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経営組織論と『経営の技法』#124

CHAPTER 6.1.1:組織文化の特性 ④従業員重視と⑤チーム重視
 4つ目に従業員重視とは、組織のメンバーに対する配慮が組織の意思決定においてどの程度なされるかということを指します。もちろん、さまざまな意思決定をする際に、組織メンバーに対する配慮がある場合には従業員重視となります。
 5つ目のチーム重視とは、仕事において個人単位ではなくチームでの活動を重視する傾向を指します。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』128頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 一見すると、従業員重視とチーム重視は矛盾するようにも見えます。個人の意見や感情よりも、チームでの活動を優先させるような場合、たとえば個人としては、会社にとってチャンスだからぜひチャレンジしたいと考えて、調査や資料作成を進めてきたのに、チームとしてはチャレンジしないことを決めた場合、しかもその際従業員個人の意見を聞く機会を十分設けなかったような場合には、従業員に対する配慮が小さいですから、④従業員重視の指標の評点は低くなり、反対に、⑤チーム重視の指標の評点は高くなります。
 けれども、ここで④従業員重視の意味は、「従業員の意見の採用」ではなく「従業員への配慮」とされています。結果的に従業員の意見が通らなくても、従業員に十分情報開示したり、意見をもらったりすれば、チームとして逆の結論になっても、④従業員重視の指標の評点は高くなるはずです。
 さらに、特にリスク管理の観点から見ると、少なくとも意思決定プロセスについては、ボトムアップ型が好ましくなります。というのも、十分検討することが経営判断の原則に合致し、リスクを低減することにつながりますから、現場の意見や専門的な知見から、チームリーダー(管理職者)の意見、さらに役員会の意見まで踏まえた意思決定プロセスを踏むことが重要となります。
 つまり、⑤チーム重視の観点から、チームのコンセンサスを取る過程で、④従業員重視の観点から、従業員の意見や知見を汲み上げて活用することが、チャレンジする意思決定にとって好ましいことになります。すなわち、少なくともリスクを取ってチャレンジする意思決定の過程では、④と⑤の両立がむしろ好まれるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 会社組織を使って「適切に」「儲ける」のが経営者のミッションです。
 市場での競争に勝つことが「儲ける」ことですが、この状況をスポーツ選手に例えましょう。そうすると、経営者はスポーツ選手の脳に該当しますが、そこでは、競技のスキル(市場で戦うスキル)だけでなく、競技に必要な筋力や運動能力を身につけなければなりません。むしろ、スポーツ選手は日ごろから食事と運動の内容をコントロールして体づくりに励んでいます。
 つまり、会社組織を作り上げていくことが経営者にとって重要な仕事であることがわかります。
 そのために、ここで検討しているような視点を指標として把握して使いこなせれば、より良い会社組織が作れると期待されます。

3.おわりに
 前回(#123)では、③結果志向という1つの指標の中で、結果とプロセスが対比されていたのに対し、今回は、④従業員重視と⑤チーム重視について、2つの別の指標としています。このことからも、④と⑤は両立する可能性が高く、しかも両立させることが期待されている、と言えるでしょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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