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はじめて母娘になった日

近く、結婚をする。
しかも、コロナ禍で。
はじめ、母は、反対していた。

3ヶ月ぶりに会った母は、わたしをワクチン接種のクリニックに案内した。
その時は、まだ不機嫌そうだったが、定年してから、はじめて母の職場を見た。
7年働いているため、母はすでに、その職場でも信用を集めている。
さすがだな、と舌を巻く。

ワクチン接種が終り、翌日。
様子見もかねて、母が、わたしのアパートまで会いに来た。

会ってすぐ、彼の話になると、つまらなさそうにしていたが、わたしは、駄々をこねる母に慣れていた。

一緒に、蕎麦を食べて、甘いものを食べて、帰ろうとしていた母を、きれいな茶屋に案内した。

日頃の疲れを取ってもらおう、と、小一時間、美味しい抹茶や、お菓子を食べた。
母の機嫌は良くなって、一緒に家具を冷やかすことになった。

彼と決めた家具に、一緒に腰かけながら、はじめて母娘となる会話をした。

「あのさ、お母さん、トイレ周りどうしてた?わたし、跳ねっ返りが、気になって仕方がないの」

母は、久しぶりに屈託なく、笑った。

「拭き続けてたよ。座って、してもらえないの?」
「うーん、微妙に言いづらい。この速乾性のバスマットひけば良いかな?」
「そうだね」

その後、介護用の電動ベッドを楽しそうにいじるお母さん。
先まで、「挨拶も無しに、やることだけやろうなんて、縁切るか!」と、怒っていた同じ人とは思えない。

可笑しくなるくらい、どこまでも、母は、お母さんで、女性だった。

一度は、浮気をして、離婚したお母さん。
浮気相手に逃げられ、鬱になったお母さん。
それでも、ナースを続けてきたお母さん。
一昨年、乳癌の手術を終えたお母さん。
ようやく、借金を返しきるお母さん。

先々週、施設でコロナが出ても負けなかったお母さん。
娘が障がい者になり、嫁に行くのだけは、我慢できなかったお母さん。

ワクチンのおかげで、近づく人間関係もあるようで。
お嫁に行く娘の、トイレ周りの事情だけは、共通の悩みとして、笑いながら話せる、はじめて母娘のような会話。
女性にしか、わからない悩みごと。

冬の寒さがくるまえに、わたしは近く結婚をする。
厳格な母が、唯一、見せたお祝いの品は、今治のバスタオル。
わたしの好きなふかふかタオル。

あと、何回、母娘としての会話はできるだろうか。
ひとまず、夫にとっての登竜門は、父ではなく、母だった。
まったく、私たちは、愉快な家族である。


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