何清漣★馬雲のアント上場への意図と失敗 2020年11月24日

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 11月に起きた中国最大の経済事件は、金融テクノロジーの巨頭「アント・グループ」(螞蟻集団)が計画していた「史上最大の新規上場株式(IPO)計画」に、直前になってストップがかかったことです。その後も様々な憶測が飛び交い、一般には中国政府が、警告を目的として、大きな圧力をかけてつぶしたというのが一致した見方です。私は、馬雲のアント上場は、依然として権力とマーケットの関係の範囲内の話ですが、その大きな背景には、中国政府のビッグデータ時代への資本規制の懸念があり、経済の方向転換の時期を逸する可能性があると思っています。

 ★P2Pの災難はまだ存在し、政府の懸念も

 証券取引委員会が提示した理由は、「金融技術規制環境の変化などの重要な事象により、上場条件や情報開示の要件を満たしていない」というものでした。これは半分は本当ですが半分は嘘です。前段は真実、後段が偽りです。

 本当の懸念は、「総時価総額は、かつて史上最大のIPOと言われていた2.1兆元(1330億ドル)という驚異的な新記録に達する可能性がある」と言われたアント・グループの上場規模の巨大さです。IPOの規模と2つの数字を比較してみると、中国政府の懸念が杞憂でないことがわかります。

 ⑴ 過去7年間に限って、民間信用の大規模なデフォルトが例として挙げられている。2014年には合計261社のプラットフォームが崩壊し、逃げ出し、資金繰りに失敗した事例があり、2015年には500億元のピアツーピア(P2P)融資プラットフォーム「e租宝」の事件があり、累計で1千億元を超えています。(e租宝事件:2014年から15年にかけて90万人を超える出資者から76億ドル(約8300億円)をだまし取ったとされる中国最大のねずみ講事件と言われる。親会社の鈺誠ホールディングス幹部に終身刑判決)

 ⑵ 国内の研究者が不完全な統計によると、2015年から2018年まで、中国の8つのよく知られたP2Pプラットフォームは、最大1337億元、1267万人の投資家(重複あり)の資金の損失をもたらした。

こ の2つの大きな出来事により、中国では数百万人の金融難民が発生し、中国での「集団性事件」に「大規模な抗議行動のための抗議者」のカテゴリーが追加された。

 この二つのデータではピンとこないなら、数字を比較していみましょう。2019年、中国のGDP規模は99兆865億元、国家一般予算の収入は19兆4千億元で、アント・ファイナンシャルの資金調達規模は、中国の総GDPの2.1%で、中国の財政収入の11%にして、P2Pネットの爆発による損失の16倍です。こんなに巨大なIPOともなれば、金融リスクの防止が最優先の中国政府としては、おちおちしていられないのです。

 ★「アント」は3つの金融リスクに関わる

 中国のビジネス界をスイスイと泳ぎ渡ってきた馬雲氏は、習近平の粛清をうまく交わして生き延びてきた金融界の超大物です。引退して安全を確保していたその馬氏が、中国経済が低迷し、国際環境が大きな困難に直面している中で、10月26日、上海の外灘金融フォーラムで突然、「金融における質屋的メンタリティを変えなければならない」、「信用制度は、ITや人間関係を基盤にするのではなく、ビッグデータを基盤にしてこそ、信用を真に富と同等のものにするためのものだ」と演説したのでした。

 馬雲の言う「質屋的メンタリティ」とは、これまでの伝統的な金融業務が抵当をとってからお金を貸すことです。デジタル金融とはビッグデータによる信用評価でクラス分けをした後に、直接貸すということです。彼はそれだけにとどまらず、「質屋メンタリティ」が多くの企業家にとって有害だと批判しました。

 馬雲のこの話は当然、アント・ファィナンシャルの上場に関連して、その道を開くための計画でしたが、当然のごとく跳ね返されてしまいました。なぜ「当然」とここで私が言うのかは、中国経済の「六つの安定策」以後の、金融リスク監視政策の重点がどこにおかれているかを見ればわかります。

 2018年8月、中国共産党中央委員会の政治局会議では、安定雇用、安定金融、安定対外貿易、安定対外投資、安定投資、安定期待(経済成長目標)という「6つの安定」政策が設定され、以来、時にふれて強調されてきました。

 理由は明らかで、「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」が米国の対中貿易戦争の重要なターゲットとなっているため、中国は産業チェーンの移転、継続的な経済の衰退、失業圧力の増大に対処するために、信用拡大と政府投資という旧来の道に戻らざるを得なかったからだ。

 その1年後には、 「総括報告」、「副報告」、「特別研究」の3つで構成される「中国金融監督報告書(2019年版)」が発表されました。「総括報告」は2部構成で、第1部は「中国における金融持株会社のモデル、リスク、規制」、第2部は「中国における金融規制:2018年の主な出来事を振り返る」となっており、2018年に中国の金融規制で起きた主な出来事を体系的にまとめ、分析・解説しています。

