見出し画像

第四回「タイガーマスク」(後編)(2014年2月号より本文のみ再録)

 1月21日は梶原一騎の命日である。没後27年。僕ら昭和40年男に多大なる影響や数多くの思い出を与えてくれた梶原作品の数々を、この連載を通じて可能な限り紹介していきたい。そして、これをキッカケに一人でも多くの方に作品に触れていただきたい。さて、今回は前号に続き『タイガーマスク』について語っていこうと思う。

※『タイガーマスク』作品データとあらすじ


主人公の命を狙う敵組織❝虎の穴❞の魅力

 『タイガーマスク』といえば、彼を育て上げた悪役養成機関“虎の穴”の存在も忘れがたい。名前からして恐ろしいが、後の梶原作品『プロレス・スーパースター列伝』(※1)では、実在のプロレス組織・蛇の穴をモデルにしたと語れれている。スイスのアルプス山中にそびえ立つ翼を広げた虎のモニュメント。死神を思わせるマネージャー・ミスターXの不気味なキャラクター。裏切り者を決して許さず、死ぬまで刺客と戦わされる掟。幼少期に読んだ記憶では、マンガだとわかっていても組織の恐ろしさが十分伝わり恐怖を感じたものだった。
 このインパクトが大きかったことは、後のテレビや雑誌などで、過酷な方法で鍛える場所の代名詞として多用され、「〜虎の穴」といった番組名やコーナータイトルを数多く生み出していることが証明している。これまで登場した敵組織の名称で、これを超えるものが未だに出てこないのもすごいことだと思う。
 理由として考えられるのは、当時のマンガとしては珍しく、複雑な組織のバックボーンを細かく描写しているからではないだろうか。たとえば作中で時折語られる厳しいトレーニング方法の絵にはこういう解説が付く。
 「世界中からスカウトされ送り込まれた人間の2/3が5年半で死に、残りの半分が再起不能となる」
 また、過去に組織を裏切ったレスラーたちのあわれな末路の回想の絵にはこうだ。
 「虎の穴出身の悪役たちに挑戦され頭だけせめられ九試合めについに...頭がおかしくなって...(中略)ある日特急電車にむかってくるったようにはしりだし...」
 梶原原作の特徴である具体的な数値による説明(2/3、5年半、9試合など、ちょっと端数なのもポイント)が、僕ら読者にリアリティを感じさせたのではないだろうか。

プロレス知識の教科書としてのタイガーマスク

 他にも本作が僕ら昭和40年男に与えた影響として、プロレスの知識がある。梶原が、かつて力道山との交流やスポーツライターとして活躍して得た幅広い知識が(若干の誤解も含め)この作品を通じて描かれているのだ。
 同世代で、プロレスごっこをしたことのない男子はまずいない。さまざまな関節技や投げ技や反則技のページを読んでは教室の隅で、見よう見まねで友達に試したりした経験は誰しもあるだろう。
 また敵レスラーとの戦いにおける海外デスマッチの数々(檻の中で戦うアフリカン・デスマッチ、手錠につながれたまま戦うチェーン・デスマッチなどなど)がリングアナウンサーの解説で詳しく語られたり、実在のレスラーの生い立ちや詳しいエピソードも随所に盛り込まれていたので、読んだだけでプロレスに精通したような気になれた。
 つまり僕らは、プロレスに関する知識の大半を梶原作品から教わったといっても大げさではないだろう。
 後年、梶原による脚色や誇張の部分も多く存在していたことがわかるが、青年になってプロレスにハマらなかった筆者にとっては未だに事実として信じているが多いことを告白しよう。別に正す気もないけど(笑)。

直人&ルリ子のプラトニックな恋愛関係

 前号で14~15歳の頃の原体験について触れたが、当時多感な時期を過ごした筆者にとって、作品の恋愛要素も決して見過ごすことのできないものだった。素性を隠しながら、裕福な優男の“キザな兄ちゃん”として振る舞う主人公・伊達直人と、ちびっ子ハウスを支える若月ルリ子。二人の関係は決して表立って展開することはなく、あらゆる場面で互いを密かに思いやるプラトニックなもので、恋に恋する中学生にとっては少し大人の世界を見せてくれたような気がした。好きだ好きだと自分の気持ちをぶつけるのではなく、その気持ちをじっと心に秘めて想う。この関係性は後の純愛大河ドラマ『愛と誠』(※2)にて作品のテーマとして登場するのだが、それは別の機会に。
 閑話休題。読めば真似をしたくなる梶原作品において、こうした恋愛スタンスも例外ではない。だが、これを真似て女性を射止めたという成功事例を話す梶原ファンの存在は...筆者を含め未だ知らない(笑)。
 2回に渡って『タイガーマスク』が僕らに与えた影響や魅力を語ってきたがいかがだっただろうか?今回掲載したカットには筆者お薦めのシーンも紹介しているが、他にも見所満載なのでぜひ読みなおしてほしい。
 昔読んだきりでストーリーもおぼろげなアナタ!本棚にコミックスを眠らせているアナタ!そして、折に触れ読み返しているアナタ!これを機会に『タイガーマスク』を一騎に読め!

『タイガーマスク』を読んでみよう!(Amazon Kindleへリンク)

※1 『週刊少年サンデー』にて80年から83年にかけて連載。作画は原田久仁信。
※2 『週刊少年マガジン』にて73年から76年にかけて連載、作画はながやす巧。

【ミニコラム・その4】

ジョーvsタイガー⁉テレビアニメパート2対決
 テレビアニメ『タイガーマスク二世』がテレビ朝日で放送開始された81年4月20日の月曜夜7時。日本テレビでは『あしたのジョー2』がすでに放送中で、同年8月31日で放送終了するまで他の番組(TBS→『クイズ100人に聞きました』/フジ→『釣りキチ三平』)と視聴率争いを繰り広げていた。制作会社は二世が東映動画、ジョー2が東京ムービーと別だったが、同じ原作者による作品が同時間帯に並ぶのは珍しかった。皆さんはどれを見ていただろうか?

第三回「タイガーマスク」(前編)を読む!

「梶原一騎とタイガーマスク」を読む!