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【ネタバレあり】映画『フロントランナー』感想【狙いすぎな映画】


こんにちは。これです。


今回のnoteも映画感想です。今回観た映画は『フロントランナー』。『グレイテスト・ショーマン』のヒュー・ジャックマン主演の社会派映画です。私はあまり社会派映画というのは観ないので、今回はチャレンジの意味も込めて観に行きました。


で、観たところ「面白いけど、手放しでは称賛できないかな」という感想を得たので、今回のブログではそれについて語っていきたいと思います。前回の『メリー・ポピンズ リターンズ』よりは短くなっていますので、何卒よろしくお願いいたします。






―目次―  ・良かったところ  ・この映画のテーマについて  ・狙いすぎな映画




―あらすじ―  史上最年少の46歳で民主党の大統領候補になった若きカリスマ政治家ゲイリー・ハート。ジョン・F・ケネディの再来と言われた彼は1998年の大統領選予備選で最有力候補《フロントランナー》に一気に躍り出る。しかし、たった3週間後、マイアミ・ヘラルド紙の記者が掴んだ”ある疑惑”が一斉に報じられ、急展開を迎える......。勝利を目前に一瞬にして崩れ去る輝ける未来。その時、ハートは? 家族は? 選挙スタッフは? スクープを求めるジャーナリストは? そして、国民はどんな決断をしたのか?  (映画『フロントランナー』公式サイトより引用)




※ここからの内容は映画のネタバレを含みます。ご注意ください。




・良かったところ


この映画の良かったところと言ったら、一番はなんといっても主演のヒュー・ジャックマンですよ。大統領最有力候補〈フロントランナー〉であるゲイリー・ハートを演じたこの映画では様々な表情のヒュー・ジャックマンを観ることができます。


大統領候補として演説しているヒュー・ジャックマンは毅然としていて、その横顔に見とれてしまうほどですし、夜のマイアミでクソマスコミにキレる姿は迫力がありました(そもそもわざわざ本人が出る必要はあったのかという疑問はこの際置いときます)。スキャンダルへの対応を迫る部下にも大声でキレる様は必死さを感じさせますし、演説の前のマスコミに対する静かなキレっぷりも素晴らしかったです。あれ?なんかキレてばっかだな。『フロントランナー』はヒュー・ジャックマンがキレまくる映画です


その一方で迷惑をかけてしまった奥さんを思っているのはグッときましたね。情けなくて頭が上がっていないんですが、それがまた切なくていい。大統領候補でありながら人並みの失敗もする等身大の人間らしさもあって魅力的なキャラクターでした


それと、観る前は「『フロントランナー』って重い社会派映画だよな」って考えてたんですけど、実際観てみたら想像以上にエンタメしてました。まず最初のシーンからして、クラップを多く用いた軽やかな音楽がバックに流れてるんですよね。これによって観ている私のポーズを解かせてくれましたし、その後も神秘的なピアノの音が映画を包み込んだと思ったら、船のシーンはロックで盛り上げてくれますし、特に前半は音楽の力もあって軽やかに見ることができました。


それにちゃんとゲイリーの心情の動きが描かれているのもいい。自身に満ち溢れた口元がだんだん歪んでいくところとか、演説の場で冷静さを欠きそうなところを理性で抑えようと苦労しているところなんて人間味に溢れていてよかったです。ヒュー・ジャックマンもその時々にマッチした演技をしていましたし、ゲイリーの心情とストーリーがリンクしているのがこの映画の長所でもありますね。心情に呼応して物語が進んでいくのはとてもエンタメ的でした。



(実にいい素材だ)




・この映画のテーマについて


と言ってもこの映画のテーマなんてもう分かりきってますよね。近年の政治に対するイメージ至上主義への警鐘ですよ。もう隠そうともオブラートに包みこもうともしていない。剥き出しで丸出しですよ。


ゲイリー・ハートは次期大統領への最有力候補でした。選挙運動も順調で向かうところ敵なしです。ただ、ある日彼はマイアミで妻以外の女性と密会していたことを地元紙の記者に見られてしまいます。そして記事が出されてゲイリー陣営はてんやわんや。無視すればいいのにゲイリーはまともに取り合ってしまい、どんどん状況は悪化していきます。そしてついには彼が大統領になることは叶いませんでした。


映画の中でゲイリーは「大統領候補者は清廉潔白でモラルを重んじるべきだ」と言っていて、それをネタにマスコミの激しい追及を受けます。でも、政治家って清廉潔白である必要なんてないと私は思うんですよね。もちろん裏金だったり法律に触れることはダメですよ。でもゲイリーが起こした問題って女性関係じゃないですか。法律に触れてなければ何したっていいというわけではないですけど、直接的には政治には関係ないことですよね。そんなに取り立てて騒ぐことでもないと思うんですよ。


