ジム_レーダー

駄作MS Mk.Ⅲ「RGM-79R ジム・レーダー」

戦場の目

 古来より戦争を優位に進めるために必要なことは複数挙げられているが、その中でも最も重要なことが情報の収集である。「彼を知り己を知れば百戦殆からず」とは孫氏の言葉であるが、戦争における情報と言うのは最も重要な要素と言っても差し支えない。 

 そして戦争が近代化していく中でその情報の重要性はさらに高まり、艦隊決戦における偵察と言うのは最も重要なことであった。艦隊決戦に至るまでに必要な準備、要した人員と莫大なコストすらもその情報如何によって一瞬で無為に帰すことにもなり得る。よって、「戦場の目」たりうる偵察機というのは昔から戦略的価値の非常に高い兵器だったのである。

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 ジオン公国はザク強行偵察型やザク・フリッパーと言った偵察用モビルスーツを開発し戦場に投入しているが、地球連邦宇宙軍においても新型兵器たるモビルスーツを偵察に運用し、来たる艦隊決戦、ジオン殲滅戦争において優位をとるべきとの意見が出た。これに基づき、偵察用モビルスーツ開発計画がスタートする。

TR.7/79計画

 連邦宇宙軍は今まで偵察機として戦闘機セイバーフィッシュを改装した偵察機「カモノハシ」を運用していたが、カモノハシの性能に不安を感じていた。そしてジオンが偵察型ザクを運用していることも把握しており、ここに新型偵察用モビルスーツ開発を計画した。これがTR.7/79計画である。

 このモビルスーツに要求された性能は以下の通りである。

・戦略偵察モビルスーツ
 主たる運用目的は艦隊決戦における偵察任務であり、強行偵察する能力を求める。それに加え、隠密性能を生かした戦略偵察機としての運用も求める。AWACS機としての運用も考慮する。

・連邦宇宙軍偵察隊が運用
 運用はあくまで連邦宇宙軍が担当することとする。よって地上における運用能力は必要とはしないが、汎用性も考慮してある程度の飛行能力があった方が良い。

・開発は民間企業に
 連邦本部は戦闘用モビルスーツの開発と生産で忙しく、新たに偵察用モビルスーツの開発をする余裕はない。よって開発は民間企業が担当することとし、生産数も多くを見込まない為生産も民間企業に任せるものとする。二足歩行技術などモビルスーツに必要な技術に関しては連邦軍側が提供する。

・可能な限りジムと部品を共有する
 ジムとの部品共有による生産性の向上と短期間での実戦投入ができるとありがたい。ただしあくまでこれは努力目標とする。

・被発見性を下げる
 敵に発見される可能性を下げることは必須。ただしその手法に関しては開発企業各自の企業努力による。

・武装は自己防衛用のみで可
 強力な武装の運用は前提とせず、自衛が可能な兵装のみで可だが、敵に発見された場合に前線を突破できる程度の能力は求める。

・偵察用装備はメーカーに任せる
 偵察用のそれぞれの装備に関してもメーカーごとの裁量の範囲としつつ、鹵獲したザク強行偵察型やザク・フリッパーの情報を提供するのでそれに対応した機体とする。

・機動力、速度
 ジオン軍モビルスーツと遭遇しても逃げ切ることが可能な機動力と速度、運動性を求める。

 この開発計画に参加を表明したのはモビルスーツ用の兵装などを生産していたヤシマ重工、モビルスーツ用のアンテナなどを生産していたSUZE社、そしてガンダムの通信機器などを生産していたマツム・ソニック社の3社であった。しかしヤシマ重工も目下多忙のためSUZE社との共同開発とし、実質2社の競争試作という形になった。
 マツム・ソニック社は光学機器大手のニッコル光器との協力をとり、新型偵察モビルスーツとして野心的な新規設計機を開発することを決定した。一方でSUZE社とヤシマ重工は既存の機体を改修した無難な機体を開発することで一致した。

 そうしてSUZE社製試作機の型番がRGM-79R、通称は「ジム・レーダー」であった。

RGM-79R1E1

 前述の通り、ジム・レーダーは既存のジムを改修することによってコストダウンと早期の戦力化を予定していたが、それに加えて考えられていたのは部品の互換性であった。つまりジム・レーダーの装備品を交換することで簡単にジムに換装することができ、戦闘にも運用可能な機体を目指していた。連邦の数少ないモビルスーツの配備数のなかで戦局は激しく動いており、何がなんでもモビルスーツの数を用意することが必要だった連邦にとって偵察用モビルスーツのために限られた艦載機の搭載数を割くわけには行かなかったのである。
 当初は既存のジムを換装することでジム・レーダーにもできる設計を目指していたがどうしてもそれは叶わず、ジムレーダーからジム装備への換装は可能だが通常型ジムとジムレーダーとの互換性は諦められた。ジムレーダー偵察機装備はA装備、ジムレーダー戦闘装備はB装備と呼称することとした。