「副報告」は主に業界別の年次規制報告書で、具体的には2018年の中国の銀行、証券、保険、信託、外国為替部門の規制の年次進捗状況を分析し、中国の金融規制の全体的なロードマップの概説です。「特別研究」は中国の金融規制分野における現在の主要な問題について、主に地方金融規制、規制サンドボックス制度、私募資金保管制度、消費者データ保護、インターネット消費者金融、金融技術規制などの側面から詳細に分析しています。

 馬雲が関わる電子商取引業界は、消費者データ保護、インターネット消費者金融、金融技術規制の少なくとも3つの側面が関与しており、金融規制の重要な対象になっていると言えます。

 世間的に大成功し名誉と利益を得た馬雲は、かってみずから「風清揚」と称したことがあります。(「風清揚」は金庸の武侠小説「笑傲江湖」に登場する大剣豪の隠士)これは、彼の身が俗世間にありながら心はそこにはなく、時が至れば万物を動かそうという志を表します。

 では、なぜ今、金融監督というレッドラインに触れるようなことをしたのでしょう? ましてや彼は2018年9月に一線から身を引き、アリババのトップの座を退いています。当時、まだ働き盛りの馬雲氏が引退する理由については、金融監督の圧力が強まり、中国のプライベート部門がこの数年で最も厳しいチャレンジを受けている環境だから、と思われました。馬雲の引退はそうした印象を一層強め、民間企業は勢いと自信をなくしましたが、一体何が彼にこのような発言をさせたのでしょうか?

 ★"白手袋 "として名乗り出た複雑な動機

 一説には、彼の政治的バックとなっている連中が、彼に話をさせてアント・ファイナンスに株を上場させ、大儲けを図ったのだという見方があります。この要素は私はあると見ています。では、彼のバックの政治勢力とはどんな連中でしょうか。

 2014年7月21日、ニューヨーク・タイムズ紙は「The 'Second Generation' Winners Behind Alibaba's IPO」を掲載し、アリババに投資した中国企業4社の幹部の中には、2002年から務めてきた政治部常任委員会のメンバー20人以上の息子や孫がいることを指摘しました。例えば、陳雲の息子である陳元、王鎮の息子である王軍、劉雲山の息子である劉楽飛、江沢民の孫である江志成、温家宝の息子である温雲松、賀国強の息子である賀錦雷らです。

 このような関係は、中国の競争力の高いビジネス環境において、企業の優位性に役立つものであり、ただならぬものなのです。このように根強く絡み合った利害関係のネットワークは、呉小暉(安邦保険集団の創設者)や王建林(万達グループ総帥)さらには「スーパー白手袋」(金融の裏仕事請負人)と言われた蕭建華(投資企業集団・明天系)よりもはるかに広範囲に及んでいます。それに加えて、馬雲の柔軟な姿勢は、危機的なときに選択を間違えず、上述の3人のような人々がひどい目にあった時にも、無事にやり過ごしてきたのでした。

 しかし、10月26日に上海の外灘金融フォーラムで行われた馬雲のスピーチ全文を読むと、私は、それに加えて、馬雲は今日の世界経済で何が起こっているのかについて、彼自身の独自の(おそらく漠然とした)感覚を持っていることが示めされています。

 今年は新型コロナ伝染病や中国、米国の選挙見通しの不透明さなどで世界は行き詰まっていますし、欧州連合(EU)などはバイデン大統領になって、米国がパリ協定復帰することまで望んでいるようです。

 馬雲ははっきりとしたある常ならぬ判断を持っているようです。彼はこう述べています。

 ;「過去16年、アント・ファイナンシャルはずっと環境に優しく持続可能な包括的な開発に注力してきました。もしグリーンで、包括的かつ持続可能で、普遍的な恩恵をもったインクルーシブ・ファイナンス(金融サービス需要のある社会の各階層や人々に向けて、適切かつ必要とされるレベルでの金融サービスを低コストで提供するという国連が2005年に提起した概念)が間違っていたと言うなら、我々は、これから何度もとことん間違えるだろう」と言うのです。これは事実上、ヨーロッパと国内の左翼が未だに固執しているエセ革新的な経済路線であるグリーン経済を否定するものです。

 欧州のグリーンエネルギー路線は、ドイツや一部の欧州諸国の消費者にとって大きな負担となっています。ドイツが原発や化石燃料を放棄したことで、世界に模範とされグリーン電力のブームが起きたたことは、以前から多くの研究で指摘されてきました。

