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あかちゃんはどうぐじゃない

最近、「父の大事にしているものがどんどん失われていく」それは世の常、長く生きると周りの人や生き物が死んでしまうことは通常のことなんだけど、それだけでなく、余りにも辛い目にあうことが父は多すぎる。だからそれを一発で幸せに回復させるにはもう孫しかいない、あかちゃんを差し出したい、そういう思想に駆られていて、昨日はどうしたら精子が手に入るか、ということをひたすら考えていたり、赤ちゃんポストに捨てられてしまう子どもはもらえるのか調べたりして、いつか小野くんに言われた「あかちゃんは道具じゃない」という言葉が呪いのように胸中に響いた。
それを言われた時は、わたしの部屋で並んで寝転がりながらあれやこれやと取り留めのない話をしていたときで、本当に幸せな時間だったのを私は一発で凍り付かせてしまった。わたしがKと付き合っていた時に、Kが一度も避妊しようとしなかったけれど、わたしはあかちゃんが欲しかったからそれでよかった、というようなことを言ったためだ。なんであかちゃんが欲しかったのかと聞かれ、「あかちゃんがいたらKを繋ぎ止められるから」というようなことを言ったため、一瞬小野くんは絶句して、項垂れ、そしてその言葉を発して、それまで毎日一緒の部屋で寝ていたのに「今日は一人で寝たい」と言って部屋から出て行こうとした(でも私がそれを許さず結局小野くんが折れて背中を向けて寝た)という、初めて小野くんに呆れられた、というか悲しませた時のエピソードとしてわたしは記憶している。その時わたしは本当はそんなことを言いたいわけではなかった。わたしはKと付き合っていた時もその後小野くんと付き合っていた時も、単にあかちゃんが欲しかった。言語化するとしたらそうでしかない。それをうまく理由付けしなければいけないと咄嗟に思ったのだろう、そういうことを言った、でもそれも嘘ではなかったから出てきた言葉だ。感情を一つの言葉で説明することはわたしはできない。嬉しいと思っている時必ず悲しいもある、矛盾するものが一緒にある。いろいろある。
それで、昨日ずっと精子をもらうにはどうの、を調べていたとき、うっすらわたしは倫理観とかきっと崩壊している(と思われている)から「あかちゃんは道具じゃない」とか言われてしまうんだな、父に孫を差し出すとか、生贄じゃないんだから、そしてそれで悲しいマイナスポイントを一気に、一発でハッピープラスポイントに回復させようという単純発想、終わってるんだろうなわたし、(でもわたしはそれが悪いこととは思ってない)と思う、思うけれどそれもやっぱり理由の一つ、父に差し出さずともやっぱり子どもがほしいという感情があり、それをうまく説明できない。育てるの大変ですよとかお金がないととか言われても、全部なんで大変だったら子どもを育ててはいけないのか、なんでお金がなければ子どもを産んではいけないのか、なんでなんでとなってしまう。人はスッと分かることも分からない。
でも今日、可愛らしいお菓子をいただいて、包みからまず可愛かったんだけど、開けたら小さくて、丸くて、クリームもマカロンのような生地もピンクで、その上に小さいイチゴがちょんと乗っているとても可愛いお菓子で、しばらく眺めて、少しかじったら中に濃いピンクのジャムが出てきて、その断面も可愛くて、味も美味しくて、とっても幸せな気持ちになって、その時にまさに。今私はちょっとハッピープラスポイントGETしたな、と感じ、父を幸せにしたいのであれば、こういう小さいポイントをコツコツ差し上げる方法もまああるといえばある、と思った。あかちゃんだともちろん一発逆転で幸せにできるけど、もし赤ちゃんが、不幸にもあかちゃんのうちに死んでしまったら、もう父をどん底に突き落とす止めを差してしまう、そのリスクもある、いやだな、あかちゃんが死んでほしくない、と生まれてもないあかちゃんが死ぬことを想像してうっすら泣く。
こういう感じだから、小野くんには別れる間際「安部さんとの間にあかちゃんは望めない」とも言われてしまう、(その後わたしが心底傷ついたため、誠心誠意陳謝してくれたけど)それはもうこういう感じだからと理解できる。わたしも自分で健全な思考をできない人間だと理解している。
でもいっこだけ、言いたい。わたしは絶対にあかちゃんを大事にできるし、道具にしようなんて思わない。ただ、あかちゃんが欲しい、という感覚は母体としてあるのだと思う。子宮かどこかから脳に送られている電気信号をキャッチしていて、言語化が難しい、というだけだと思う。そこに社会性とかなんか分からんけど育てるの大変とかお金がないととかが加わって人は産みたいが減ったりするのかもしれないけど、そこが一切分からないため、産みたいがずっとある。今小野くんと交際していた時よりも産みたいが強いのも、年齢的な体からの信号だと思う。

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