労働判例を読む#274

【NOVA事件】名高判R2.10.23(労判1237.18)
(2021.7.21初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、英会話学校Yの英語講師Xらが、本来は労働者なのに労働者とされなかったことにより、年休や健康保険に関して不利益を被ったとして損害賠償を求めた事案です。
 裁判所は、1審2審共に、Xらの請求を概ね認めました。

1.判断枠組み
 労働者は「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」(労契法2条1項)であり、「使用され」とは指揮命令下の労務の提供、「賃金」は労働の対償を意味します。その判断枠組みとして一般的には、①仕事の依頼への諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的・場所的拘束性、④代替性、⑤報酬の算定・支払方法、⑥機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性、⑦専属性、等が示されています(菅野「労働法」12版183頁~、水町「詳解労働法」34頁~)。
 この事案では、❶業務遂行上の指揮監督(②)、❷具体的仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由(①)、❸勤務場所・勤務時間の拘束性(③)、❹報酬の労務対償性(⑤?)、❺専属性(⑦)によってXの主張を積極的に評価しました。そのほかにも、一審ではYの主張する事実として、❻業務委託契約と雇用契約の選択、➐雇用講師と委託講師の違い、❽レッスン場所やスケジュールの変更(但し、2審では削除)、❾報酬の雇用講師との比較、❿労務提供の代替性(④)、⓫Xらの陳述書が検討されています。二審では、❶に関して①~④に相当するような事情が検討され、❹に関して一審の判断を確認し、⓬その他の事情として❺❻が検討されています。
 しかも、❶~⓬に関して全てXの有利に認定しているわけではありません。
 例えば②に関し、1審ではテキストの使用、授業内容の指示、社内資格の取得、清掃などの作業、服装の指定などから指揮監督を認めていますが、2審ではこのうちの授業内容の指示や服装の指定について拘束がそれほど大きいものではないとしつつ、それでも雇用講師と同程度の拘束があり委託講師も雇用講師と実態が異ならない、と評価しています。さらに、2審ではレッスン時間の変更などの際に、諾否の自由があったかどうかがはっきりしないと認定し、この事実認定を前提に、一方で労働者性を肯定する事情とはできない(すなわちXに有利な事情ではない)としつつ、他方で労働者性を否定する事情でもない(すなわちXに不利な事情ではない)としています。
 このように、判断枠組みは事案に応じて柔軟に設定されるものであること、この全てが揃っているかどうかが問題になるのではなく、総合的に判断するのであって、上記「諾否の自由」の例のように判断枠組みに該当しない場合があっても全体として結果的に該当性が認定される場合のあること、が確認できます。

2.実務上のポイント
 Xらはいずれも英語を母国語とする外国人であり、Yでの処遇の様々なことへの不満が蓄積していたのでしょう。それぞれ、100数十万円の損害賠償を請求し、裁判所は10万円~20万円強の範囲で請求を認めました。
 契約文化の強い外国人だから、契約書に書けば文句は出ないはず、と考えていたのでしょうか。社会保険をYが負担しないことや年休がないことを契約書に記載してあったのですが、それでも裁判所はXらの請求の一部を認容しています。
 労働法は、強行法に関する部分については労働者の意思に関わらず労働者を保護するもので、この点は外国人であっても異なりません。契約万能ではないことを、再確認しましょう。


※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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