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ブランディングのことを考えていたら『ダークナイト』を観るべきだなという結論に達した話

 インフルエンザになってしまったので、じっくり映画を観て、読書をしながら、ブランディングのことを考えるなら『ダークナイト』を観たがいいんじゃねぇの、という話を書いた。


【ブランドって、なんだっけ?】

 いまこの文章を打っているPCのケース、手元にあるiPhoneのカバー、カード類ばかり入った長財布、自宅のカギをぶらさげたキーホルダー、kindleを入れたポーチ、そしてそれらを入れるバッグ。その全てを"FREITAG"というブランドで統一している。高校生の頃に出会ってから、今の今でも最も好きなブランドだ。きっと皆にも、そんなブランドがひとつはあるだろう。
 「これが俺の好きなブランドだ」と誇りに思い、そのブランドの何が好きなのか語りたくてたまらないもの。そのブランドへの愛を通して、自分の価値観を表現できるようなもの。自分がつくったものでもないのに、自分のひとつのように思えるもの。どこぞの誰かの研究では「ブランドへの心酔と宗教への信仰は、脳の反応に類似性がある」なんていう結論に達していたというけれど、至極納得のいく話だ。

 でも、そもそもブランドって何だっけ? 「その言葉の意味を知りたかったら語源を知れ」というのは僕の予備校の英語の先生の言葉だけど、どのくらいのひとがブランドの語源を知っているだろうか。ブランド(Brand)の語源は"burned"、つまり「焼印」のことだ。自分の家畜と他人の家畜を間違えないように区別するためにつけた印。それがブランドの語源だ。

【ブランディングって、何だっけ?】

 他のものとは違うという印、それがブランド。だとするならば、印をつけただけでは「単なる違い」「ただの印」でしかない。じゃあ、どうすれば「ただの印」が「唯一無二の印」になりえるのか。
 プロダクトの独自性? それは確かに大事なことだ。そのプロダクト自体が一目で他のものと区別できる意義は大きい。洗練されたプロダクトデザインは、それだけで手にしてみたいと思わせる。
 憧れる世界観? それも確かに重要だ。広告などを通してつくりあげられたブランドの世界観に惹かれて「俺もそれを持っていたい」と思った商品は多いだろう。
 忘れられない体験? 何気なく使っていたサービスで、ある日思いがけない嬉しい体験をし、それからそのサービスを優先的に使うことにした、というのはありえる話だ。
 共感を得るストーリー? 僕の好きな要素のひとつは、これだ。FREITAGの創業ストーリーを何度読んだかは分からない。語ってくれとは誰も言ってくれないけど、もしよかったらお酒のつまみに自分のことのように話してあげる。
 重要そうなものを4つほどあげてみた。でも、これだけで本当に「ただの印」が「唯一無二の印」になるんだろうか。いやはや、難しい気がする。最も大事なことを忘れている。
 掲げるビジョン! これが特に大事なんじゃなかろうか。言い換えるならば「マニフェスト」と言っても良いかもしれない。

【マニフェストを掲げよ】

 皆は、このnoteをどうやって読んでいるんだろう。なんとなくだけど、ほとんどがiPhoneなんじゃないかな。iPhoneが大好きなひと、というより、Apple製品が大好きなひとに「なんで好きなの?」と聞いてみれば良い。結構面倒臭いことになるかもしれないけど、最終的にはここに辿り着くだろう。"Think Different"への共感だ。
 別の例を出すとしよう。僕自身の話になるけど、お気に入りのネクタイがある。「giraffe(ジラフ)」というブランドのネクタイだ。知ってるひともいるかもしれないけど、遠山正道氏が社長をつとめる株式会社スマイルズが手掛けるネクタイ専門ブランドである。カラフルな色や柄使いで、素材もシルエットも様々。ラインナップは、34℃、36℃、38℃、40℃と4段階の体温別に分けられているという一風変わったブランドだ。面白いブランドには、面白いマニフェストがあるもので、このブランドの場合はスマイルズ自体のマニフェストのことだろう。スマイルズの事業は、全てこのマニフェストのもとに生まれているのだ。それが、この言葉。"世の中の体温をあげる。"
 掲げるビジョン/マニフェストがこそが、ブランドを大きな物語にし、その物語に参加したいファンを生み、物語をより大きくしていく。
僕はそんな気がしている。
 掲げたビジョンのもとに、プロダクトが生まれ、憧れるような世界観が作り出され、共感を得る様々なストーリーが紡がれ、忘れられない体験をさせていくのだろう。

【そんなこと、ジョーカーがやっている】

 ここまで偉そうにブランドやブランディングのことを書いてみたけれど、なんてことはない、全て『ダークナイト』を観れば分かる話だった。これが、今回の本題だ(前置きが長すぎてごめんなさい)。

