税効果会計ざっくり解説&理論問題(基本から応用)

近年の試験範囲改正により、簿記2級が鬼のような難易度となりました。簿記1級の試験範囲の一部が2級へ「こんにちは」したからです。税効果とか、意味分からないですよね。連結とか、ややこしすぎますよね。3級と2級の差よ。

では1級。少しは楽になったのか。

そんなわけありませんね。相変わらずえぐい。昨今、易化(基本化)している会計士試験を解いてきた身からすると、回によっては1級の方が難しいときあります。意思決定会計とか特に。近年の2級の難化によって、2級と1級の差が少しずつ縮まってきたとはいえ、さすがにそこは簿記資格の最高峰1級。難しいですよやっぱり。概念フレームワークややこしいですよね。子会社の株買ってすぐ売らないで。資産除去債務のキャッシュフローの見積り、すぐ減少させるなら安易に増加させないでややこしいから。相変わらず税効果や保有株式の区分ややこしい。

そもそも範囲が広すぎるのが、簿記の勉強がキツく感じる要因のひとつです。その広すぎる試験範囲を深掘りするのは効率的ではありません。可哀想ですが、すべての論点を平等に扱う必要はないのです。重要性の高い(出題頻度の多い)論点をまずは重点的に押さえ、それから少しずつ他の論点を固めていくことが大切です。

そこで、今回は2級でも重要な税効果会計について、特に押さえてほしいところを中心にざっくりと理解し、その後すぐに理論問題をチェックして知識を固めていきましょう。

まずは税効果会計。ややこしい論点の筆頭。しかし、税効果会計を勉強すればするほど、めちゃくちゃ重要な会計処理だということを理解することができます。

では、ざっくりと見ていきましょう。

たとえば、税引前純利益が100、法定実効税率(法人税率と考えて良いです)が30%、実際の法人税等が45であった場合,税引後純利益は100-45=55となります。しかし、実効税率が30%であるならば、法人税等は100×30%で30となるはずなので、税引後純利益は100-30=70となるはずです。15だけズレてます。なぜズレるのか。まずはここを理解するところから始まります。

なぜズレるのかといえば、それは会計上と税務上で利益の計算方法が違うからです。なぜ利益の計算方法が違うのかといえば、そもそも会計上と税務上で利益計上の目的が違うからです。会計上は経営成績の算定・開示のための利益計算、税務上は税金計算のための利益計算を目的としています。

ごちゃごちゃしてきたので少しまとめます。

利益を計算する目的→会計上は経営成績の算定・開示のため、税務上は税金の計算のため→そもそも目的が違うため、利益の計算の方法も異なる→利益の計算方法が異なるから算定される利益も異なることがある(というかほぼ異なる)→利益が異なるから、税率が一緒でも算定される税金(法人税等)の金額が異なる→税引後純利益がズレる(税引前純利益と税引後純利益が税率と一致しない)。

利益の計算が相違する例を見てみましょう。代表例は減価償却費。減価償却費の金額は減価償却方法によって変わります。よって、会社は減価償却方法を任意で選ぶことによって、減価償却費を操作(=利益を操作)することも可能になるということです。                   他方で税務上は、公平に税金を徴収したいと考えるわけですから、会社が各々減価償却方法を決めることで、減価償却費(利益、ひいては納める税金)を操作することを嫌うわけです。そこで税務上は、固定資産ごとに法定減価償却方法や法定耐用年数を定め、算定される減価償却費を公平にしています。

例を見てみましょう。

会社は1,000の固定資産を耐用年数5年で償却税務上は同じ固定資産を耐用年数4年で償却

会社の償却費は一年あたり200                          税務上の償却費は一年あたり250

計上される費用が50ズレた(税務上が会計上よりも費用が50多い)ということは、その金額の分、計上される税金もズレます。具体的には、税務上の方が費用が50多くなる=利益が50少なくなるので、計上される税金が15(50×実効税率30%(とする))だけ、会計上よりも少なくなります。このズレを調整するのが税効果会計の役割です。

