基本例題から読み解く税効果会計~税効果会計をマスターしよう!~

税効果会計。簿記一級や会計士、税理士等の受験者でもなかなか難しい、イメージしにくい論点のひとつ。簿記2級受験者なら尚更だと思います。しかし、近年では中小企業でも税効果会計を導入する傾向があり、その重要性は年々高まりつつあります。実務での重要性が高いということは、試験での重要性も相対的に高いということ。したがって、税効果会計をマスターすることは、それぞれの試験に合格するために重要であり、また、それらを活かす実務でも必須の知識となります。そこで、やや難解でイメージしにくい税効果会計を、基本例題を用いながら少しずつ理解していきましょう!

なお、以前解説した税効果会計の基本をまとめたnoteもありますので、お時間があれば是非ご一読ください。

税効果会計の内容は、確かに難解かつ複雑ですが、要は何をやってるのかといえば、それは「会計上と税務上とで生じる期間的なズレを調整している」ということです。

具体的には、会計上の利益(損失)は、その期の収益から費用を差し引いて求められますが、税務上の所得(会計上の利益又は損失)は、その期の益金から損金を差し引いて求められます。収益と益金、費用と損金はだいたい同じになりますが、たとえば会計上で主観が伴うもの(減価償却費や貸倒引当金)や、税法等の政策上のもの(受取配当金や交際費)では両者が異なってくるので、それを調整します。この手続き(会計処理)が税効果会計です。

なぜ異なるのかといえば、各論点で細かな違いはありますが、共通しているのは「課税の公平」を保つためです。前述した「受取配当金」と「交際費」を例に見ていきましょう。会社が他の会社の株式を所有している場合、通常は配当金を受けとることになります。たとえば1,000の配当金を受け取った場合、会計上は1,000を受取配当金(収益)として認識しますが、配当金は通常支払う側に源泉徴収、つまり既に課税されているため、受けとる側は税金が差し引かれた金額を受けとることになります。したがって、会計上で認識した1,000の受取配当金に課税すると、配当の支払い側と受け取り側で課税されてしまうため、この「二重課税」を避けるために、会計上の受取配当金に課税させないために、税務上は「受取配当金益金不算入」として会計上の収益(益金)から受取配当金分の金額を差し引きます。

また、「交際費」は費用(損金)であり、これを無制限に認めてしまうと、会社のお金でが不必要に飲み食いをし、交際費をどんどん支出して利益を小さくし税金を無制限に小さくすることができます。これを避けるために、原則として税務上は交際費を「損金不算入」として、会計上の費用(損金)算入を認められません。

これらの他にも様々な項目でズレが生じることになりますが、税効果会計を学習する前の方などは、別にズレても、会計上の利益さえ正しければ問題ないのでは?と思うかもしれません。これは学習が進んだら理解してもらうくらいの感覚で構わないのですが、特に金額の大きい上場企業などでは、税効果会計を適用しなければ会社の業績を正しく計算できなかったり、投資家等が誤った判断をしてしまったりすることがあります。したがって、税効果会計は必須の会計処理といえるため、しっかり学習していく必要があります。少しずつで良いので、税効果会計をマスターできるように頑張りましょう!


例) 税引前純利益10,000 ただし、減価償却費の損金不算入が2,500 受取配当金の益金不算入が1,000 その他益金算入が1,500 その他損金算入が2,000であった。法定実行税率を30%として、未払法人税等を計上する。

税引前純利益は10,000ですが、益金不算入額(税務上は益金(収益)として認められない額)が1,000(受取配当金1,000)、損金不算入額(税務上は損金(費用)として認められない額)が2,500(減価償却費2,500)、その他益金算入額(税務上は益金(収益)としなければならない額)が1,500、その他損金算入額(税務上は損金(費用)としなければならない額)が2,000となっているため、税引前純利益10,000-益金不算入額1,000+益金算入額1,500+損金不算入額2,500-損金算入額2,000=11,000となり、この11,000に法定実行税率30%を乗じた3,300(11,000×30%=3,300)が、今期の税務上の未払法人税等となります。

では、税効果会計を適用しないとどうなるか。

税効果会計を適用しなければ、会計上の税引前純利益10,000に、先程算定した税務上の法人税等を対応させた結果、税引後純利益は、10,000-3,300=6,700となります。

ここで、株主の視点からこの結果を見てみましょう。株主は、会計上の税引前純利益の10,000に対して、法定実行税率30%を乗じて法人税等を算定した結果、税引後純利益は7,000となるはずだ(支払う税金は10,000×30%=3,000)と考えるはずです。

株主からすれば、税引後純利益は7,000になるはずと思ってたのに、実際は6,700となっています。もしも、これが大企業で、単位が「億円」だったらどうでしょうか。300億円も利益がズレている、あるいは税金払いすぎじゃね?(300億円=会計上3,000と税務上3,300の差)と思うはずです。

なぜこのようなことが起きたのか。それは先述した通り、会計上と税務上でズレが発生しているからですね。具体的には、法定実行税率は30%であるにも関わらず、実際は33%(税務上の法人税等3300÷税引後純利益10,000×100)となっています。つまり、会計上の税率(33%)と法定実行税率(30%)に相違が生じています。しつこいようですが、これは会計上と税務上の計算過程(目的)自体がそもそも違うからです。

では、株主の誤解を解くためには、このズレを調整しなければなりません。具体的には、株主が見る損益計算書上は、税引前純利益10,000×法定実行税率30%=3,000とならなければならないため、税務上の3,300から300だけ税金を減少させる調整を行います。

