松下幸之助と『経営の技法』#8

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.2/23の金言
 先輩や同僚・部下、社外にも教えを請う。そしてわが腕にする、わが技術にする。

2.2/23の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 自分が専門にしている技術については、十年たてば一人前であるかどうか、それを自問自答してもらいたい。半分は先輩から教えてもらう、半分は部下から教えてもらう。その二つの教えを自分が消化して、自らそこにものを求めていく、わが腕にする、わが技術にするということがなくてはいけない。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 すなわち、経営者自身の問題として話されていますが、それは組織の問題でもありますので、会社組織がここでの指摘どおりに対応できるようになるためのポイントを検討しましょう。
 まず、リスクセンサー機能です。
 これは、いわゆる「成功は失敗のもと」と言われる問題です。なまじ成功してしまうと、感度が鈍ってしまい、失敗に繋がってしまう、という問題です。
 これを防ぐためには、会社組織が自らの優位性とその限界について、常に客観化し、自覚できていないといけません。もちろん、技術的な優位性の場合、技術面で優位性が崩れる時期の予測が立つ場合もありますから、その場合には技術担当者こそが、リスクに気づくべき立場にあります。
 しかし、同じ技術的な問題でも、思いがけない面からのブレークスルーがあるかもしれません。さらに、技術的な優位性ではなく、ビジネス上のアイディアや、ビジネス規模のメリットなどの優位性の場合にも、当初予想が悪い方向で裏切られる場合が考えられます。
 このような、自社の優位性が揺らぎかねない兆候は、もはや当該担当者だけでなく、全従業員がそれぞれの業務の担当領域の中で気づくべき兆候になります。会社全体が、このようなリスクに常に意識しているように、従業員の意識を高める施策が必要になるのです。
 次に、リスクコントロール機能です。
 ここでは、他者から学ぶことの重要性が強調されています。
 会社に例えれば、同業他社やベンチャー企業に教えを請うような方法でしょう。のどかな時代ではなく、簡単にノウハウを教えてもらえる可能性は低いでしょうが、特許などではない、単なるノウハウの類であれば、教えてもらえるかもしれません。
 これに対し、教えてもらえない可能性が高いのなら、そのノウハウをこっそりと盗んでしまえ、という発想が出るかもしれません。そして、ノウハウを大々的に公表しているような場合など、真似をしたからと言って直ちに法的なリスクが高まるわけでもありません。
 けれども、真似をすることが、ビジネス上の悪評に繋がる可能性もあります。少なくとも、真似されたことが不本意であれば、真似された会社の反感や敵意を招き、それが将来の競争環境の悪化につながるかもしれません。
 このようなビジネス上のリスクまで考慮すれば、松下幸之助氏が言うように、正面から正々堂々と教えを請う、という選択肢にも、一定の合理性が認められるのです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、ガバナンス上のコントロールとして、株主による「適切な」コントロールも期待されるべきです。
 これは、特に株主を代理して経営者をチェックすべき、社外取締役や独立取締役に関して問題になります。すなわち、近時、折角社外取締役や独立取締役を選任したものの、あまりにも会社事業に素人で、何の役にも立たない、むしろ有害ですらある、という意見が聞かれることが増えてきました。
 これは、上記スペイン国王とコロンブスの関係になぞらえて考えてみましょう。
 すなわち、コロンブスの判断を監督するために、スペイン国王がもう一人別の航海士を雇い、同じ船に乗せ、監査をさせる場合が、社外取締役や独立取締役の本来の役割となります。所有と経営を分離していて、投資家自身が経営に口出ししないからこそ、経営を良く知る専門家が、同じ専門家としてその業務を監査する(事後監査)のです。
 このように、会社が成功体験に自惚れて失敗しないように手綱を締めることが、投資家側に求められることになりますが、これは、社外取締役や独立取締役に、事業の専門性が理解できる人を充てる必要性に繋がるのです。

5.おわりに
 成功体験で自惚れて失敗しないように、例えば一つの商品でヒットした会社は、次のヒット商品の開発に懸命に取り組むのが、普通になってきました。一つ目のヒット商品が売れているうちだからこそ、二つ目の商品の認知度を高める効果が期待できます。一つ目の商品の人気が陰ってきてから二つ目の商品を売り込もうとしても、その段階では、一つ目の商品のときと同様の苦労が必要になってしまうのです。
 松下幸之助氏は、10年のスパンで見るべきである、と示唆しています。
 自分自身のキャリアだけでなく、会社経営上の問題としても、中長期的な視点での投資の重要性が理解できるはずです。
 どう思いますか?


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