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二律背反という名の美学 シャーロット・ランプリング

昨年のラグビー人気は記憶に新しいが、一説によると「ラグビーは紳士が行う野蛮なスポーツ、サッカーは大衆が行う紳士的なスポーツ」なのだそう。確かにワールドカップ期間中、交通機関移動にスマホ以外の荷物を持たず“完璧な自由”という空気を纏った優雅な大男が沢山来日していて驚き、その身軽さに憧れた。本質とは真逆のところに目くらましを装い、それを“粋”と感じさせるのは本来、ファッションの得意分野のひとつである。

ファッション用語に、“マニッシュ”という言葉がある。“男装的な”という意味だが、男に見える為にするのでは(もちろん)なく、「男服のイメージを組み入れることで、より女らしさが引き立つファッションコーディネート」の事である(ここまで書いてみて、女、または男らしいという言葉が今日、いかに肩身が狭いかと言う事を感じるが、今回はあえてこのままにしておく)。

そこで登場のシャーロット・ランプリング。凛々しいという形容詞がこんなにも似合う女優はそういない。若き日の彼女によせられたコピーは“子鹿の肢体を持つファムファタル”。映画『地獄に堕ちた勇者ども』(1969)冒頭で魅せたしなやかなベージュのドレス姿。エレガントの極みなのだが、操る表情のなんとも妖しい獣性。『愛の嵐』(1974)においては、「トップレス×サスペンダー×ショートヘアにナチス帽で歌う」シーンが一度観たら忘れられない。全てを見せないミステリアスな瞳で、表情少なげに僅かな口角の筋肉の上げ下げだけで演技する。実に上手い。動き回る演技が馬鹿げているかのようなクールさ。そして妖艶。

ファッションレッスンをしていると「自分に似合うトレンチコートを探したい」という要望は実に多い。機能重視な軍服ルーツのこのコートが格別に女度を上げてくれるからだろう。Gパンにハイヒール、黒のタートルにパール、革ジャンに赤い口紅。どれも対立する魅力を引き立て合い成立するスタイル。これぞシャーロット・ランプリングの真骨頂。ファッションの基本ここにあり。

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