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松下幸之助と『経営の技法』#171

8/4 人の組みあわせの妙

~平凡な人たちの集まりでも、組みあわせ次第で、非常な効果があがる。~

 人にはそれぞれに長所短所がある。だからその長所補いあうような組みあわせをすれば、それによってどちらもより生きてくるだろう。また、そのようにはっきりしたものでなく、何となくウマが合わないといった微妙な問題もある。もちろん、そういうものはそれぞれが努力してある程度は解消していくことが望ましいが、やはり人の組みあわせよろしきを得て、それをなくしていくことが大切であろう。実際世間にはそういう実例を見ることが多い。3人の人に仕事をさせていたが、それぞれに優秀な人なのにどうしてもうまくいかない。それで思い切って、その中の1人を他のところに移して2人でやらせてみたら、わずかの間でこれまでの倍以上の成果があがるようになり、その1人の人も、新しいところで非常な活躍をしている。そういったことが、お互いの経験の中に必ずあると思う。
 立派な人、賢い人ばかりを集めたからといって必ずしも物事がうまくいくとは限らない。反対に平凡な人たちでも組みあわせよろしきを得れば、非常な成果があがる。そうした人の組みあわせの妙というものを指導者は知らなくてはならないと思う。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 チームメンバー同士の相性が問題になるのはどのような場合でしょうか。経営モデルとの関係で考えてみましょう。
 まず、従業員に対して、経営者の指示や命令を忠実に遂行することだけを求めるモデルがあります。これは、組織の一体性を重視し、一丸となって動くことで、大きな突破力が期待されます。一部のワンマン会社やベンチャー企業に見受けられ、特に、ニッチな商品やサービスを普及させ、新たなマーケットを作り上げていくような場合に、効果的なようです。
 このような場合、チームメンバー同士の相性が問題になるのは、チームメンバーが共同して処理すべき業務を指示命令された時でしょう。お互いに経営者の指示や命令を忠実に遂行するだけですので、自分を抑えればある程度は我慢ができるかもしれませんが、逆に、それぞれの業務内容について裁量の余地がなく、仕事のやり方を工夫するなどの方法で折り合いをつけることは難しくなります。
 つまり、我慢できる範囲を超えてしまうと自分たちで調整することは難しく、経営者自身が調整に乗り出すべき状況になってしまいやすいのです。
 他方、松下幸之助氏が一貫して推奨するように、従業員の自主性や多様性を重視し、部門や従業員に権限をどんどん委譲していくモデルがあります。これは、経営者のキャパシティーを超えた経営を可能にしますので、市場の多様性にも、会社組織の大きさにも、企業の永続性にも対応できますから、規模の大きな会社では、相当程度、権限の委譲などが行われることになります。
 このような場合、チームメンバー同士の相性が問題になるのは、チーム自体やそのメンバーに、それぞれ相当程度の権限や裁量が与えられている場合でしょう。特に、自主性や多様性を重視する結果、仕事の方針や進め方で意見が対立することが、当然のことながら想定されるのです。
 けれども、松下幸之助氏が「それぞれが努力してある程度は解消していくことが望ましい」というように、自主性を重視して権限が委譲されているのですから、つまりそれぞれがプチ経営者なのですから、まずは自分で解決策を考え出してもらわなければなりません。そのことが、プチ経営者としての人材教育、OJTにもなるはずなのです。
 つまり、チームメンバー同士の相性の問題は、より早期に顕在化しますが、それは我慢するのではなく、自分達で解決する問題であり、経営者がメンバーの入れ替えなどの形で解決に乗り出すのは、少し後の段階になってのことでしょう。
 このように、チームメンバー同士の相性の問題については、経営モデルとの関係で、現れ方や解決方法が異なりうるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、人事は経営の中心課題であり、同時に、経営者が有する経営のためのツールでもあります。特に、経営組織も安定し、それが当たり前の状況になっている会社の場合には、経営者は組織に従業員を当てはめれば自動的に組織が動く、それに伴って従業員も自動的に仕事が与えられ、それをこなすようになる、というように見えるかもしれません。このような状況は、8/2の#169で、松下幸之助氏も懸念を示した状況です。
 けれども、従業員の働きが目的であって、会社組織は従業員に仕事を与え、その能力を引き出すための器であり、ツールでしかありません。器やツールに、人間を合わせて変形させることが目的ではなく、8/2の#169で検討したように、従業員の個性や適性に合わせて組織を変えていくか、ここで指摘されるように、どこか別の場所に従業員を移し、そこで活躍してもらう、という対応が必要となります。
 このように、経営者の資質としては、あくまでも従業員の働きが目的であって、会社組織はそのための器やツールでしかないことを理解していることが重要です。そうでなければ、従業員の扱いを誤ってしまうのです。

3.おわりに
 最初に、チームメンバー同士の相性の問題が、経営モデルとどのような関係になるのかについて検討したのは、これが科学的に当然の因果関係にあるという意味ではなく、一般的な傾向を分析するツールとして検討しました。チームメンバー同士の相性の問題が多数発生してしまう状況の場合、その解決策や対応策を検討しますが、それに先立って原因分析を行わなければなりません。我慢の限界を超えたパターンなのか、自分達で調整しようとしてできなかったパターンなのか、これが原因分析や対応策を検討する際の1つの手掛かりになれば、と思います。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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