芸人人生 第九話 漫才

「すみませーん!ウーロン茶2つと梅干しサワーください!」

「ウーロン茶1個めっちゃ混ぜてください!」

「混ぜなくていいだろ。」

「混ぜた方が美味いやろ!」

「納豆じゃねんだから」

「すみませーん!納豆もくださーい!」

「混ぜたくなってんじゃねぇよ。」

村多は大丈夫です。と店員さんを厨房に戻した。

村多はボソッとツッコむ。パワーはないけど
一つ一つ丁寧に的確で素早い。
俺と違ったツッコミだ。

上松はよくボケる。
来て早々、ボケを連発してくる。
こんな奴見たことない。

「で、菊池はさぁー…!」

(俺にボケてきた!)

「き、木口な!きぐち!」

なんか焦ってしまった。

「なんで上松は酒飲まないの?」

俺はとりあえず話を振った。

「俺まだ、19やで。12月で20歳や。」

「19!?」

若さはあるが、まさか十代と思わなかった。

「村多は45やっけ?」

「24だわ。アラフォーじゃないんだよ。」

またボケた。

会話が進むと同時にボケてくる。

「上松はなんで村多と仲良いの?」

「何日か前に、同期の何人かでご飯でも行こうってなってな!それが初対面や。」

「そうなんだ。」

(ボケてこなかった。)

「だから今日会うのが2回目!
村多は会いたくて震えてたみたいやで。」

「西野カナか。」

(ボケた!)

「もう連絡もしつこくてなぁ。
彼女みたいやで。ねぇダーリンー♩ってうっさいねん。」

「だから西野カナじゃねんだよ」

(被せてきた!)

「にしてもカラオケ行きたいなぁ〜。村多は何歌うん?」

「………西野カナ。」

(村多が合わせにいった!)

「きしょ!!」

「おまえが言わせたんだろ!」

すげえ。


‘漫才’だ。


俺は初めて生で’漫才’を見たよう気がした。

ボケてツッこんで、会話が続いていって


おもしれぇ。’漫才’。


「上松!!!


俺の相方になってくれねぇか!!?」


2人は時が止まった様にしばらく俺を見ていた

俺は気付いたら言葉が口から飛び出ていた

「びっくりした!なんやねん急に!」

時が動き出したかの様に上松が驚いたリアクションをとった

「上松と漫才がしてみたいんだ!!頼む!」

「えーー??」

上松は驚きながらもチラチラと村多に目を向け

「実はな、俺も今日村多にコンビ組んでくれって言おう思っとってな」

『え!?』

俺と村多は声を揃いて驚いた

「初めて会った時から、話してて良いなー思っとって。今日言ってみようと思ってたんやけど
まさか、初対面の木口に誘われると思わなかったわ」

上松はさっきまでの表情とは違って、静かなトーンで話し出した。
素の上松が見えた気がした、

「まず…、村多の答え次第やな。どうなんや。村多」

「ん〜。すまん。
俺もう相方決まってるんだよ。」

『え!?』

俺と上松は声を揃いて驚いた

「だって今日相方探しの授業出てたじゃねぇか!」

俺は勢いよく村多に指を刺しながら言った

「いや、同じクラスの奴と組むつもりなんだけど。一応どんな感じか見ておこうかなと思って。ボケの奴ら見たけどあんまり良い人居なかったからもう決めたんだよ。だから俺も授業抜けたんだ。」

「マジかいな…言ってや〜…」

「こっちのセリフだよ。おまえが授業寝坊して来なかったのもいけないんだよ。」

「じゃあどないしよーかなぁー、」

「木口と組んでみたら?」

村多の提案に俺は上松の顔にすぐ目を向けた

「一回2人で話してみなよ。な?」

「んーーーーーーーー、とりあえずやね。」

「上松!!!!今日話そう!!!」

俺はテンションが上がった

「今日!!!?」


「すみませーん。」

さっきの女の子の店員さんが申し訳なさそう表情をしてテーブルに来た

「ちょっと今日事情があってー、
もう閉店になります。」


『え!!?』

俺と村多と植松は声を揃えて言った

そして、
明日俺は上松と話し合うことに決まった

俺らは居酒屋を出て、
3人で駅に向かった。

まだ夕日が赤く染まっていて、俺らの影が大きく映し出されていた。

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