 他にもジムレーダーは徹底した機能性の重視を目指していた。そもそもジム自体が機能性と生産性重視の機体であり、それを殺すことのない無難な機体が目標であったわけである。

 重要だった偵察・通信能力に関してはまずセンサー感度を向上させるため、ジムスナイパーカスタムのセンサーを流用し換装した。ジムのセンサー感度は半径6000mであったが、これにより7300mまで拡大することに成功した。これはザク強行偵察型と比べ倍以上のアンテナ感度を誇った。頭部左右にブレードアンテナが追加され、センサーの増強に伴いバルカン砲の撤去が行われている。
 バックパック右にはレーダーが追加され、アンテナとしてパラボラアンテナが搭載されている。これはブロック構造化されており簡単に取り外しが可能な構造で整備性も確保している。
 ザクフリッパーに搭載されていたミノフスキー粒子応用センサーを解析し、搭載した。これをバックパック左に搭載したが、急造品ゆえにザクフリッパーとことなりアンテナが乱立するという状態となった。これもまたブロック構造による整備性と換装を考慮した装備品である。
 連邦随一の光学機器メーカーニッコル光器がライバル機体の開発に参加していたため、光学機器の調達が間に合わなかった。よって光学機器に頼らない偵察能力の向上が最終的な目標となった。よってレーダー出力やミノフスキーセンサーの出力を向上させることでそれを穴埋めした。
 これらの装備品を無造作に搭載した背面バックパックはアンテナが乱立する様相を呈し、「雑木林」とも形容された。

 これらの機器の搭載によりジェネレーター出力は限界を迎えてビーム兵器の搭載は不可能となり、武装は実体弾のプルバップマシンガンのみとした。ジェネレーターの換装についても考慮されたものの、あくまでジムとの互換性を重視し、換装はしなかった。またビームサーベルの運用もバックパックがアンテナに占領されたこととジェネレーター出力の問題により撤去となり、近接戦闘能力を喪失することとなった。

 パイロットに関してもあくまでジムの改修機であり抜本的な改造ができない以上、複座での運用は諦めざるを得ず、単座機として開発された。

最初の挫折

 完成したRGM-79R1E1を運用テストした結果、多くの課題が見つかった。

・武装面の不安
 武装が手持ちのマシンガンしかない状況というのはかなり不安があるようで、特に近接装備を何一つ持たないということはテストパイロットからも不安の声が聞かれた。

・ブロック構造の問題
 アンテナ類をブロック構造化したことによる高い整備性や簡易な換装は優秀だったものの強度的な不安があり運動性と機動性に制約が加えられることとなった。

・飛行特性の悪化
 アンテナ等の追加による大気圏内飛行能力が大きく低下し、大気圏内での運用能力に大きく制約が加えられた。

・ステルス性能の悪化
 そもそもステルス性能を重視していないジムを改修した上、アンテナ類の乱立がステルス性能を大きく下げることとなった。これは軍からの仕様を満たしていなかった。

・パイロットの負担増
 単座システムを導入したことによるパイロットへの負担は大きなものがあり、特に強行偵察における運用に不安があった。偵察型セイバーフィッシュ「カモノハシ」においても複座であり、パイロットに機器運用のための転換訓練を受けさせる必要があった。

 これらの問題は大きな障害となった。特に機動性運動性の低下は著しく、重量増に加えてスラスター推力は据え置き、しかも運動性や機動性に制約が加えられた状態では強行偵察に用いる上で大きな不安となった。光学機器の貧弱さも見逃せず、レーダーとミノフスキーセンサーだけでは偵察能力に不安があった。その一方でミノフスキー粒子を応用したセンターに関しては評価が高く、実用化する価値ありと判断された。

 これを受けて地球連邦からの改善点として機体の複座化、強度の向上、運動性機動性の向上、武装の強化を要求された。SUZE社はこれに合わせてさらなる改良型を開発することとなる。

RGM-79R1E2

ジム・レーダー

RGM-79R1E2

 当初はジムの小改修機として開発されていたジムレーダーであったが、連邦からの要求を満たしつつも互換性を維持するということに限界を感じていたため、結果的には抜本的に改修することとなり互換性は大きく失われることとなった。