この300のズレは、こう計算することもできます。会計上と税務上で利益がズレる原因は、収益と益金、費用と損金の違いでしたね。先程の例で言えば、益金(不)算入と損金(不)算入の合計が1,000でした(税引前10,000-益金不算入額1,000+益金算入額1,500+損金不算入額2,500-損金算入額2,000=調整後税引前純利益11,000)。そのズレ1,000に法定実行税率30%を乗ずることで、300となります。これが会計上と税務上の法人税等のズレです。

この300を調整するための仕訳が、

繰延税金資産     300     /     法人税等調整額     300

法人税等(費用)を減らす調整なので、貸方に法人税等調整額(収益(費用の取り消し))を持ってきます。これにより、損益計算書上の法人税等の額(税務上で算定された額)3,300から300だけ減少させるため、調整後の法人税等の額が3,000となります。お気付きですか?税引前純利益10,000と法定実行税率30%がしっかりと対応するようになりましたね!(10,000×30%=3,000)。税効果会計すごい!

ここで一点誤解しやすいのが、税効果会計は会計上と税務上のズレ(損益計算書上の法人税等)を調整するための会計処理なのであって、実際に会社が納める法人税等は税務上で算定された金額ということです。具体的には、税効果会計を用いて、ズレである300の調整は行いますが、実際に納める税金は税務上で算定された3,300となります。

次に、借方の繰延税金資産。これは何なのか。

繰延税金資産は、簡単に言えば「税金の前払い」です。先程の例では、会計上の法人税等の額3,000に対して、税務上で算定された法人税等の額は3,300であるため、当期は300だけ多く税金を支払っています。税金を多く支払っているならば、普通に考えれば次期以降のどこかで、300だけ税金を支払うことを免除してもらいたいですよね。払い過ぎてるから。

言い換えると、将来300だけ税金を支払うことを免除してもらえる権利が当期に発生している、と考えることができます。「資産」は、収益の発生もしくは費用の取り消し(利益の発生)の要因となるものであり、今回は後者(法人税という費用の取り消しの要因)に該当するため、この300は資産に該当するわけです。そして、具体的には税金を支払うことを免除してもらえることが確定となるまで、この300は繰り述べるわけです。この意味で「繰延税金資産」といいます。では、いつ税金を支払うことを免除してもらえるのか。

それは、会計上と税務上のズレが解消する時点です。

会計上と税務上のズレというのは、一定の場合を除き、次期以降に解消していきます。たとえば、1,000の固定資産を、会計上は5年(1年あたり200)、税務上は4年(1年あたり250)で償却するとしましょう。すると、1年あたり50ずつ(4年合計200)ズレが発生しますが、5年目は会計上のみ200の償却を行いますので(税務上は4年で償却が終わるから)、結局5年目で200のズレは解消するのです。この場合、1~4年目までは繰延税金資産を50ずつ計上し、5年目に合計の繰延税金資産200を消去する(貸方計上)仕訳を行います。

ただし、ズレが解消しないものもあります。以下、ズレのことを「差異」と表現します。先程の例における減価償却費は、5年目に差異が解消しました。しかし、たとえば交際費など、永久に差異が解消しないものもあります。これを永久差異といいますが、永久差異は永久に差異が解消しないため、繰延税金資産を計上することができず(将来支払う税金を減少できない)、したがって税効果会計の対象とはなりません。

では、先程の例を見てみましょう。300のズレが全て期間(一時)差異に該当し(永久差異に該当しない)、それが全て翌期に解消すると仮定した場合、翌期の仕訳は、当期の仕訳の逆仕訳となるので、

法人税等調整額     300     /     繰延税金資産     300

となります。


ここで、より理解を深めるために、税効果会計を適用しない場合の問題点を、損益計算書と貸借対照表の観点からそれぞれ確認しましょう。もしこれらを理解することができれば、税効果会計の理解が進んでいる証拠になるので、もう一息頑張りましょう!

損益計算書→税務上(課税所得)を基準とした法人税等の額が費用とした計上される結果、損益計算書上、法人税等の額が税引前純利益と期間的に対応しない(計算の目的がそもそも違うから)。

貸借対照表→将来の法人税等の支払額に対する影響が貸借対照表に表示されない(繰延税金資産(負債)が計上されないから)。

なお、会計基準では「税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という)の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続きである」としています。


最後に、繰延税金資産について、もう少し詳しく解説します。簿記1級から会計士、税理士等の範囲となりますので、初学者の方は読み飛ばすか、ふーんくらいの理解で大丈夫です。

概念フレームワークにおいて、資産の定義を「過去の取引又は事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう」としています。では、繰延税金資産には資産性があるといえるのか。

繰延税金資産は過去に会計上と税務上の資産及び負債に差異があることに起因して生じているため、「過去の取引」を充たします。次に、繰延税金資産は回収可能な部分だけが計上され、さらに差異解消時の税率で算定されることから、差異解消時点における税金軽減額を示しています。したがって、繰延税金資産は実質的に企業にとって将来のキャッシュの獲得に貢献する経済的資源といえるため、「経済的資源」を充たします。最後に、この効果は当該企業が享受できるため、「報告主体が支配」を充たします。以上、資産の定義を満たしているため、繰延税金資産は資産性があるといえます。

税効果会計は、特に初学者の方は取っつきづらく、やや難解で複雑な論点です。しかし、マスターすれば受験だけでなく、実務でも非常に役に立つため、焦らず少しずつ理解していきましょう!

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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