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「この世に命を授かりもうして」を読んで

本書は2013年9月上旬に比叡山延暦寺一山長寿院にて行われた酒井雄哉(ゆうさい)氏に対するインタビューのまとめです。インタビューの時、氏は大病の静養中であり、同じ月の末に他界されました。

本書において、酒井氏はがんの病を患ってから、「生かされている」ということへの感謝を忘れていたことに気付いたと述べています。今まで元気過ぎたため自分の健康を過信して、自分の力で生きているような気になってしまっていたと。

私達の命は預かりものである。そして、

命のろうそくの火が燃え尽きるまで、一日一日を精いっぱい生きることが、この世に生を享けた者としての責任(P172)

であると述べられています。命の長さよりも、どう生きたかが大切。本書のタイトルにつながる問いかけだと思います。


人間は元気な時には病の兆候に気付かないものです。しかし酒井氏は、病気というのは目に見えないところでこっそり「悪さ」をするものだと言います。

病気ってのは、物語なんだ。突然ぽっと出てくるんじゃなくて、からだのどこかにひそんでいる時代もあれば、ちょっとジャブを打ってくる時代もある。(P42)

悪さが表に出る前に、先手を打つ必要があります。常に自分の体と向き合い、わずかなサインを見逃さないことが健康であるために重要です。


情報化社会の中、情報だけを頭に詰めてあたかも自分の知識かのように話をする人を「賢バカ」と批判します。
しかし普段の生活を振り返ると、往々にしてそのような知ったかぶりをしてしまう事が多い気がします。

「知識はつけるもの、知恵は磨くもの」

そのためには1人で静かに考える時間をつくり、自分自身の視点を養う事が重要であると本書で述べられています。


酒井氏は本書の中で人間の心理を鋭くついてきます。
例えば病気の人を見舞う時、やたらと「大丈夫?」と心配の声をかける人がいる。これは言葉では心配しているようで実は「大丈夫だよ」と言われて安心したいと思っているのだそうです。確かにそのような深層心理が働いているのかもしれません。相手の立場に立ち、そっとしておくのが一番であると氏は述べます。

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特攻隊員として終戦を迎えた酒井氏は、命に対する独自の考え方があるのだと思います。本書を読み、「生きること」の意味を考える一つのきっかけになりました。

最後にNHKのURLには動画も出ておりますので是非ご覧下さい。




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