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THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術

THE RHETORIC
人生の武器としての伝える技術
著者 ジェイ・ハインリックス 

 子どもと一緒に勉強をしていると、つい「なんで分からないの?」とカッとなってしまい反省することが多いです。子どもに限らず、家庭でも職場でも、伝えたいことをうまく伝えられなかったり、相手をうまく説得できずににもどかしい思いをすることがあります。この本は、その「伝える技術」すなわちレトリックを教えてくれる本です。著者が子育てでレトリックを使ったシーンなども紹介されていて、楽しく読めます。


 私たちは、聞き手に同意や行動を促すことを目的として議論をします。攻撃を目的とする口論とは違います。なので、聞き手との間にある問題を解決する必要があります。そのためには、解決するための論点を見つけ出し、しっかりコントロールすることが重要だそうです。アリストテレスによると、話の論点は「非難」「価値」「選択」の3つに集約されるそうです。そして、その3つは時制によってコントロールできるそうです。過去形は「非難」、現在形は「価値」、未来形は「選択」時制です。例を見てみましょう。

妻:少し音を小さくしてくれない?
夫:最後に音量レベルを調整したのは君だったじゃないか?
妻:あら、そうだったかしら?じゃあ、今日の午後、『~』を大音量で聴いていたのは、いったい誰だったかしら?
夫:そうか、僕がかける音楽が気に入らないんだな。

この会話において、妻のゴールは静寂であり、夫に音量を下げることを「選択」させたかったはずです。しかし、次第に論点は、音量に関する「非難」に、そして音楽の趣味の「価値」へと変わってしまっています。ここで、時制をコントロールしてみましょう。

妻:少し音を小さくしてくれない?
夫:いいよ。ところでそれって、音量が大きいっていうこと?それとも音楽を変えてほしいってこと?

未来形を使って「選択」に議論をコントロールする努力をすれば、攻撃的な展開になることを防げるし、この先に自分の主張を出来る機会がありそうですね。


 また、相手の同意を得るためのレトリックとして、アリストテレスが提唱した最強の3つの術が挙げられています。

「エートス」語り手の人柄による説得・・・同じ価値観をもち、何が正しいことか知っているようにみえ、聞き手の利益を考えている、と聞き手にみせること。

「ロゴス」話の論理による説得・・・問題に対して、譲歩などによって、事実や価値観、意見を語り手に有利に働くように利用すること。

「パトス」聞き手の感情に訴える説得・・・聞き手の感情に関心を示し、共感することで、聞き手の気分を変えていくこと。

説得するためには聞き手との「共通認識を探し出す」ことが出発点になります。その上で、なるべく幅広い状況に当てはまるように「論点を定義」し、価値観ではなく「未来についての話をする」ことが重要なようです。スピーチが上手いことで有名なオバマ前大統領の2012年選挙活動中の言葉を例として見てみると、良く分かります。

「道義心のある人なら、富裕層への減税と、健康保険費や教育費の補助のどちらを選ぶべきか、迷うべくもないでしょう。私にはこの問題に真っ向から取り組む用意があります。」


 レトリックと言うと、政治家やメディアの詭弁の様なイメージがあり敬遠してました。実際にこの本でも、政治家が政敵を極端な主張とレッテル貼りしたり、セールスマンがロジックを弄して客を誘導する例が示されています。しかし、レトリックを勉強しておけば 、そういった悪意からも身を守れるばかりか、その奥深くに潜む真実を見つける手助けになりそうです。


 語り手と聞き手が同じ立ち位置から一緒に解決方法を探し、正しい議論をたくさん出来れば、家庭から社会まで正しい問題解決方法をたくさん見つけられそうですね。

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