ガンタンク改

駄作MS Mk.Ⅰ「RX-75A3E2 ガンタンクジャンボ」

はじめに

 兵器の世界は広く、駄作兵器の世界は深い。宇宙世紀でモビルスーツという兵器の概念が現れ、ジオン連邦の双方がモビルスーツを大量に戦場に投入した。しかしそうして兵器の世界で新しい概念が登場した時、光を当てられる兵器の影にはいつも駄作兵器が生まれ、人知れず歴史の闇へと葬られていくのである。そう、ガンタンクジャンボもそういった兵器の一つだったのだ......。

開発経緯

 ミノフスキー粒子の発見とそれによるレーダーの無力化を見越しモビルスーツの開発に邁進していたジオンに対し、それに関する情報を入手していた地球連邦軍はモビルスーツの脅威に気づくことができず、従来型兵器を主体にした装備を転換することはなかった。
 しかし地球連邦陸軍はジオン製機動兵器に対抗するための装備として当時配備されていた61式戦車2型に対し、すでに旧式となっていた150mm榴弾砲用核砲弾A48を運用する対核装備への換装を実施し、これを61式戦車3型としてジャブロー防衛用戦力として一部に配備した。ジオン製機動兵器も核兵器であれば撃破可能であろう見込みによるものである。しかし、あくまでこれは既存兵器の流用であり、小口径核砲弾は製造コストは大きいものの威力が低く、コストパフォーマンスの低さが問題であった。
 そしてジオンがジャブローに侵攻してきた場合の対処計画の一つとして、核を中心とした兵器による迎撃システムの構築が構築され、そのためには61式戦車だけではなく新型MBTにおける核の運用が必要であると結論づけられた。

 当時地球連邦陸軍局兵器課は61式戦車の後継車両となるMBTの開発をしており、すでに一部がガンタンク初期型として配備されていた。ガンタンクは後に連邦軍初のモビルスーツとして採用されることとなる兵器であるが、次世代MBTの開発計画は後にRX計画に統合され、連邦宇宙軍や地上軍を統合した開発計画となり、地球連邦陸軍の手から離れることとなった。しかしその裏で戦術核兵器を運用する戦車の開発計画は地球連邦陸軍内部で極秘裏に進められており、ガンタンクをベースとして設計され、「RX-75A3E1ガンタンクジャンボ」と命名された。

 ガンタンクの両肩に装備されていた180mmキャノン砲は450mm多目的榴弾砲へと換装された。多目的榴弾砲というのは名ばかりで実際にはXA78核砲弾の運用がメインの砲である。61式戦車の150mm砲よりも口径が拡大したことにより核砲弾の威力は強化され、ジオン軍機動兵器に対しても十分な威力を持つでろうことが予想された。
 また、核兵器を運用するため対核装備を実装した。NBC兵器の下でも活動可能なように密閉構造とし、核の運用のために大幅な増加装甲を装備した。この増加装甲については貴重なルナチタニウム合金を利用できなかったため、通常のチタン合金で代用している。コアブロックシステムは高価であることと機体の構造が脆弱になるため廃止。ガンタンクでは頭部にあった砲手席も保護のため胸部のコクピットに移し、前後直列の複座とした。
 ガンタンクでは両腕に装備されていたガトリングであったが、ガンタンクジャンボの運用においては遠距離からジオン軍陣地に向けて核砲弾を乱打することが目的であり、自衛兵器が必要な距離で運用することを考慮されていないため、両腕にはマニピュレーターを装備することとなったが、当時はまだマニピュレーターの開発に苦しんでおり、手の大型化を招いてしまう結果となった。

 装甲の強化や榴弾砲の装備により機体の重量は拡大し、本体重量は56トンから75トンに、全備重量は100トンにも及ぶ大重量MSとなった。この重量増大を受け止めるためサスペンションの強化が行われ、接地圧を下げるために履帯両側にダックビルと呼ばれる装備を装着した。これにより最大速度は55km/hまで低下することとなった。また機体重量の増大によりスラスターの推力が不足しガンタンクにはできたジャンプ能力を失うこととなり、スラスターを撤去している。