 しかし、そうした実践が何年か行われた結果、巨大なコストと付帯費用はすでに消費者が耐え難いほどのものとなり、ドイツのクリーンエネルギー政策は大問題となり、産業モデルの徹底的な見直しを開始せざるをえなくなっています。

 環境保護の名の下に、政府を騙して補助金や減税をうまく獲得してきたグリーンエネルギー企業の窮状は、各国で顕在化しています。様々な国際機関と通じている馬雲は、「グリーン経済」というエセ革新的な経済言説の落とし穴、つまり-ニューエコノミー創造というテーマの欠陥を深く知っています。それが、彼が新たな金融システムの建設を望む理由の一つなのでしょう。

 現在、明らかに国家主義的な立場を貫き、自国の利益を優先し、それでも他国から認められる(あるいはあえて批判はされない)国は中国だけです。馬雲のスピーチを見ると、彼は確かに先を見る目に欠けてはいません。しかし、馬雲の問題は克服できるものではありません。

 それは、中国は権力と資本が密接に結びついた国家ではありますが、馬雲が説得すべき政府、とりわけ習近平が権力を握っている政府の、民間企業に対する信頼は極めて限られたもので、政府に都合が良い時だけちょっとだけ「信頼」を得られるだけだからです。

 その結果、中国政府はインターネット時代にハイテクを導入し、はるかに優れた監視技術や様々な左翼的なソフトウェア技術を開発することには成功しましたが、世界経済の変容という歴史的な節目に再び資本とうまく連携をとって、この度のチャンスを生かすことができるかどうかは今後に注目される課題なのです。(終わり)

何清涟:马云推动蚂蚁上市的考量之对与错
2020-11-24

11 月,中国最大的经济事件就是金融科技巨头蚂蚁集团在国内谋划“史上最大IPO”前夕被叫停。接下来各种猜测都有,一致的看法是中国政府重手“压垮”蚂蚁上市计划,目的是示警。本人认为,马云的蚂蚁金服上市虽然范畴仍然是权力与市场的关系,但大背景却是中国政府对大数据时代监管资本的担忧,甚至有可能错失经济转向的时机。

P2P灾害仍在,政府余悸犹存

上交所给出的理由是,“所处金融科技监管环境发生变化等重大事项”导致“你公司不符合发行上市条件或者信息披露要求”。这一理由半实半虚,前一句是实,后一句是虚。但真正的担忧源于蚂蚁集团上市IPO的超巨规模:“蚂蚁集团总市值可能达到惊人的2.1万亿元人民币(约合3130亿美元),一度被称可能创下史上最大IPO新纪录”。

将这个IPO规模与两个数字比较,就明白中国政府的担心不为无由:

1、仅以近七年以来不断发生的民间信贷大规模违约事件为例: 2014年,全国倒闭、跑路、取不出钱的平台共有261家。2015年更是出现了“e租宝”的500亿元大案,累计也就是千余亿左右。

2、据国内研究者不完全统计,从2015年〜2018年之间,中国出现八大知名爆雷平台,造成的损失资金就高达1337亿元,涉及投资人126.7万人(计重复投资者)。

这两大类事件,在中国产生了数百万金融难民,导致中国的群体性抗争多了一个抗争者类别。

如果对上述数据还无感,那么我再列举两个数据加以比较:2019年,中国的GDP规模为99.0865万亿元,全国一般公共预算收入19.04万亿元(行话叫窄口径)——蚂蚁金服的筹资规模是中国GDP总量的2.1%,是中国财政收入的11%,是P2P网贷爆雷损失的16倍,这种巨大的IPO规模,让这些年将防范金融风险置于重中之重的中国政府怎能放心?

中国政府力防的金融风险 蚂蚁金服占三条


马云在中国商海中遨游自如,是一条成功躲过习近平近年清洗金融大鳄行动的金融大鳄。在中国目前经济低迷、国际生存环境面临极大困境的时候,曾以退休求自保的马云突然于10月26日在上海外滩金融论坛上发表演讲,称“我们必须改掉金融的当铺思想,在当下,我们必须用借助技术的能力,用大数据为基础的信用体系来取代当铺思想。这个信用体系不是建立在IT和熟人社会的基础上,而是建立在大数据的基础上,如此才能真正让信用等于财富。”他所称的“当铺思想”是指传统金融业务需要抵押物才能发放贷款,而数字金融则用大数据来进行信用评级后直接发放贷款。不止于此,他还批评传统金融的“当铺思想”“害了很多企业家”。

马云这番话显然是为他的蚂蚁金服上市做舆论铺垫,结果当然是碰壁而还。为什么我说是“当然”?只要梳理一下中国经济“六稳”策之后的金融风险监控政策重点何在,就明白了。

2018年8月,中共中央政治局会议定下“六稳”政策——稳就业、稳金融、稳外贸、稳外资、稳投资、稳预期(经济增长目标),自此之后,时不时加以强调。原因也很清楚:自“中国制造2025”成了美国对华贸易战的重点打击目标之后,为了应对产业链外移、经济持续下滑、失业压力加重,中国只得重回扩张信贷、加大政府投资的老路。

