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(完結)【教養】としての、戦前・戦中・戦後 基礎知識⑦

皆さまこんにちは。1976newroseです。

前回まで、日米を中心に自由民主主義陣営が採用している構想「自由で開かれたインド太平洋戦略(Free and Open Indo- Pacific Strategy : FOIP)」、それを軍事的に支える「グローバル公共財へのアクセス及び操作のための統合構想」(Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons:JAM-GC)」、そしてインド太平洋地域における米中対立の現状をご説明してまいりました。

今回、本シリーズの最終テーマ「大日本帝国時代の反省は、リベラル国家群の一員となった日本の国家戦略に十分活かされている」について解説していきます。

【大日本帝国時代の反省と現代日本】

大日本帝国時代の反省をまとめると、以下の2点に収束すると考えます。

①軍部の過ちを政治が正すことができる制度、シビリアンコントロールが欠如していたこと。

天皇のみが軍を統率することができる「統帥権の独立」を、昭和陸軍が拡大的に解釈し適用したため、中国大陸での戦線拡大を政治が止められませんでした。

また「軍部大臣現役武官制」により、陸軍もしくは海軍が内閣に現役軍人の閣僚を送り込まない限りは組閣すらできないという、政治の立場が非常に弱い状況もありました。

②帝国を中心とする利己的な世界観に基づき、武力的な背景をもって対外政策を行ったこと。

第一次世界大戦後、西側列強は「民族自決」や自由民主主義、国際連盟の設立による多元的国際秩序を目指し始めました。しかし、帝国は中国大陸での権益を武力的な背景をもって拡大し、最終的には連合国との大戦争に突入してしまいました。

太平洋戦争期における有名なスローガン「八紘一宇」「大東亜共栄圏」も、実態は帝国を中心とした世界観による、普遍性に欠けた覇権主義だったと言わざるを得ないでしょう。

ただし、太平洋戦争が終結した時点ですら、アジアにはまだまだ欧州諸国の植民地支配を受ける国があったのは事実です。
またそれらの国々が、日本が残した軍事教練・武器を原動力に、太平洋戦争後の混乱に乗じて次々と武力独立を果たしたことも事実です。

言うまでもなく、歴史は一面的に語れるほど単純ではありません

帝国の対外膨張は、確かに一貫して自国の利益を求めた覇権主義的なものでしたが、他方、第一次世界大戦後の欧米諸国が掲げた民族自決や多元的国際秩序も、手放しに称賛できるほどには実態が伴っていなかったと評価するのが妥当だと私は考えます。

【戦後日本の反省】

こうした過ち、そして敗戦による破滅を乗り越え、戦後日本には帝国時代の反省が脈々と息づいています。

①シビリアンコントロールの徹底。
日本における軍事組織といえば自衛隊ですが、皆さんは、自衛隊が帝国陸海軍のように勝手に武力侵攻を開始したり、政治家を殺害するようなことが起こると思われますか?
おそらくほとんどの方が、そんなことはあり得ないと思われるはずです。

戦後日本では、政治が軍を統制するための制度が整備されました。自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣ですし、その下で自衛隊を統括する防衛大臣も憲法によって文民(簡単に言えば、軍人でないもの)しかなれないと定められています。
(日本の文民統制には、制度運用上の実態に合わない面があるという指摘もあります。しかし話が複雑になるのでここでは割愛します。)

また、自衛隊の行動について賛否を判断する国民も、当の自衛隊員も、すべて自由民主主義の国で暮らしてきた人々です。今更軍の独走を許す風潮が生まれる可能性は、極めて低いと考えるのが妥当でしょう。
このように戦後日本では、制度的にも、また国民の共通認識的にも、軍の独走を許さない仕組みづくりに成功しています。これは大日本帝国時代には成しえなかった、大きな進歩です。

②普遍的リベラリズムを軸とした対外戦略。

現代の日本が帝国時代から学び、最も改善した点が、普遍的リベラリズムを軸とした対外戦略を実行する国になった点です。

戦後日本は、開発援助投融資や技術協力、国際機関への出資等を通じて、平和的な国際協調を推し進めました。東西冷戦構造の中、日本がこのように非軍事的な国際参画に集中できたのは、米軍の庇護を受けていたためです。

そして現在、日本が推進するのが、FOIPを軸とした、リベラルな価値観に基づく外交です。

リベラリズムは、絶対王政時代の欧州から産まれ、現代にいたるまで多くの賢人たちが練り上げた、洗練された価値観です。

個人の自由が重視され、万民の要望がなるべく政治に反映されるように設定された民主主義には、国境を越えて多くの人々に受け入れられる力があります。

日本は今や、リベラルな価値観を共有する国々と盟友関係を結び、外交戦略を平和的に実現できる国となったのです。これこそが、大日本帝国時代の過ちを経て、日本がより強い国になったことの証左です。

【まとめ】

大日本帝国が日露戦争以来、50年にわたって中国大陸での権益拡大に挑んだように、中国の覇権主義との対決も長く、険しいものになるでしょう。

しかし、一度自由民主主義の恩恵を味わってしまった私たちは、決してそれを手放すことはできません。大日本帝国時代に味わったものとは別種の、厳しい戦いに直面していることを私たちは直視する必要があります。

過去を知り、世界を知り、現代を生きる我々の立ち位置を知ることで、はじめて未来について正しく考えることができるのです。


本稿が、皆さまの、そして祖国日本の、ますますの発展に資することを望んでやみません。


以上、これをもってシリーズ「【教養】としての、戦前・戦中・戦後 基礎知識」を終了いたします。


お読みいただき誠にありがとうございました。

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