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相手の気持ちを分かったつもり

これもまたトラウマに近いものなのかもしれない。

まだ幼い頃、周りの大人たちはぼくを相手にしようとしなかった。

構ってくれることがなかったし、遊んでくれるなんてことなんてまずなかった。

子供なんて放っておいても勝手に育つだろうと考えていたのかもしれない。

が、ぼくあのとき誰もぼくの遊び相手になってくれなかったのを覚えている。

はっきりと記憶に残っているのは、昼ごろの日差しの高くなった時間に、仏壇のある和室で、布団が敷いたままになっている光景だ。

おそらく朝起きてから、ずっとひとりだったのだろう。

ぼくは手元に何かを持っていて、多分だが、友人がぼくにくれたおもちゃだった。

ぼくはそれを手に持ってひとりで空想の世界に閉じこもり遊んでいた。

空想の世界に閉じこもったというより、そうせざるを得なかった。幼いぼくにとって、外界という概念がなかったからだ。

何か間違いが起こってしまい、ぼくの住む世界が大人たちの暮らす世界に溶け込み、部分的に交わるようなことが起こってしまった。

ぼくは大人たちの暮らす世界に間違って入ってしまったのだ。ここはぼくが本来いるべき場所ではない。

すぐにでも抜け出すべきなのだろうと思った。

しかし、どうやったら大人たちの世界から抜け出せるのか分からなかった。

だがこれは、大人たちからすれば些細なことであり、自分たちの暮らす世界に入り込んできた子供のことなんて、どうでもよく感じているのだと思っていた。

これはひとつの間違いであり、時間が経てば解消されるようなものなのだ。

そう考えるようになっていた。

周りにいる大人たちの目に、ぼくという存在はまるで映っていないようだった。

子供らしい何かをすることで、大人たちがぼくに振り向いてくれるようなこともなかった。

例えば不機嫌になったとき、声をあげて泣いてみても、大人たちは怪訝な顔をするだけで、こちらを見ようともしなかった。

外でカラスが鳴いているのと同じような反応だった。ただうるさいだけの存在にしか思っていなかったのだろう。

泣き止むわけにもいかず、泣き続けて、そうしているうちに声を出さずに泣くことを覚えた。

面白いものを見つけると、両親に向かって笑顔を作って指をさし、面白いものを共有しようとしても、両親は少しも反応しなかった。

何かの感情に反応するということがないのだと思った。ぼくがいるこの部屋と、両親がいるそこの部屋では、全く別の時空が流れているようだった。

ぼくの感情は他人と共有できるものではないのだと知った。

安易に共感という言葉が使われる世界で、ぼくは共感という言葉がどれほどの強さを持つのか、あまりよくわからない。

ぼくの暮らす世界と、誰かの暮らす世界に重複が生まれたとき、それを共感と呼ぶのだろう。

しかし、ぼくの暮らす世界が、誰かのそれと交わったことなどない。

ぼくが今まで暮らしてきた世界は、おそらく独立して存在しており、幼い頃に両親の住む世界と交わったくらいで、それからは交わりを持っていない。

したがって共感というのは、この場合適切ではなく、あくまでも類似の現象が起こったと思い込んでいるだけである。

ぼくたちは心に目隠しをして生活している。

進化によって獲得した眼球によって、物としての人間は見えるようになっているが、精神を持つ生物としての人間は全く見えていない。

たまに漏れてくる光を頼りに、相手の気持ちを想像するしかない。

相手の書いた文章を読んで自分も同じ気持ちになってみたり、相手の表情から気持ちを想像して相手の身になってみたりするしかない。

だがそれでも、結局のところ相手の感情なんてものは全くわからない。分かるはずもない。

相手の気持ちがどのような形状をしているのかを理解するのは、そんなに簡単なことではないのだ。

相手の気持ちに同調してみて、分かったようなふりをするだけだ。心の奥深くで手をつなぐことなんて、目隠しをしているぼくたちにはできない。

人間はそもそも相手の気持ちが分からないようになっているのだ。

こちらの世界とそちらの世界では、全く異なった時間が流れているのだ。


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