 そして宇宙世紀0079年1月3日、ジオン公国は地球連邦に対し宣戦布告した。ジオンはザクに核を運用させ、連邦宇宙軍に対し大きな損害を与えた。これはモビルスーツに核を運用させるという戦術が正しいことを証明し、連邦陸軍はガンタンクジャンボの開発計画をさらに推進させることとなった。さらにジオンのモビルスーツが予想以上に高性能であったことから、「ザクキラー」足りうる兵器の開発が急務であった。

 しかし宇宙世紀0079年1月31日、地球連邦とジオン公国は南極条約を締結することとなった。南極条約の内容は以下の通りである。

1.大量破壊兵器の使用禁止
 NBC兵器の使用および大質量兵器使用の禁止
 核ミサイルの設計図の公開
2.特定地域および対象への攻撃禁止
 サイド6等の中立宣言地域での戦闘禁止
 グラナダを除く月面都市への攻撃禁止
 ヘリウム3を運搬する木星船団(木星エネルギー船団)への攻撃禁止
3,捕虜の待遇に関する取り決め
 階級による区別や食事・尋問方法など捕虜の取り扱いに関する事項

 これにより連邦ジオン双方で核兵器の運用が不可能となり、ガンタンクジャンボはその開発意義を失うこととなった。地上での走行試験を終えたのみのガンタンクジャンボは最低限の試験された後、無用の長物として眠ることとなった。

眠れる怪物

 ガンタンクジャンボはジャブローの地下で眠っていた。眠れる怪物たるガンタンクジャンボはそのまま眠り続けているはずだったのだ。しかしガンタンクジャンボ開発凍結の数ヶ月後、再びガンタンクジャンボの開発がスタートすることとなる。

 連邦陸軍のモビルスーツ運用データを分析した結果、射撃武器による攻撃はモビルスーツ を撃破するには不確実であり、近距離の近接武器による攻撃の方が確実にダメージを与えられ、撃破につながっていることが明らかになった。
 ここに至り友軍の砲撃支援とミノフスキー粒子による撹乱の下で敵の前線へ突撃し、近接武器で敵モビルスーツを撃破するという戦術が提案され、地球連邦陸軍もこれに開発許可を与えた。

 この任務を果たすためには敵の被弾に耐えられる重装甲が必要であった。またモビルスーツの二足歩行は被弾時に脆弱であるということが明らかになっており、二足歩行ではない移動方法が検討されコンベンショナルな履帯の利用が良いという結論に至った。また完全な新型モビルスーツの開発は部品の供給を阻害する可能性があり、あくまで既存のMSを改良して作るべきとした。
 これらの理由はガンタンクジャンボ開発班がそれらしい理由を付けただけで、所詮はボツモビルスーツを復活させたいというだけのものであった可能性が指摘されている。

 かくしてこの改良型の開発は宇宙世紀0079年8月に連邦軍の今後の対ジオン反抗作戦において大々的に投入することを目標に開発が開始した。
 この機体の型番はRX-75A3E2、名称はガンタンク突撃戦車と命名されたが、愛称は引き続きガンタンクジャンボであった。

ガンタンク改

RX-75A3E2 ガンタンクジャンボ

 近距離での攻撃用装備として開発されたビームサーベルはガンダム同様背面に装備された。基本構造はガンダムやジムに装備されたものと同じだが、ガンダムのビームサーベルの出力が0.38MWであったのに対し、こちらは0.5MWまで強化した。この特別なビームサーベルを運用するため、ビームサーベルと接続するマニピュレーター掌部の端子は特別なものとなり、他のモビルスーツの武装を流用することが事実上不可能となってしまった。またビームサーベルの装備によりジェネレーター出力が限界に至り、追加でビームライフルなどを装備することは不可能になってしまった。

 ビームサーベルを運用する上で両肩に装備した450mm多目的榴弾砲が邪魔となり、これは撤去されることとなった。
 またビームサーベルが運用不能な場合マニピュレーターを利用した格闘も考慮されている。RX-75A3E1時代からマニピュレーターの技術も向上しており小型化も可能だったが、格闘の威力が向上するため内部構造を新型に改めた上で大型マニピュレーターの構造を強化して装備している。