 ジョーカーといえば、言わずと知れたヴィラン中のヴィラン。悪役なのに、主役以上にファンが多い彼は、アメコミ史上・映画史上最もひとの心を狂わせた悪役と言っていいだろう。コミックや映画など、ジョーカーが出てくる作品が多いのが、それを現す証拠だ。そんな数多い作品の中でも特にシビれるジョーカーといえば、クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』で間違いない。

 その『ダークナイト』を観ればブランドやブランディングのことが分かるって? 何を言ってんだいチミは? そんな声も聞こえてきそうだけど、まぁ、黙って読んでくれ。

【ジョーカーは、ブランドそのものだ】

 『ダークナイト』を観たひとなら分かると思うけど、冒頭からエンディングまで、ずっと目で追っていたのはジョーカーだった。ジョーカーがいかに現れ、何を語り、何をするのか。一体、彼は何を考えているのか。終始そればかりが頭を埋め尽くしていただろう。そして観終わった後、誰もが心の中で「最悪なやつだ...でも、最高にカッコいい」と惚れてしまったに違いない。
 ジョーカーをブランドと考えてみれば、まさにジョーカーブランドの心酔者となってしまうのが『ダークナイト』の恐ろしさである。

 では彼は、ジョーカーというブランドを作り出すために、どのようなことをしていたのだろうか。要は、どうブランディングしていたのか、ということだ。

【ジョーカーには明確なビジョンがある】

 鑑賞者の多くは思ったことだろう。こいつの目的は何なんだ、と。確かに銀行を襲ったかと思えば、他のギャングを攻撃したり、市長の命を狙ったり、バットマンに喧嘩をふっかけたり、あえて警察に捕まってみたり、ハービーデントを闇に引きずり込んだり。ただの思いつきで行動しているように思えるものばかりだ。しかし、彼には明確なビジョンがあった。それは、「世の中の秩序をぶっ壊すこと」である。
 そのビジョンに共感できるっ!と両手をあげて賛同する者は少ないだろう。そんなビジョンに共感してたまるか、というひともいるかもしれない。しかし、本当にそうなのだろうか。そもそもこの映画を観ようと思った動機は何だろう。退屈な日々に少しでも刺激を欲していたとか、善悪を超越するような存在を見てみたいとか、自分の常識をひっくり返すような新たな体験をしてみたいだとか、そういった動機があったんじゃないだろうか。
 ここまで言えば分かるだろう。この映画を観ようと思った時点で、少なからずジョーカーのビジョンに共感しているのだ。と、僕は思う。

【ビジョンをいかに表現するか】

 「世の中の秩序をぶっ壊す」というビジョンをどう表現していくのか。そこが肝心だ。例えば、"Think different"というビジョンを掲げただけでは誰もその言葉を信じない。製品そのもののデザインはもちろん、アップルストアでの体験、クリエイティビティ溢れる広告の数々、そして創業者であるスティーブ・ジョブスの言葉や生き方。それら全てを通してビジョンを語り続けていくことで、ファンが生まれていくのだ。
 一方、ジョーカーである。彼はそのビジョンをあらゆる手段で見事に語り続けていく。映画史に残る登場シーンからすでに魅せてくれる。

 ギャングはたしかに非道だが、ギャングの中にもルールはある。しかし、それを平気で壊すのがジョーカーだ。そして彼は平気で資本主義をも破壊しようとする。


 それが広告か、店舗での体験か、魅力的なストーリーか。肝心なのは、きっとそこではない。そのビジョンを語り続けることこそが重要であり、手段は何だっていいのだと思うのだ。

【ジョーカーは色を味方にする】

 『ダークナイト』に限らずだが、ジョーカーの色といえばパープル&グリーン。緑色に染め上げた髪に、紫色のジャケットが彼のスタイルだ。この色の組み合わせを目にすると、僕は自然とジョーカーを思い出す。おそらく、映画の中の一般人は、この色の組み合わせを見ると震えていたに違いない。
 ブランドにとってブランドカラーが重要なのは、ティファニーを見れば明らかだろう。

イラスト:『BATMAN'S DETEVTIVE COMICS』#475「THE LAUGHING FISH」より

イラスト:『BATMAN THE KILLING JOKE』表紙より 

【じゃあ、皆で『ダークナイト』観よっか】

 「ビジョン」を掲げ、様々な手段を通してそのビジョンを語り続け、色といった視覚的な表現も活用していくことでブランドをブランドにしていける。そう考えるとジョーカーは、それらを全て自然にこなしている。
 と、ブランディングのことを考えていたら『ダークナイト』を観るべき、という結論に達した話。どうだろう、一人くらい「なるほどね」とでも思ってくれただろうか。
 純粋に映画として最高なので、ほんのちょっと「ブランド」、「ブランディング」という視点で観てみても面白いかもしれないよ、ってくらいの話だけど、観てみたいと思えたならぜひご一緒させてくれ。
 まぁ、そんなクソ真面目な姿勢で映画を観たら、きっとジョーカーにこう言われそうだけどね。

"Why so serious?"


END


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