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登山と熊

熊出没のニュースが今年もたくさん報じられている。

私は登山をするので、熊にもかなり気をつけているが、毎年のように熊の出没が増えたというニュースが流れると、登山の楽しみより熊に遭遇したらどうしようという心配の方が強くなってくる。

登山をしていて、目の前に熊と遭遇したことはないが、草むらの中の登山道を歩いていたら1メートルくらいの位置で大きな塊が急に動いたのでビックリして走って逃げたことがある。

また、尾根を歩いていたときに、少し低い笹の中で複数の物体が動いて移動しているのを感じた。そちらを見ると、黒いものが複数動いているのが見えた。

熊は相手を威嚇するときは低い唸り声を出すという。私は過去、登山道を歩いているときに、「グルルル」というリコイルスターターを引いたときのような音に何度も遭遇している。また熊は生臭いような獣臭を放つが、そのエリアに入るとすぐわかるものだ。

さて今日、ネマガリダケを再度採りに山に行った。ネマガリダケ(これ以降、成木をチシマザサと記載する)はその成木の生えかた・植生や太さによってあるかないかなんとなくわかる。ただチシマザサが生えているところに闇雲に入っていけば採れるわけではない。

以前登ったことのある、太いチシマザサだらけで藪の深いある山にネマガリダケを採りに行った。登山する場合にはやっかいなチシマザサではあるが、そういう場所でないと太くて良質なネマガリダケを採ることはできない。

結構な急斜面で、長さ3メートル、太さ1センチ以上あるチシマザサが密生していて、これを掻き分けて登っていくのも困難だ。ネマガリだけを探しながらとはいえ100メートル進むのに20分もかかってしまう。そんなチシマザサが密生している山の中で、私はあるものを見つけた。

汚くて申し訳ないが、熊の糞である。その量たるや、両手でバレーボールを持った時の大きさくらいだ。しかも結構新しい。木でつついてみたら、まだ柔らかい。しかもそこからわずか30センチほど離れたところに、同じくらいの糞が落ちていた。

私は周りを見回した。まだ近くにいるのではないかと。あるいは木の上からこちらを見ているのではないか。その心配は杞憂だった。しかし、私を不安にさせたのは、これだけのチシマザサが密集していて熊でさえもなかなか動けないような場所に糞があったということだ。

登山をしていれば、整備された登山道に熊や鹿類の糞が落ちていることはうよくあることだ。なぜなら人間にとって歩きやすい道は、野生動物にとっても歩きやすい道であるからだ。だから逆にいうと、人間が入ることが困難で進むこともままならない藪山には熊はいないのではないか、というのが私の考えだった。しかし、その考えは今日もろくも崩れ去った。

もっとも、ネマガリダケを採りに行って熊に襲われて死亡というニュースも過去にいくつもあるのでネマガリダケ採りは決して安全ではないし、逆に熊のすみかに人間が土足で入り込んでいくようなものなので、そのリスクは覚悟しておかなければならない。

雑食の熊にとっても、ネマガリダケはごちそうだという。冬眠から覚め、まだ木の実を含めて食べ物が十分でない春先から初夏にかけて、ネマガリダケは熊のごちそうなのだ。

細くて人間でも簡単に入れるようなチシマザサの藪であれば熊もいるだろうが、太くて長いチシマザサの中では熊も身動きできない=熊はいない、なんて都合のよい解釈はしないほうがよいだろう。

一番は熊に出会わないこと。私は熊鈴(高音域のもの)、ラジオ、防犯ブザーを身に付けている、熊が出そうな広々とした見通しのきくような場所では防犯ブザーをけたたましく鳴らす。万が一出くわしてしまったときのためによく熊除けスプレーを持ち歩けというが私は持っていない。仮に持っていても、手に持ってずっと歩くわけにはいかないし、そんな時にリュックを下ろして出している余裕があるかどうか。ナタで応戦しろとあるが、ナタも持っていない。万が一出くわしたら私はどういう対処ができるのか。それ以上に、平常心でいられるのだろうか。

最近、登山やネマガリダケ採りで山に行くときには、熊のことばかり考えている自分がいる。




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