労働判例を読む#269

【エアースタジオ事件】東高判R2.9.3(労判1236.35)
(2021.7.8初掲載)

YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、いわゆる「下積み」だった元劇団員Xが、劇団Yの裏方業務や公演への出演(そのための稽古なども含む)について労働者であることを前提に賃金などの支払いを請求した事案です。1審は裏方業務についてだけ労働者性を認めましたが、2審はこれに加えて公演への出演についても労働者性を認めました。

1.判断枠組み
 判断枠組みは、1審2審で同じです。
 すなわち、指揮命令下にあるかどうかで決せられるとし、それは①Yの業務について諾否の自由があったかどうか、②時間的・場所的な拘束があったかどうか、③労務提供の対価が支払われていたかどうか、などを検討して決するとしています。
 抽象的な概念を認定するために、判断枠組みを定めて諸事情を整理する、という判断手法は、労働判例の中で確立した判断手法であり、ここでもそれが採用されたのです。
 そして、この判断枠組みは事案に応じて裁判官が比較的柔軟に設定します。
 例えば、国際A級ライセンスを有するバイクのテストドライバーの業務に関する労働者性が争われた『国・津山労基署長(住友ゴム工業)事件』(大地判R2.5.29労判1232.17)では、①労務提供の形態(指揮監督下にあるかどうか)として、具体的仕事の依頼、業務十字の指示等に対する諾否の自由、事業遂行上の指揮監督の有無、勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無、労務提供の代替性の有無を問題とし、②報酬の労務対価性と、最後に③労働者性の判断を補強する要素として、事業者性の有無、専属性の程度、その他の事情を問題としています。

2.公演への出演
 特に注目されるのは、1審と2審で評価が逆になった、公演への出演です。
 1審は、公演への出演を拒むことができた点を特に重視しています(①諾否の自由があった)が、2審は現実的にそれが困難であった点を重視しています。劇団に所属しながら、公演への出演要請を拒むことは「下積み」にとって考えられないことでしょうから、2審の判断も理解できるところです。
 けれども、ここでは上記「住友ゴム工業事件」との違いを検討します。
 というのも、「住友ゴム工業事件」は、テストドライバーは住友ゴム工業の依頼を断ることができたのにもかかわらず、テスト走行業務自体について労働者性を認めているからです。すなわち、諾否の自由があった場合でも労働者性が認められているのです。しかも、プロなのに「労働者」という、一見するとおかしな判断のように見えるのです。
 しかし、「住友ゴム工業事件」では、テスト走行業務を受けるかどうかの点では諾否の自由があったとしても、一度業務を引き受けた以上は、テスト走行の条件について住友ゴム工業の詳細な指示に忠実に従うことが要求されます。つまり、プロとして仕事を引き受けるかどうかを判断する自由があったとしても、一度引き受けた以上は指揮命令下にあるのです。
 このように見れば、本事案でもXが公演への出演を引き受けたのであれば、そのための稽古への参加や演出に従った演技などが強制され、指揮命令下にあると評価できますので、この点を重視することで労働者性を認定することが可能だったように思われます。

3.実務上のポイント
 労判1236.37以下の解説では、下積みかプロか、自己目的か他人目的か、によって評価が分かれるのではないか、という趣旨の分析が行われています。
 けれども、上記のようにXとYの関係一般論ではなく、公演への出演という特定の業務に絞って労働者性を検討すれば、労働者性に関し適切な判断が可能と思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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