ!つかまえろ!

起爆剤を得た炎は、事実の原石を溶融し精錬し、おそらく世界で私しか導き得ない武器を創るんです。
もっと研ぎたい。強靭にしたい。その刃で世界を斬り拓きたい。
時空の裂け目からのぞいた未確認生物の顔を、みんなで見たい。

そして、いっしょに事実を目撃してくれた人には、感謝をおくりたい。


さて、今度はどんな事実を伝えよう。
感情の皆さん、原石はありますか?


2020/06/30 12:22追記

公開してから、だいすーけさんの企画 #わたしの執筆スタンス にも通じる内容だと思ったので、illyさんの許可を頂き、企画noteのリンクとタグを追加しました。

お金をください!