芸人人生 第89話 舞台公演

舞台当日。

今日は本番だ。

押本興業の養成所の建物は
4階から5階は授業の教室になっており
2階から3階は劇場や楽屋となっている。

俺は初めて養成所の劇場に。

お客さん側としては人生初めてだ。

劇場はとても綺麗。

100人以上は入るであろう。

俺はすぐに

‘漫才がしたい’

そんな気持ちでいっぱいだった。

ただ今日は同期の晴れ舞台。

舞台の公演とはどんなものか。

そんな気持ちも片隅に置きながら

舞台の幕が開いた。

早速舞台にはぞろぞろと同期が居た。

本日の公演はAチームとBチームに分かれている。

まずは万田ちゃんの居るAチームから。

Aチームには矢沢や川井と小呂沢
泉に腕倉。同期の主力メンバーが揃っている。

そしてまるで’役者’のような演技力。

そこで引き込まれた。

すげぇ。芸人なのにみんな演技力がある。

稽古の成果なのか。


ストーリーは青春物語。

主演と思われる川井が長セリフをスラスラと

みんなテンポよく動きを見せていく。

たまに笑いも含ませて

お客さんもウケている。

ドラマで何か見たことあるような舞台の公演。

同期がやってるからなのか、唾を飲み込む暇も忘れるくらい俺は釘付けとなった。

すると、袖から

オタクの格好をした

万田ちゃんが舞台に姿を現した。

オタクの姿にお客さんはどハマり。

出てきただけで大ウケ。

セリフも動きも表情も役に合わせて

万田ちゃんは爆笑をかっさらっていく。

俺は相方として。

誇らしくなってしまった。


すごい。


漫才でも、コントでもない。

こんなお笑いもあるのか。

すげぇ。万田ちゃん。

そんな事を思ってると、話はどんどん進んでいく。

お笑いだけではなくしっかりと話も良くできている。

まるで生の映画を見てるように、引き込まれる。

そしてお笑いの場面もある。

まるで’緩和’

時間はあっという間にすぎる。

同期の圧巻の演技力にもただただ見惚れてしまう。


いつもネタやってる姿しか見ないだけに

とてもみんなが輝いて見えた。

舞台も終盤。

とても緊張感のある場面。

そこにここぞと万田ちゃんが登場した。


「この出会いを大事にしようよ。信じようよ。相手の事を。必ず僕ならできるよ。必ず。」


万田ちゃんの大事な場面台詞。

俺にも刺さる、誰にでも刺さる

この言葉

鼻をすする様な音も聞こえた。

俺もグッときた。

この舞台のストーリーにも

同期にも

万田ちゃんにも


そしてクライマックスに向かい、また万田ちゃんは笑いをかっさらう。


凄い。

笑いも感動も。

なんて素晴らしいんだ。


俺は涙が目に溜まった。


どれだけ稽古したのだろう。

どれだけ大変だったんだろう。

俺は何を考えていたんだろう。

相方がこんなに頑張っている中

俺は要らない事を考えて

その間にネタでもなんでもやれる事はあったのに。

ごめん。万田ちゃん。

俺、もっと頑張るよ。

皆が横一列に並びお客さんに深々と頭をさげた。

『ありがとうございました!!!』

お客さんからは拍手喝采。

鳴り止まないのでは無いかと思うくらい。

‘舞台公演’は大成功だった。

そして俺らの距離も元どおり。

いつもどおり漫才をする事ができた。

これであとは練習を積み上げるだけ。

そう。次は12月。

‘今年最後の大イベント’

寒くなってきた季節をもう一度暑く。

東京23期生と大阪40期生のガチンコバトル


‘東西対決戦〜大阪の巻’

の出場権を手に入れるオーディションが

開催しようとしていた。






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