税務上の税金の方が会計上の税金よりも15多くなっているわけですから、15だけ税金を減らす調整をすれば、会計上の税金の額と一致させることができます。こうすることで、税引前純利益と税引後純利益が一致します。

ここで例を見てみましょう。

会計上→収益500-費用400=税引前利益100  税務上→益金500-費用350=税引前利益150

この50の差は先程の減価償却費の相違です。

会社は1,000の固定資産を耐用年数5年で償却税務上は同じ固定資産を耐用年数4年で償却

会社の償却費は一年あたり200                          税務上の償却費は一年あたり250

法人税等の額は税務上の金額を基本としますから、150×法定実効税率30%=45                  したがって、会計上の税引前純利益100-45=税引後純利益55                                                  実効税率は30%なので、税引後純利益は100×(1-30%)=70となるはずのところ、        15だけ相違しています(会計70-税務55)。    これが、先程の減価償却費の相違分の15(50×30%)となります。これを税効果会計を用いて調整していきます。使う仕訳は、

繰延税金資産    15    /     法人税等調整額    15

はい、またよく分からない勘定科目が出てきました。まだ法人税等調整額はそのままなので良いのですが、問題は繰延税金資産。

そもそも、税効果会計で行っているのは税金の調整、つまり損益計算書上の数値をいじっているだけであり、実際に納める税金は税効果会計を適用する前の実際額です。ここ重要です。先程の例で言えば、実際に納める税金は、税務上の利益150×法定実効税率30%の45となります。

会計上は15だけ多く税金を納めているわけですから、その後どこかのタイミング(実際には減価償却費の差異が無くなるタイミング…ややこしいので、これはもう少し勉強が進んでから)で、納めすぎた税金15だけ調整しないと(減らさないと)いけませんね。考え方を変えましょう。将来、納める税金が減少する→法人税等という費用が減少する→費用が減少する分利益が増加→資産は通常利益の増加原因→現時点において、将来利益の増加原因(費用の減少原因)となる「資産」といえる。

したがって、納めすぎている15は現時点において「資産」といえるため、差異の解消のタイミングまで「繰り延べる」「税金」の「資産」なので、繰延税金資産という勘定科目を用います。難しいですね。

繰延税金資産の相手勘定として用いるのが、法人税等調整額です。納める税金は実際額ですが、損益計算書上は税引前純利益と税引後純利益が実効税率で対応していない(法定実効税率は30%、しかし先程の例では45%)ため、税効果会計を適用して調整します。

<税効果会計適用前>

税引前純利益100-法人税等45(税務上税引前純利益350×(1-30%))=税引後純利益55          →100-55=45(45%)で、法定実効税率の30%と一致していない。(納めるのは45だけど)。

<税効果会計の適用後>

税引前純利益100-法人税等45(税務上税引前純利益350×(1-30%))+法人税等調整額15=税引後純利益70                                                    あら不思議ですね。税引前純利益100と税引後純利益70→100-70=30(30%)と実効税率30%で一致しました。税効果会計凄い。

もう一度仕訳を見てみましょう。

繰延税金資産    15    /     法人税等調整額    15

法人税等調整額分が貸方にあります。貸方ということは、収益もしくは費用の減少と考えるため、この分だけ法人税等を減少させる調整を行います。これにより、損益計算書上は税引前純利益と税引後純利益が一致することになります。

ちなみに、差異解消時は反対仕訳をして調整するわけですが、まずはここまでの基本をしっかりと固めるようにしましょう。

なお、差異の解消を簡単に説明すると、        会社は1,000の固定資産を耐用年数5年で償却税務上は同じ固定資産を耐用年数4年で償却  会社の償却費は一年あたり200                          税務上の償却費は一年あたり250                      この場合、まず一年あたり50ずつズレが生じます。そして税務上は4年で償却が終わり、その時点で200(50×4年)のズレが生じています。しかし、会計上はあと1年分償却することになるため、5年目の償却費は会計上200、税務上は0(償却を終えているから)となります。したがって、4年目の終わりの時点では200のズレが発生していますが(税務上の方が会計上よりも償却費が200多い)、5年目に会計上は200の償却費を計上しますので、200のズレが解消します。これが一時差異の解消となります。