そもそも皆さんって有名人のゴシップに興味ありますか?私は全くないんですよね。誰が付いた離れたなんてどうでもいいし、不倫だったりも当人同士の問題なんだから公にすることないと思うんですよ。でも、ゴシップって無くならないじゃないですか。それって有名人はこうあるべきという理想像を勝手に押し付けて、それから外れることを許さないっていう信条からなんですよね。有名人だって一人の人間ですからもっと自由にやっていいと思うんですけど違うのかなぁ。


それに政治家にとって一番大切なのってプライベートでの清廉潔白さじゃないですよね。政策や実際の行動ですよね。でもメディアってそんなことを取り上げずに、「誰々がこういう失言をした」とか「こんな態度を取った。辞任だ」みたいなことばっかり言ってますよね。中身よりも外面が優先される時代にどんどんなってきているんですよね。


映画でゲイリーが「政治はハリウッドのパパラッチとは違う」って言ってましたけど、何も違ってないですし、「政治はスポーツになりつつある」っていうのは本当その通りだと思います。印象がいい人を選ぶ人気投票になりつつあるんですよね。確かに印象は大事だけど、それよりはもっと中身を見ようぜっていうことを『フロントランナー』は言いたかったんだと思います。







・狙いすぎな映画


『フロントランナー』は上記のようなメッセージを本当に何一つ隠すことなく火の玉豪速球で投げ込んできました。いや、分かるんですよ。すげぇ分かるんですよ。ただこれはちょっとやり過ぎかなって思ったんですよね。なぜかというと『フロントランナー』はこのメッセージを強く訴求するために、マスコミを徹底的に悪として描いていたからです。


この映画でのマスコミというのは唾棄すべき存在です。裏付けも取らず記事を書き、ゲイリー陣営はおろか実家にまで殺到し、容赦なくフラッシュを焚きつけ、質問の雨あられを浴びせかける。もう過剰なほどに悪役として描かれていました。それぞれの事情があるにしても、それは映画に何の味付けも施していません。


で、私はこの過剰さに途中で辟易してしまったんですよね。具体的にいうと終盤の謝罪会見のシーン。雨後の筍のように勢いよく手を上げる記者たちがもう単純にうるさい。ここまでちゃんとのめり込んで観ていたのに、ここで一気に冷めてしまいました。で、思ったんですよ。マスコミ悪く描きすぎていないかって。


いや言っておきますけど、ここでマスコミを擁護する気はさらさらないですからね私。私もマスコミってクソだなって思ってますから。あることないこと書き立てて、間違った切り取り方をして、偏向報道やフェイクニュースがまかり通る。金のためなら何書いてもいいっていう不誠実な態度に飽き飽きしてますから。そもそもこの映画で一番悪いのもマスコミですしね。


でも、そういったマスコミの人たちにも生活があるわけですよ。家族を養っていかないといけないわけですよ。で、『フロントランナー』っていうのはそういった部分を徹底的にオミットして、マスコミのことをまるで頭のないモンスターみたいな描き方をしてるんですよね。もう可哀想に見えてきますよ。でまた描かれ方がステレオタイプすぎる。対象に殺到し迷惑をかける、容赦ない質問を投げかけるみたいな「ぼくのかんがえるさいあくのあくやく」といったテンプレートのオンパレードです。こうしたらいいっていうことは具体的には言えないんですけど、もうちょっと工夫してほしかったなっていうのは正直なところです。


そんでもってこの映画の最後はゲイリーがマスコミに屈して終わるんですよね。でも、奥さんとは夫婦でいる。いわば負けるが勝ちというエンドなんですけど、これもちょっと納得がいかないなって。だってゲイリーは次期大統領最有力候補ですよ。国民が彼が大統領になることを期待しているんですよね。でも、ゲイリーはマスコミに屈してしまった。これは国民に対する裏切りですよ。まともに取り合ってしまったゲイリーもゲイリーで悪いんです。だって無視していれば彼は大統領に慣れていたはずですから。


なので、この映画のキャンペーンで「裏切ったのは誰?」というものがありましたけど、私は裏切ったのは他でもないゲイリーだと思いますね。そう考えると最後も屁理屈つけて丸め込ませたかのように感じてしまいます。まあ大統領の座よりも家族を取ったといえばそれまでなんですが。



確かにこの映画は観た後に「ジャーナリズムって何なんだろう」「現代の政治って何なんだろう」ということを考えさせられます。そういう意味ではとても意義のある映画なんですが...。これ明らかにアカデミー賞を狙いにいってますよね。だって政治とジャーナリズムを扱っているこの映画は、考えたがりのアカデミー会員にうってつけじゃないですか。でも実際は、作品賞はおろか一部門にもノミネートされなかった。ということはつまりそういうことなんだと思います。単体としては十分面白い映画なんですが、やりにいってしまったのは残念です。






以上で感想は終了となります。映画『フロントランナー』。最後は批判になっちゃいましたけど、ちゃんとエンタメとして面白く、考えさせられる映画でもあったので観て損はないと思います。興味のある方はどうぞ。


お読みいただきありがとうございました。

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