 RX-75A3E1時代は砲手席が必要だったが、射撃武器の廃止により砲手が不要となったため単座に改められている。

 榴弾砲の撤去等により若干機体重量は軽量化され、本体重量70トン、全備重量90トンになり最大速度も65km/hまで回復したが、依然重量オーバーと機動力の不足は否めなかった。

 かくして実際に運用テストを行い、地上走行テストはまずまず、モビルスーツとの模擬戦に関しても大型ビームサーベルの威力は絶大でモビルスーツを一撃で真っ二つにするだけの威力があり、開発部は万々歳でガンタンクジャンボの正式採用と量産化、そして実戦配備は間違いなく、来るオデッサ奪還作戦において大活躍は間違いないと思われた。

しかし......

大きな躓き

 RX-75A3E2ガンタンクジャンボは結果として不採用になり、再びジャブローの地下で眠ることとなった。その理由はいくつかある。

 そもそもこの機体はあまりにも重量が大きくなりすぎていたのである。本体重量70トン、全備重量90トンという重量はあまりにも大きすぎ、走行試験ののち運用テストとして鉄橋の走破を試したものの鉄橋を破壊する結果になり、泥濘地帯ではぬかるみにはまって行動不能となるなど、重量問題は機動性の大きな障害となっていた。これに対し開発部は増加装甲を着脱可能とすることで移動時は装甲を外して軽量化するという案を出したが、装甲の着脱に数時間を要するという有様で全く現実的でなかった。
 スラスターを排除したことによりこの機動力の問題は避けては通れない問題となった。ありとあらゆる障害を自分で走破しなければならなくなったのだ。
 さらにこの大重量は輸送に大きな問題を与えた。それは連邦軍で最も一般的に運用されていたミデア輸送機の輸送量が160トンしかないということである。つまりミデア輸送機にはガンタンクジャンボはフル装備状態で一機しか搭載することができず、1個小隊を展開させるためにはミデア4機が必要という効率の悪さなのである。
 ミデア輸送機で運ぶには重すぎて効率が悪く、自分で動くにしても通れる道が限られていて動けない。そもそも前線に持っていきたくても持っていけない兵器になってしまったのだ。

 さらに重量増大による機動力の低下は本機の運用に対して問題を提示していた。装甲はガンタンクと比べて大きく強化されたことで仮想敵であるザクの攻撃に十分耐えうることは明らかであったが、当時前線で確認されていたドムの攻撃に対しては十分でない可能性が指摘されていた。しかしこれ以上の装甲の強化は足回りの負担からもはや不可能であり、その場合新たに足回りを開発する必要があった。だがこれはもはや別機体の開発と言っても相違なく、実戦投入が大幅に遅れるため開発部としてもできない選択であった。
 また、もし敵にザクしかいなかったとしても機動力が低いガンタンクジャンボでは的になることは間違いなく、その場合履帯を破壊される可能性も大きい。よって、二足歩行でないというメリットはあまり大きくなく、そもそも敵に接近する前に行動不能となる可能性が濃厚であった。
 そして、もし敵に接近することができたとしてもザクがその機動性を生かして一撃をかわした場合、次の一撃を与えるためには履帯を使って方向転換をしなければならない。もし背後にでも回り込まれた場合、なす術なく撃破されるしかないのである。

 これらの問題を解決するため、RX-75A3E3として改めて450mm榴弾砲に換装した案を提示したが、すでに量産型ガンタンクが前線に投入されつつある現状で新たに砲撃支援用MSを開発する意義はなくペーパープランで却下、ついでRX-75A3E4としてマニピュレーターにジム系のものを流用して従来型の兵装を運用可能とした機体を提案したものの、そもそもガンタンクの履帯の機動力の低さとジェネレーター出力の不足を考えるとこれも現実的でなく、却下された。

 結果としてガンタンクジャンボはミノフスキー粒子下での戦闘というものがどういう形で行われるのかということがわからないという過渡期の中で、一種の実験台として作られただけのキワモノ兵器だったのである。

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