ズレの解消の時点をピンポイントで聞かれることはあまり無いため、余裕がある時に押さえておくようにしましょう。



次に税効果会計理論で、特に押さえてほしいことを列挙していきます。主に簿記1級や会計士試験向けの話になりますので、簿記2級の勉強中の方などは、読み飛ばすか、ふーんくらいに思っていただいてOKです。


・税効果会計の基本的な方法には、繰延法と資産負債法がある。両者の違いは主に、①差異の把握方法、②重視する期間利益、③税率である。

・繰延法→①会計上の収益・費用と、税務上の益金・損金の比較により、差異(期間差異)を把握する(損益計算書の視点)、②期間差異の「発生」する期間の利益、③期間差異が「発生」した年度の課税所得に適用された税率(税率が変更しても修正しない)                       

・資産負債法→①会計上の資産・負債と、税務上の資産・負債の差異(一時差異)を把握する(貸借対照表の視点)、②一時差異の「解消」する期間の利益、③一時差異が「解消」される年度のに適用される税率(税率が変更したら修正する)。

・税効果会計の差異には永久差異と一時差異等があるが、税効果会計の対象となるのは一時差異等である。

・繰延税金資産の回収可能性の判断のための要件3つ→①収益力に基づく課税所得の十分性、②タックスプランニングの存在、③将来加算一時差異の十分性

・繰延税金資産、繰延税金負債は、すべて固定区分に表示することとされている。(従来は流動または固定だった。)

では、理論問題を解きながら慣れていきましょう!(○×正誤問題)

①企業会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額に相違がない場合は、税効果会計は特に必要とされない。

②税効果の会計処理には、一般に繰延法と資産負債法がある。前者は期間差異の発生する年度の税率で税効果を計算して、以後、再計算を行わない方法であり、後者は、毎期末の一時差異の金額について当該金額の回収または支払いかま行われると見込まれる期の税率で計算する方法であり、我が国の会計基準では前者の方法が採用されている。

③将来減算一時差異とは、一時差異が解消する期間の課税所得を減額させる効果を持つ一時差異であり、たとえば損金に算入されない棚卸資産評価損等が挙げられる。

④将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金は、繰越欠損金の分だけ課税所得を減額できるため、その減額分に実効税率を乗じた分だけ支払う税金を減額する効果がある。したがって、将来支払う税金の額を減額するという意味で将来減算一時差異と同様の性格を有するため、一時差異に該当する。

⑤繰延税金資産および繰延税金負債を、これらに関連した資産および負債の分類に基づいて流動区分又は固定(非流動)区分に表示する。


①○→ズレがあるからこそ、その調整のために税効果会計が必要となるのです。

②×→最後が間違っています。つまり、我が国の会計基準では後者(資産負債法)が採用されています。問題文が長いので、なんとなく×という感じがしますが、なぜ×なのかをしっかり答えられるようになるのが大切です。

③○→将来減算一時差異としては、他に損金算入されない減差償却費、未払事業税等が挙げられます。計算でも重要なのでしっかりと理解しておきましょう。

④×→前半は正しいが、繰越欠損金が生じたとしても、会計上の資産・負債の金額と課税所得計算上の資産・負債の金額に差異をもたらすものではないため、一時差異と「同様に取り扱われる」が、一時差異には該当しない。少し細かいですが、なぜかよく見かけるため覚えておきましょう。


税効果会計は、それこそ六法全書くらいの厚さの本が出来るくらい奥が深い分野です。会計士の勉強をしている自分ですら、勉強できている部分はそのうちの導入くらいの内容でしょうか。しかし、試験で問われる部分は基本的な内容あるいは、繰り返し出題されている応用問題くらいです。したがって、今回の基本から、少し細かい理論くらいから少しずつ押さえるようにし、税効果会計を自分のものにしていきましょう!




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