 まず武装の問題に関して、手持ち武器ではなく機体に内蔵する武器として左腕部にバルカン砲を追加した。このバルカン砲はジムやガンダムの頭部に搭載していたものと同じ60mmバルカンを改修し、発射速度を向上させたものである。当初はジムスナイパーカスタムに使われていた内蔵型ビームサーベルの搭載を考慮していたものの、ジェネレータ出力の問題から搭載を諦めた。これはあくまで近距離戦闘において格闘武器の代わりとして運用することが前提とされており、連射速度を高めることにより命中精度を下げたものの近距離での弾幕による攻撃力を重視した。
 複座化に関してもこれに対応し、直列の複座とした。これもジムとの互換性を失うこととなった。
 背部アンテナのブロック構造に関してもこれを諦め一体構造とし、強度を向上させた。強行偵察における激しい運動に対応するための補強は大きな重量増大を招いた上、整備性の悪化と互換性の悪化も招いた。そのほかにも機体の強度向上のための補強は重量増大を招くこととなった。
 機動性及び運動性の向上に関しては開発者を悩ませる問題であった。スラスターの換装は厳しい問題であり、換装してしまうと再設計し直す部分が増えてしまう。そのため既存のジムのスラスターをチューンして推力を向上させるという急場凌ぎの改装に留まり、重量軽減のため装甲を削った。

終わりのない泥濘

 こうして完成したRGM-79R1E2ジム・レーダーだったが、この機体をテストした結果は芳しいものではなかった。

 そもそも光学機器に関してジムと全く変わらないという部分が戦略偵察機としての運用能力に問題ありとされ、この機体をAWACS機や戦術偵察機としての運用に縛るものであり、カメラ性能の向上が果たせない以上は既存の偵察機を全て置き換えることができるマルチロール偵察機との要求を満たすことはできなかった。

 ステルス性能の低さは戦術偵察、強行偵察として運用する上での問題であった。機動性や運動性に関してもスラスターの改造は出力の安定性に問題を抱える結果となり、加えて根本的に出力不足であることは解決はできていなかった。出力の増強は赤外線放出量をいたずらに増やすこととなり、これもステルス性能の低下をもたらしていた。
 機動性運動性の向上を目指して装甲を薄くしたことで防御力が低下し耐弾性が低下した。これが強行偵察機として運用する上での障害となることは容易に想像できることであった。そして装甲を薄くした程度では根本的な問題の解決にはつながらなかった。

 ジムとの互換性が低下し、整備性が悪化したこともこの機体のメリットを失わせることとなった。当初の予定であったジムを小改修するだけで早期に戦力化させるという目標は結果として機体の改修が多岐にわたり、互換性において必ずしも優位とは言えない機体となった。また、機体のブロック構造によるジムへの換装も叶わぬものとなり汎用性を喪失した。

 これを受けSUZE社では機体各部へのプロペラントタンクの追加により稼働時間を延長しつつ、スラスターをガンダムのものに換装した上でさらにスラスターを増強し、装甲を通常型ジムと同程度まで戻すことによって強行偵察としての運用も可能にしたRGM-79R1E3を計画した。しかしこれによるさらなる重量増大は機体の各部の補強、特に足回りを重点的に補強することも必要としており、もはやジムと言えるのかどうか、早期の戦力化は可能なのかという問題はつきまとい続けた。

 おりから戦闘は激化し、偵察用モビルスーツの戦力化は急務であった中で開発が長引きそうなジム・レーダーはもはや連邦宇宙軍にとって重要な兵器ではなくなっていた。そしてSUZE社もヤシマ重工もそんなモビルスーツの開発よりも既存のモビルスーツ生産計画への協力の方が重要任務とされ、ジムレーダー開発計画の優先順位は下げられることとなった。これによりRGM-79R1E3ジムレーダー改の開発は遅々として進まず、完成したのは宇宙世紀0080年3月と戦争終結に間に合うことはなかった。

 当然戦争終結後に艦隊決戦が起こることは想定できず、すでに高性能な改良型ジムの開発が進み、量産が開始され、実戦配備されつつある状況で旧弊かつ簡易型ジムの改良機であるジムレーダーの評価試験を行う必要性はもはやなかった。そんな状況でジムレーダーはデータの収集をされたのみで不採用とされ、解体されることとなった。

 しかし彼もまた無意味ではなかった。ジムレーダーで使われたスラスター技術や重量を受け止めるショック・アブソーバー技術などはパワード・ジムに生かされることとなる。そんな歴史の影に埋もれた駄作機、ジム・レーダーのお話でした。

(ジムレーダーイラスト:もちろっく氏)

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