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昼下がりの並木道 貴女と私の秘めごと

先日クリーニングから仕上がったばかりのスーツを、クローゼットから取り出す。着慣れないスーツのジャケットに袖を通し、髪をセットして、身なりを整える。
  
緊張のせいなのか、今朝からよく、深いため息をついている。なぜなら今日は、ネットで知り合った女性と初めて会う、一大イベントなのだ。その後、上手く行けば一緒にランチへ行く予定になっている。

鏡に映る、スーツ姿の自分を何度も確認する。

今までネットを通じて、誰かと会ったりした経験がないせいか、いまいち服装が解らず悩みに悩んだ末、結局スーツを選んでしまった。
今朝はやけに緊張して、ご飯があまり喉を通らなかったし、昨夜もあまり眠れていないせいか、目の下に薄く陰が出来ている。

出掛ける準備を整え、マンションの部屋から外へ出ると、空も晴れ春の陽気がとても気持ち良い。

何だか今日は、とても良い日になるような気がして、胸が躍った。

**

待ち合わせをしている駅の改札口辺りで、私は彼女を待っていた。
会う約束をする前に、メールにて顔写真で交換し合っているが、週末で駅は多くの人々が行き交い、とても混雑していた。

彼女も電車に乗って、こちらへ来ると言っていたが、少し遠方から訪れる為、混雑で道に迷わないかと心配になった。

彼女に連絡しようと、携帯をハンドバッグから取り出した、その時だった。

「あの……メールの方、ですか?」

背後から聞こえた可憐な女性の声に、一瞬緊張が走る。

振り返ると、そこには純白なワンピースを着た写真通りの素敵な女性が、こちらを優しげな表情で微笑んでいた。

「え……」

しかし、その彼女の右手に繋がれている幼い女の子を見て、私は言葉が詰まり、笑顔が固まった。

「え、えーと、すみません、その女の子は…」

戸惑いながら尋ねると、彼女は悲しそうな表情で少し俯いた。
暫く沈黙が続き、彼女は「実は…」と言葉を続けた。

「私、子供がいるんです。黙っていたんですけど、シングルマザー…なんです。今までの方は、会う前に子供がいますって伝えると、皆さん嫌がられたり、その場で帰られる人もいたりして……ごめんなさい」

涙ぐんだ声で、言葉を詰まらせる彼女を見て、私は胸を突き動かされていた。

彼女の手を、私はそっと優しく握った。

「私は嫌がったり、帰ったりしませんから大丈夫ですよ。」

そう力強く話す私に、彼女は俯いていた顔をゆっくりと上げ、優しく微笑んで私の瞳を真っ直ぐと見つめた。

「ママ~この人がママの好きって言ってた女の人~?」

女の子の不思議そうに尋ねる言葉に、彼女は頬を赤らめて恥ずかしそうに少し俯いた。

そんな彼女の姿に、私も胸の鼓動が高鳴り頬が火照ってしまう。
女の子は握っていた彼女の手を離し、こちらへ駆け寄ると小さく柔らかな手で私の手をぎゅっと掴んだ。

「じゃあ、ママの恋人になってくれる?」

そう言って、純粋な瞳で私を見つめる女の子を、私はしゃがんで優しくぎゅっと抱き締めた。

「もちろんだよ!素敵なママの恋人にならさせてくれて、ありがとう!」

「やったあ!ママよかったね!」

太陽のように輝く笑顔で、彼女にピースサインをする女の子に、彼女は満面の笑みで「ありがとう」と涙ぐんだ声で呟いた。

**

空に輝く陽の光が、昼下がりの並木道を明るく照らし、木々の葉が揺れるように煌めいている。
春風がそよぐ並木道を、女の子が真ん中を歩き、川の字のように三人で手を繋いで歩く。

「お昼何が食べたい?」

「ハンバーグー!」

私の質問に、女の子が瞳を輝かせながら大きな声で答えた。

「よーし、じゃあハンバーグ食べに行こうか!」

私は、女の子の声に明るく答えた。

「あの……ところで、なんでスーツ…なんですか?」

彼女が、私を見て微笑みながら尋ねる。

「あ、いや、実は、初めてだから何着ていいか全然わからなくて、あっごめんなさい、嫌…でしたか?」 
 
そう言って、私が照れ臭そうに笑った。

すると、彼女は恥ずかしげに少し俯きくと、小さな声で「素敵です…。」と呟いた。

彼女の言葉に優しげに微笑むと、彼女もまた私を見て、優しく微笑んでくれた。

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