駄作MS No.Ⅹ 「QCX-79P ウロボロス」

大蛇の夢

 QCX-76A、試作艦隊決戦砲「ヨルムンガンド」はルウム海戦において試験的に実戦投入されたものの、あまりにもコストが嵩むことが問題となり決戦兵器としては使われず、兵器としての正式採用はされぬまま歴史の闇へと葬られて行った。
 ジオン公国軍砲術科の夢でもあった「艦隊決戦砲」の研究はその後も続けられたが、砲術科の重要性が低下していた戦争初期は軍上層部もこの研究を非常に厳しい目で見ていた。しかしミノフスキー粒子の軍事利用により戦争が有視界戦闘に限られるようになったことでミサイルの価値が相対的に低下し、従来型の火砲に再度注目が集まるようになった。

 そして砲術科が導き出したヨルムンガンド失敗の理由は「モビルスーツとの連携不足」であるとし、モビルスーツに大型決戦砲を装備させることで最終兵器として運用するという結論に至ったのである。そうして最終兵器として大型決戦砲の開発がスタートしたのである。

魔法の大砲

 QCX-76Aヨルムンガンドは核融合を利用したプラズマビームを射出する大砲として開発がなされたが、これは一発あたりの砲弾コストが非常に大きく結果としてヨルムンガンドの不採用につながった。砲弾の作動システムを考えれば毎回核融合を起こしそのプラズマビームを射出しているわけであるから砲弾一発がザク3機と等しいということは容易に想像がつく。
 これらのことから砲弾のコストを抑えることを考えれば通常型の砲弾が適切という結論に至り、このモビルスーツ用決戦砲も通常型火砲として開発がスタートした。主砲として選ばれたのはヒルドルブの主砲にも流用された旧型宇宙戦艦の30cm砲であり、これの砲身を二つつなぎ合わせることによって長大な砲身を確保した。
 使用される砲弾は通常型砲弾とは異なり新規開発された砲弾である。長大な砲身に合わせて薬莢は巨大なものとなり、その砲弾初速は3000m/s、マッハ10という途方もないものであった。その途方もない初速は砲弾と砲身の間にとてつもない摩擦を生み出すこととなり、十分な命中精度を維持するためには砲身の命数は二発と厳しく制限されることとなった。砲弾も巨大なものとなったことから携行できる弾数に制限があったため継戦能力は低いものとなった。砲弾の種類は徹甲榴弾であり、これは圧倒的な初速で貫通能力を確保し、榴弾によって敵戦艦を破壊することを予定していた。
 またこの砲が生み出す反動もまたとてつもなく、宇宙空間でこの反動を解決する必要が見つからなかったため兵器としての採用はなされることなく基礎研究のみが続けられることとなった。

 そして戦争は進み宇宙世紀0079年11月、オデッサを喪失したジオン軍は戦況の逼迫を受け今後の戦闘は宇宙に移行すると予想、参謀本部は決戦兵器の開発を推し進めることとなった。その中でも艦隊決戦砲は超遠距離から敵艦隊を攻撃し敵がモビルスーツ部隊を展開する前に撃沈するという戦術が考えられ、QCX-79Pウロボロスとして実験的に配備することが決定された。
 ここまでの研究によりウロボロスに搭載された砲弾は通常型砲弾の改良型であり、姿勢制御装置を搭載することによってある程度の誘導が可能な砲弾として完成していた。誘導については射撃前に事前に入力し、それに従って飛行するものであるがミノフスキー粒子等を考慮するとあまり現実的な選択肢ではなかった。
 砲弾は30cm砲弾では十分な破壊力が確保できないが「宇宙戦艦相手には装甲を貫通するだけで十分な足止め効果がある」として、威力の低さは見過ごされることとなった。よって実際に運用する上では一つの艦に二つ以上の命中をさせる必要があるとされ、冷静に考えて二つ以上の命中を期待するのは難しかった。
 さらに大砲の反動問題も解決できていなかった。当初は宇宙要塞等に設置して運用するものと考えられていたが、有効な命中を確保するためには固定砲台では要塞に接近した敵艦隊のみにしか精度が確保できないとされ、本来の運用である敵がモビルスーツ部隊を展開する前に艦隊を攻撃するという戦術には相応しくないものであった。よってザク一機で隠密行動により決戦砲を運搬、敵艦隊を奇襲によって撃破するものとした。

尾を飲み込む蛇

 実験的火砲としてまず30門が製造され、決戦兵器としてソロモンの宇宙攻撃軍砲兵部隊に配ることが検討されたが、ビグ・ザムの配備を持ってこれを置き換えるとし実戦運用は後回しされた。そしてソロモン陥落をもってア・バオア・クー防衛作戦における最終兵器として投入されることとなった。