一年之后,《中国金融监管报告(2019)》出版。该报告主要由“总报告”、“分报告”和“专题研究”三部分组成。“总报告”为两篇:第一篇为“中国金融控股公司的模式、风险与监管”;第二篇为“中国金融监管:2018年重大事件评述”,对2018年度中国金融监管发生的重大事件进行系统总结、分析和评论。“分报告”主要是分行业的监管年度报告,具体剖析了2018年度中国银行业、证券业、保险业、信托业以及外汇领域监管的年度进展,勾勒了一幅中国金融监管全景路线图。“专题研究”部分是对当前中国金融监管领域重大问题的深度分析,主要涉及地方金融监管、监管沙盒制度、私募基金托管制度、消费者数据保护、互联网消费金融、金融科技监管等方面。

马云从事的电商行业至少牵涉到消费者数据保护、互联网消费金融、金融科技监管等三方面,可以说是金融监管的重点对象。

一向身在滚滚红尘名利场中的马云,曾自号“风清扬”,以此标榜他内心向往这种身处红尘之中、心在红尘之外,却能在关键时刻力定乾坤的境界。他为什么要在这种时候去触碰金融监管这条红线?更何况他早在2018年9月就宣布退休,辞去阿里巴巴董事长一职。当时,外界是这样猜测马云壮年退休:随着金融和监管压力加剧,中国私营部门面临着多年来最具挑战性的环境。马云的退休更加重了外界的感觉:私营部门正在失去动力和信心。是什么促使他出来说话?

挺身甘当“白手套”的复杂动因


有人猜测是他背后的政治靠山希望借机牟利,让他出面说话做事,推动蚂蚁集团上市。这点因素我相信存在,他背后的政治势力是何方神圣?《纽约时报》曾于2014年7月21日发表《阿里巴巴上市背后的“红二代”赢家》指出,在投资阿里巴巴的四家中国企业的高管中,有2002年以后在20多位任中央政治局常委的子孙。例如,陈云之子陈元、王震之子王军、刘云山之子刘乐飞、江泽民孙子江志成、温家宝的儿子温云松、贺国强之子贺锦雷。这种关系非同小可,有助于锁定交易,使企业在竞争激烈的中国商业环境中赢得优势。这种树大根深、盘根错节的利益关系网络,远远超过吴小晖、王健林,甚至比超级白手套肖建华的更广泛。加上他本人能屈能伸,在关键时期表态不错,因此在上述一干人都遭到不同程度的清算时,他能够安然度劫。

但我读了马云10月26日在上海外滩金融论坛的演讲全文之后认为,除了上述因素之外,他本人对如今世界经济大势也有独到的判断(也许还比较模糊)。今年以来,全世界都因疫情、中美交恶,以及美国大选前景难明而陷入不知怎么办的困顿之时——欧盟甚至指望拜登上台之后,美国回归《巴黎气候协议》。马云有一条判断异常清醒:“过去16年,蚂蚁金服一直围绕着绿色、可持续和普惠发展。如果绿色、可持续和普惠包容的金融是错误的话,我们(也)将会一错再错,一错到底。”——这实际上是否定了绿色经济这条欧洲与各国左派还死抱着的伪创新经济路线。

欧洲的绿色能源道路,已经成为德国与一些欧洲国家消费者的沉重负担。早就有不少研究指出,德国放弃核电和化石能源,掀起绿色电力浪潮,曾被世界奉为样板。但实行几年之后,其巨大的成本和附加费用已让消费者不堪重负,让德国的绿色能源政策深陷困境,不得不开始彻底重新思考自己的产业模式。各国都出现了以环保为名骗取政府资助、免税等各种优惠的绿能公司困境,与各种国际组织打过交道的马云其实深知“绿色经济”这种伪创新经济话题之弊——这应该是他希望构建新金融体系的动因之一。

目前在世界各国中,明确坚持国家主义立场并以本国利益优先还能得到其他国家认可(或者说不敢批评)的国家只有中国。从马云的演讲来看,他确实不缺眼光。但马云的困难却不可克服:中国虽然是一个政商(权力与资本)关系紧密的国家,但马云要说服的政府,尤其是习近平当家的政府对私人资本的信任极其有限,只在需要利用时稍示“信任”而已。也因此,中国政府在互联网时代能够成功地引进高科技并发展出了遥遥领先的监控技术与各种左道旁门的软件技术,但在这次世界经济大转型的历史关口,是否能够再度与资本联手利用时机,则是一个有待观察的问题。
(文章只代表特约评论员个人的立场和观点)

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