 ギレン直属の親衛隊砲兵部隊に配備されたものの、彼らに与えられた機体の多くは戦力の不足からザクⅠであった。この火砲の転換訓練は困難を極めた。そもそもこの砲が生み出す莫大な反動は発射後にザク1のスラスターをもって打ち消すこととしたが、このような制御では十分な命中精度を確保することなど不可能であった。
 その低い命中精度は装弾数がたった二発ということを考えれば決戦兵器として運用するための十分な性能を確保しているとはとても言い難く、その命中精度の低さについて「訓練を持って困難を乗り越え命中精度を高める」としたが、根本的な兵器の設計に問題がある以上努力にも限界があると言わざるを得なかった。
 さらに大型決戦兵器を抱えたザクⅠの機動性や運動性は大幅に低下しており、敵に発見された場合まず撤退することはできない。ウロボロスの運用においてもちろん生還前提ではあったが、まず生還することは困難であり、一種の特攻兵器にちかい存在であった。

 宇宙世紀0079年12月29日、コンペイトウ(旧ソロモン)を出撃した連邦艦隊の主攻方面はア・バオア・クーであることが明らかになり、ウロボロスを装備した親衛隊砲兵部隊はこの連邦艦隊を迎撃せんとしてザク10機を出撃させた。彼らはムサイ級巡洋艦ブルック・アン・デア・ムーアと輸送船クレムス・アン・デア・ドナウに搭載されて出撃、敵艦隊の予想針路を封鎖する形で展開し進路を封鎖、攻撃を終了した後は艦隊との合流地点で回収される予定であった。
 彼らは予定通り展開し、連邦艦隊の先鋒を封じる形で待機した。そして彼らは12月30日20:00には接近しつつある敵艦隊に対し攻撃準備を完了したものの、彼らが目撃したのは連邦艦隊と接触しているグレート・デギンであった。友軍艦艇が存在することから隊長は攻撃を躊躇し、ジオン軍総司令部へと再度攻撃の許可を求めた。20:15に総司令部から「直チニ攻撃セヨ」との返答が返ってきた為、彼らは攻撃を開始した。初弾に命中弾はなく、全弾外すという残念な結果に終わった。二発目に関してはサラミス級巡洋艦一隻に直撃、砲塔を貫通し弾薬庫への誘爆を生み艦首がもげる形となり戦闘能力を一時喪失した(のちに応急処置で戦線復帰)。
 結果として10基のウロボロスを用いて生み出した戦果は巡洋艦1撃沈(戦果誤認で実際は大破)という結果に終わってしまった。21:00に彼らは攻撃を終え帰投に向け行動を開始した。彼らはウロボロスを投棄するだけでなく機密である戦略兵器を鹵獲されないように爆破処理を行った上で撤退することとしていた。そして12月30日21:05を迎えた。そう、ジオン公国軍の最終兵器、ソーラ・レイの発射である。グレートデギンと連邦艦隊の接触を知っている彼らを口封じするためにソーラ・レイを発射したという都市伝説があるが、これについては明らかになっていない。これにより連邦艦隊に甚大な損害が生まれただけでなく、親衛隊砲兵部隊も全員がMIA(戦闘中行方不明)として処理されることとなった。
 彼ら砲兵部隊を運搬していたムサイのブルック・アン・デア・ムーアについてもソーラレイにより甚大な損害を受けた上、重要機密の一部を知っていることからサイド3到着後にクルーの全員が拘束されるという結末に終わった。

大蛇の幻

 結果として決戦兵器として開発されたウロボロスは本当の決戦兵器であるソーラレイによって歴史の闇へと葬られることとなり、それはヨルムンガンドがモビルスーツによって歴史の闇へと葬られたものと同じ結末と言っても良かった。

 彼らが開発したウロボロスは単純に火砲としては性能の限界であり、ある種一般的な後装式火砲の技術的な極地に到達した兵器であると言える。その圧倒的な弾速は軍艦に回避行動をさせる隙を与えることすらままならず、その貫通能力は当時開発されていたあらゆる軍艦、そして後世の軍艦の尽くを貫通するだけの莫大な能力があった。しかし貫通したところで威力は十分と言えず、徹甲榴弾を命中させたところで運よくサラミス級を大破させる程度の威力しかなかったのである。
 そしてその命中精度は最後まで足を引っ張り、20発発射して命中が1という結果はこの手の兵器の有効性に疑問符をつける結果となった。あくまで要塞防衛兵器として要塞の固定砲台として運用していればこの結果を覆せていた可能性は高い。
 しかしそれでも本当の決戦兵器たるソーラ・レイと比べれば威力の差は歴然としており、やはり決戦兵器としての能力はもはや火砲にはないということを決定的にしたにすぎない。

 結局ヨルムンガンドやウロボロスと言った決戦用大型火砲というのは所詮砲術屋の夢にすぎず、実際に運用する上では乗り越えるべき障壁が多いものであった。そしてその砲術屋の夢に付き合わされた彼らが口封じのために消される結果となったことは非常に残念と言わざるを得ない。

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